異世界の満月の夜、月光を浴びた雌オークが人間の美女に変身して、イケメン勇者の王子と運命的な出会いをするラブロマンス
ねお
満月の草原で・・・
ブヒブヒブヒブヒ・・・
人里から離れた山奥に小さな集落があった。
集落にある掘っ建て小屋のような家々では、オーク達が豚のような鳴き声を上げている。
これは・・・その内の一軒の家にいる1匹の怠け者の雌オークの物語である。
その家には2匹の雌オークが暮らしていた。
1匹は母親、もう1匹は娘である。
※以下、オーク語を日本語に翻訳してお伝えします。
「あ~~暇だわ~。雄が来て種付けしてくんね~かな~」
「ブリンダ!あんたみたいな怠け者の雌に種付けしてくれる雄なんざいないんだよ!働きな!」
ごろ寝をして尻をボリボリと掻いている娘オークであるブリンダの戯言に、母オークは声を荒げる。
「え~~めんどくさいからヤダー。ったく、可愛いあたしに種付けもしてくんないなんて、この村の雄どもはろくでもないねぇ。あたしゃ涙が出るよ」
「涙が出るのはあたしの方だよ!この馬鹿娘が!ろくでもないのはあんただろうが!ちっとは隣の家のブリリンを見習いな!」
ブリリンは隣の家に住む村のアイドル的な雌オークである。
働き者で気配りのできるブリリンは、雄オーク達を惹きつけてやまなかった。
彼女の家には、毎晩多くの雄達が種付けに訪れている。
対して、ブリンダの家にはどの雄も寄ってこず、閑古鳥が鳴いていた。
ぶぅ~~~。
屁で返事をするブリンダ。
どんなに説教してもどこ吹く風のブリンダに対し、とうとう母親は本当に泣き出してしまうのだった。
そして、娘の愚痴をご近所さんに聞かせて慰めてもらうために、家を飛び出すのだった。
「あ~、めんどくさいから寝るか~・・・・ぐごごごご zzZZ」
そしてブリンダは3秒で寝てしまった。
母親が泣いて飛び出していったというのに薄情なものである。
だが、ブリンダは大きな過ちを犯していた。
ブリンダは窓際で寝ているが、今日はそこで寝るべきではなかったのだ。
なぜなら今日は、満月の日だったからである。
今までは母親が注意していたが、ブリンダに愛想を尽かした母親は、あえて起こさなかった。
少し懲らしめてやろうと思ったのである。
☆
「ん~~、よく寝たぁ」
ハイトーンの艶めかしい声が、ボロ小屋の窓際で発せられた。
そこには胸と腰に大きなボロ布が巻かれただけの、見事なプロポーションの肢体をさらしている美女がいた。
ブリンダである。
彼女は、窓から照らされている満月の光を浴びて、人間の美女に変身してしまっていた。
この村のオーク達は呪いによって満月の光を浴びると人間の姿になってしまうのだ。
さらに、変わるのは姿だけではない。
オークの時の記憶は朧げにありながらも、価値観や考え方などは全て人間になってしまう。
「きゃあああああああ!」
ブリンダは、家の中にいる母オークの姿を見て、驚いて逃げてしまうのだった。
か弱い人間の女性であれば、オークの姿を見たら逃げるか腰を抜かして動けなくなるかの2択である。
彼女は前者だったのだ。
そして彼女は、集落から逃げだし、満月の光の中、森をどんどん駆けていった。
☆
「ああ、なんて幻想的な景色なんだろう」
人里から近い平原地帯、そこに一人の旅人の男が立っていた。
彼は美しい満月と、月光に照らされて幻想的に光るこの草原に圧倒されていた。
まるで、この世とは思えないほどに美しい景色だった。
そして彼は、その幻想的な風景の中に立つ、人間の姿を発見する。
それを見た彼は一瞬で目を奪われてしまった。
一糸纏わぬ美しい肢体の女性が、その身を満月の下に晒していたのだ。
透き通るような白い肌は月光に照らされてキラキラと輝き、その金色の長髪はまるで上質な絹のように滑らかだ。
彼は吸い寄せられるように、その女性の元へ近づいていった。
・・・
ブリンダは息を切らしていた。
オークの集落から森を突っ切って、草原まで走って逃げてきたからだ。
「ああ、私・・・どうしよう。思わず逃げてしまったけど、よく考えたら朝まであそこにいるべきだったわ・・・」
一人後悔する彼女。だが、彼女が集落の外に出たのは初めてだ。
後悔したのはわずかな間で、それ以上に、目の前に広がる幻想的な風景に心を奪われていた。
満月の光を浴びてうっすらと光る草原。
草原の草たちは爽やかな夜風でさらさらと揺れている。
ブリンダは、火照る身体を涼しい夜風に慰めてもらいながら、満月を見上げていた。
その姿は、まるで芸術的な絵画のようだった。
そんな彼女は、自らに近づく、草を踏む足音に気づいたのだった。
「・・・・!誰!?」
咄嗟に振り向いた彼女は、3mほど先に立つ男性の姿を見た。
「きゃああ!!」
そして、すぐにしゃがみ込んで自らの身体を丸めた。
自分が一糸纏わぬ、全裸であることを思い出したからだ。
