第181話:消えた村人⑦
「手伝ってほしいことですか?」
フィーネはキョトンとした表情で振り向いた。
「うん。丁度いいタイミングだと思ってさ。これも練習だと思ってやってみないか?」
「よく分かりませんけど、私がお役に立てることならやります」
覚えたてのスキルを使う場面がいきなりやってくるとはな。何が起こるか分からないもんだ。
「フィーネはブレッシングのスキルは習得したんだよな?」
「はい。もう使えますよ」
「ならそれをあの女神……ルアとやらに使ってほしいんだ」
「ブレッシングをですか? いいですけど、何かあるんですか?」
「説明は後だ。すぐにやってくれ。皆が行ってしまう」
ルアは既に動き出していて、それに付いていこうとして他の人達も動き出している。
このままだと置いてきぼりにされてしまう。
「は、はい。やってみます」
フィーネはルアが居る方向に杖を突き出し、スキルを発動させた。
「いきます…………《ブレッシング》!」
するとスキルが発動し、ブレッシングのスキルエフェクトがルアの体を包んだ。
だが次の瞬間――
「……ッッッ!? ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ルアは突然苦しみながら動きが止まった。
「!? ど、どうした!?」
「な、何が起きたんだ!?」
「モンスターの攻撃か!?」
ルアの動きが止まり、その場に立ち止まった。
その光景を見た周囲の人々もざわめき始める。
「ちょ、ちょっとフィーネ!? 今のフィーネの仕業よね!? いきなりどうしたのよ!?」
「え、あ、いや、これはゼストさんに言われて……」
状況を把握しつつあるのか、前方を歩いていたカッツェが俺達の方向に振り向く。
「お、おい! お前ら何してるんだ!? どうしていきなり攻撃したんだ!?」
「こ、攻撃じゃなくて……今のは支援スキルで……」
「あー悪い。今のは俺が指示したんだ。俺がフィーネに頼んだ」
「なっ……」
言った瞬間、周囲の視線が俺に集まった。
「支援スキルだと!? 嘘をつくな! だったらどうして女神は苦しそうにしてるんだ!?」
「いきなりで悪かったよ。でもこの状況を納得させるのはこれしかないと思ってさ」
「な、何を言っているんだ? 説明しろ!」
「全部含めて説明するから少し待っててほしい。その前に……」
俺はルアに向かい少し近づくことにした。
ルアは苦しそうにしていたが、近づくと俺を睨むように険しい表情を向けてきた。
「な、何ですか貴方は……? 今のは貴方の仕業ですね!? どうしてこのようなことをしたんですか?」
「ルアとやら。いくつか聞きたいことがあるんだ」
「その前に説明しなさい。どうして私を苦しめようとしたんですか!?」
「だから全部話すってば。まずはこっちの質問に応えてくれたらね」
「……いいでしょう。ですが納得できるような内容では無かった場合、相応の覚悟はしてもらいますよ?」
「ああいいよ」
全員の視線が俺の集中する。
それから一呼吸置き、ルアに向かって話始めた。
「まずは村人の安否についてだ。安全な場所に居るんだっけ?」
「はい。私の独断ではありますが、モンスターが近づけない安全な場所に避難させています。それがどうかしましたか?」
「いつからだ? いつから避難させたんだ? 少なくとも2、3日前とかじゃないよな?」
ここに来るまでにそれなり日が経っている。
恐らくは1ヵ月ぐらいは経っているはずだ。
「……20日ぐらいでしょうか。もしかしたらそれ以上かもしれません。それがどうかしましたか?」
「どうしてそんなに長引いたんだ? そんなに長引くならいくら安全な場所とはいえ、村人も疲弊するはずだ。食料だって枯渇するだろうし」
「ですから邪悪の化身がいつ復活するのか不明だったんですよ。なるべく早く避難させようとしたまでです。食料だって心配ありませんよ」
「ふ~ん」
邪悪の化身ねぇ……
「じゃあ次の質問。村に訪れた冒険者はどうした? 俺達より前にも冒険者がやってきたはずだ。そいつらはどこに行ったんだ?」
「………………ああ。そのことですか。安心してください。彼らも村人と一緒に居ますよ」
「それはおかしいな。その人達も俺達と一緒で依頼されて来たんだ。どうして村人と一緒に避難してるんだ?」
「ですからこの村は危険だと説明したはずです。巻き込みたく無かったんですよ」
「だったら尚更おかしい。その人達は村の調査でここに来たんだ。村の防衛をしに来たわけじゃない。そういう状況だと判明したのならすぐに冒険者ギルドへ報告に向かうはずだ」
「…………」
そう。消えたのは村人だけじゃない。俺達より前に依頼された冒険者も行方不明になっているんだ。
依頼されてきたんだからわざわざ村の事情に付き合う義理は無い。依頼を優先するなら冒険者ギルドへ報告しに戻るはずなんだ。
「どうした? 答えないのか?」
「…………それも私も独断です。帰りも危険だと判断したままです。帰り道で危険に遭遇するかもしれませんからね」
「そんなの今更だな。危険を承知でここまで来たんだ。その程度でビビるような冒険者じゃないはずだ。すぐにでも帰ろうとしたはず。それをあんたが無理に引き留めたんじゃないのか?」
「それについては申し訳ありません。なるべく犠牲者を出したくなかっただけなんです。全ては私の責任です」
「へぇ~……」
多少強引ではあるが、一応は筋は通っていなくもない。
まぁここを責めてもあまり意味ないか。
「もうよろしいですか? そろそろ話してください。なぜ先程あのようなことをしたのか」
「そうだな。なら説明するか。さっきのスキルついて話そう。フィーネが使ったのは〝ブレッシング〟というバフスキルなんだ。これは一時的にステータスが上昇するバフ効果があるんだ」
「それと何の関係が?」
「この効果は基本的に誰にでも適応される。例えモンスター相手だろうが効果はある。だが二種類だけ例外がある」
これが一番知りたかった目的。だからブレッシングを利用した。
「それは『不死族』と『悪魔族』だ。この二種類相手だと逆に作用してしまう。つまりバフではなくデバフになってしまうんだ。面白い性能してるだろ?」
「………………」
「もう言いたいことは分かるよな? お前は女神なんかじゃない」
ルアを指差して大声で叫ぶ。
「お前の正体は…………
「……!!」
周囲の人達は一瞬ポカンとしていたが、すぐにざわめき始めた。
ラピスも混乱した様子で近づいてきた。
「あ、悪魔? あそこに居るのって悪魔なの!?」
「ああそうだ。見た目に騙されるなよ。天使でも女神でもない。れっきとしたルアマーラという名の悪魔だ」
「そ、そうなんですか!? ゼストさんは正体を見破るためにスキルを使わせたんですね!」
「まぁな。けど所詮はバフスキル。デバフとして作用しようがダメージは無い。それだと平静を装うことも難しくは無い。だから不意打ちでやりたかったんだ」
「そういうことだったんですね」
いきなりバフスキルを使ってもビックリすることはあっても苦しむことは無いはずだしな。
宣言してからやっても使う意味が無い。
「………………………………」
ルアも俺を見つめながら黙ったまままだ。
さすがにこれは予想外だったようだな。
「……………………突然何を言い出すと思えば悪魔扱いですか。天使だと言われたことはありますが、悪魔だと勘違いされたことは一度もありませんよ。いくらなんでも意地悪がすぎませんか?」
ふーん。まだ認めないと。
往生際が悪いな。
「だったらどうしてブレッシングを使っただけで苦しんだんだ? 本当に違うのならあんなオーバーリアクションはしないはずだ。少なくともバフスキルをかけれた奴の反応ではねーよな?」
「と、突然のことに驚いただけです。いきなりあんなことされたら誰でも驚くはずです」
「驚いたにしては随分と苦しそうにしてたよな? バフスキルであんな苦しそうにしてた奴は初めて見るんだよな。不死族と悪魔族を除けばだけど」
「まさかそれだけで悪魔だと認定したのですか? いくらなんでも酷すぎます。私だって悪魔と言われたら傷つくんです。ここまで侮辱されて許せるほど寛大ではありませんよ? どうやら貴方にはお仕置きが必要なようですね……!」
本当に往生際が悪いな。まーだ認めないのか。
「だったらもう一度ブレッシングをお前に使ってもいいよな? 事前にスキルを使うと分かっているんだから驚くことは無いはず。まさか二度も驚くなんてアホなことはしないよな?」
「……!」
「一応言っておくが、ブレッシング以外にも悪魔特攻のスキルはあるからな? そっちも試させてもらおうか。悪魔じゃないってんなら拒否するはずないよなぁ?」
「………………」
この場の居る全員がルアに視線を集中させていた。
ルアは黙ったまま動かず、この場に居る人々をキョロキョロと視線を動かしていた。
誰も言葉を発せず、ルアが喋り出すのを待っていた。
しばらくそんな状態が続いていたが……
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………ふ……ふふ…………ははは……まさか……私のことを知っている奴が居るとはな」
そこにはさっきまでの女神のような雰囲気は無くなっていた。
ギロリと見下したような表情で俺達を睨むルア――いや、ルアマーラの姿があった。
転生してLv1になったけどスキルや装備を引き継いだので最強です ~誰も知らない知識で異世界無双~ 功刀 @kunugi_0
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