裸体を見知らぬ男性の前に晒すなど、今の彼女には考えられないことだった。
「驚かせてしまってすまない。君が女神のように美しかったから、気づいたら近づいてしまっていたんだ」
そう言って、男性は優しくブリンダに向けて話し始めた。
彼の名前はアルバート。隣国の第5王子で勇者だ。
勇者としての務めを果たすために、彼は色々な国を旅して、魔物達から人々を救っているのだという。
だから、決して乱暴なことはしない、と言った彼は、ブリンダの身体に自分が羽織っていたコートを被せた。
「あ、ありがとうございます・・・」
裸体を晒して少し冷えてしまっていた身体に被せられたコート。
そのコートは、彼の温もりが残っていて、彼女を温めてくれた。
そしてホッとした彼女は、彼・アルバートの顔を見たのだった。
・・・
お互いの顔を見た二人は、一瞬で恋に落ちた。
2人とも、お互いが理想とする異性の姿が目の前にあったからだ。
一目ぼれの相思相愛である。
そして二人は、草原で色々な話をしていった。
その結果、更に2人はお互いをどんどん好きになっていった。
少し食い違う話もあったが、些細なことだった。
相思相愛の二人が、幻想的な満月の夜の下で二人きりでいれば、その後の流れは自然なことだったのかもしれない。
二人は熱い夜を過ごしたのだった。
・・・
「ブリンダ、ごめん。乱暴なことはしない、と言ったのに・・・」
「ううん、いいのよ、アルバート。私は今、すごく幸せなのだから」
2人はお互い一糸纏わぬ姿で抱き合っていた。
彼らの下にはアルバートのコートがベッド代わりに敷かれている。
彼の逞しい腕に抱かれた彼女は、本当に幸せだった。
だが、いつまでも幸せは続かない。
もうすぐ、夜が明けようとしていたからだ。
ブリンダに掛けられていたシンデレラの魔法が、解けようとしている。
「アルバート、ごめんなさい。私、もう行かなくちゃ」
そう言って、立ち上がろうとした彼女の手を、彼が掴む。
「ブリンダ、僕と一緒に来て欲しい。僕は君とずっと一緒に生きていきたいんだ」
その彼の言葉に、彼女は瞳を潤ませた。
彼の情熱的な瞳が肌に突き刺さる。
「アルバート、ダメなの。私は、満月の夜にしか、あなたに逢うことはできないの。だから・・・お願い・・・」
「・・・そうか。わかったよ。じゃあ次の満月の夜も僕と逢って欲しい」
「アルバート・・・わかったわ。約束する」
彼女の並々ならぬ様子に、彼も折れた。
そして、再開を約束した二人は、最後に誓いの口づけをするのだった。
その口づけは、どんな蜜よりも甘く、どんな悲劇よりも悲しい味だった。
☆
※以下、オーク語を日本語に翻訳してお伝えします。
「ってことがあったんだよぉ・・・」
オーク姿に戻ったブリンダは、吐きそうな様子で母オークに昨夜の出来事を語ったのだった。
実際に先ほどから何度も吐いていた。
あの後ブリンダは走ってオークの集落まで帰ってきていた。
集落に戻る頃には、夜が明けてオークの姿に戻っていたのだ。
そして、自宅の掘っ建て小屋に戻ってきた彼女は、いびきをかいて寝ていた母親を叩き起こし、昨夜の出来事を語ったのだ。
母親は涙を流していた。
娘が無事に帰ってきたから・・・ではない。
腹を押さえて大笑いした結果、涙が出たのだ。
「いーーひっひっひ!は、腹が痛いwwwた、種猿とワンナイトラブとかwwwwし、しかもその種猿が、ゆ、勇者で、お、王子とかwwwww」
こんな調子で一人で爆笑していた。
ちなみに、種猿というのは人間の男の事である。
雄オークから種付けされなかった雌オークが、子供を作るために人間の男を襲って種を貰うことがあることから、そう呼ばれている。
種猿と交配して種を貰うなど、雌オークにとっては屈辱以外の何物でもなかった。
だからブリンダは、昨夜の事を思い出して吐いたのだ。
「そ、そんでwww最後に再会の誓いのキスとかwwwヒーーヒッヒッヒwwwwwww」
母親はなおも爆笑していた。
笑い過ぎてゲホゲホと苦しそうに咳をしていた。
咳込んだ後も、引き続き笑っていた。
娘と種猿のラブロマンスは、母親の笑いのツボにドハマリしていた。
「お、おまえwww次の満月の夜も会ってこいよwww種猿の王子様から、いっぱい種もらってきなwwww」
母親に爆笑されて怒りに身を震わせていたブリンダだったが「どうせ雄オークからは種もらえないんだからwww」という母親の最後の言葉に、怒りを爆発させた。
この日、オークの集落にある一軒の家が、1匹の暴走する雌オークによって崩壊した。
異世界の満月の夜、月光を浴びた雌オークが人間の美女に変身して、イケメン勇者の王子と運命的な出会いをするラブロマンス ねお @neo1108
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます