第180話:消えた村人⑥

 突然に大声に全員が驚く。声がした方向を見ると、ショーンが慌てて走ってくる姿が見えた。


「ど、どうしたのかしら?」

「まさかモンスターが攻めてきたのか!?」

「! なら私達も動きましょう!」


 俺達は武器を取ってすぐに立ち上がる。

 それと同時にショーンが近くで立ち止まり、息を荒くしながら話始めた。


「た、大変なんだ!」

「何があった? モンスターが現れたのか!?」

「ち、違うんだ! モンスターじゃない! モンスターなんかよりもすごいのが現れたんだよ!! とんでもなく綺麗で大きくて見たこと無いような美人が来たんだ!!」

「……は?」


 何言ってんだこいつは……


「まさか美人を見ただけでそんなに取り乱してるのか?」

「ち、違う! いや違わないけど違うんだ! とにかくとんでもない美人が来たんだよ!!」

「はぁ……」


 さっきまでの緊張感が無くなり一気に冷めた空気になるのが分かる。

 ラピスもフィーネも軽蔑が混じったような目でショーンを見てるし、リリィも興味なさそうな表情になっている。


「あのなぁ。美人が訪れただけでそんなに慌てるなよ。てっきりモンスターの襲撃かと思ったんだぞ。というかその人って村人だったりしないのか?」

「違う! あの人は村人なんかじゃない! あんな格好の村人なんているもんか! 女神……そう、女神がやってきたんだよ!」

「…………」


 思わずこめかみに手を当ててしまう。

 俺は何を聞かされてきるんだろう……


「別のお前の好みにどうこう言うつもりはないけど、さすがに女神ってのは言い過ぎだろ」

「だからあんな綺麗な人は見たこと無いっての! 女神みたいな恰好しているし! しかも宙に浮いているんだぜ!?」

「浮いている……? なんだそりゃ。それを早く言えよ」

「す、すまん。言い忘れてた! オレだっていきなりのことで混乱してるんだ! とにかく来てくれ! 他の連中も一緒に付いてきてほしいんだ!」

「わ、分かったよ。そこまで言われた気になるし行くよ」


 ここまで言われるとさすがに気になってくる。直接確認したほうがいいな。

 さて何が出ることやら……




 あれからショーンは他の人も呼んで集め、女神とやらが居る場所へと急いだ。

 ショーンを追って走っていると、前方には目を引く大きな人の姿があった。


「な、なにあれ……」

「人が浮いていますよ!?」

「おー。すげー」


 近づいていくと周囲もざわめき始めた。どうやらカッツェ達も俺達とほぼ同時に到着したみたいだ。


「こ、これは一体……」

「ど、どうなってやがる!? あんたは何者なんだ!?」

「綺麗だ……」


 宙に浮いているそいつは俺達を一通り眺めた後、ゆっくりと話始めた。


「すみません。驚かせしまいましたね」

「……!?」


 声が聞こえると同時に、一瞬でざわめきが収まった。


「あ、あんたは一体何者なんだ……!?」

「私はこの地を治める女神……〝ルア〟と言います。突然の訪問をお許しください。すぐに伝えなければと思い急いで参りました」


 ルアと名乗ったそいつはそういって頭を下げた。

 そんな姿を見てからかショーンが俺の肩を叩いてきた。


「な? な? 本当に居ただろ!? 女神だっただろ!? 嘘じゃなかっただろ!?」

「あ、ああ……マジだったんだな……」

「だろ? 女神としか言いようがないだろ!?」

「まぁな。疑って悪かったよ」


 ルアは普通の人よりも倍以上大きい人型をしており、気品溢れる衣装をまとっていた。その衣装からはキラキラときらめきが見えてしまいそうなほどだった。

 それを着ている本人も衣装に負けないほどの美人だった。これは確かに女神だと表現してしまうのも納得だ。


「綺麗ね……」

「うん……」


 ラピスもフィーネもルアの美しさに目を奪われていた。リリィは驚きはしているもの反応は薄かった。

 その場にいる全員が動かずに見惚れていると、カッツェが前に出てルアに向かって話しかける。


「我々はチェスタ村の調査をしにきた冒険者だ。今はオレがリーダーを務めている。ここに居るのはチェスタ村の住人ではないが、よければ何があったのか教えてもらえないだろうか。この村に到着した時には既に村人が居なくなっていたんだ」

「そのことで大事な事を伝えに来ました。実はこの村には危機が迫っているのです」

「危機……?」

「はい。この地にはとてつもなく強力な邪悪の化身が眠っています」

「な、なんだと……!?」


 邪悪の化身……?


「その化身は近いうちに目覚めて復活するはずです。そして復活したら最後。周囲にいる生物を手当たり次第に皆殺しにするでしょう」

「そ、そんな恐ろしい化け物がいるのか……! だったら全員で協力すれば倒せないのか? 冒険者ギルドに戻って腕利きの連中を集めれば……」

「今の貴方達では太刀打ちできません。それどころか、国中の戦力を集めても厳しいでしょう」

「なっ……そこまで強いのか……!」


 国が全力を出しても倒せないモンスター……?

 ひょっとして……いやまさか……


「私には戦える力はありません。ですからせめて巻き込まれないようにと、村の人達を避難させることにしました。この村が一番危険だと判断したので、私が立ち寄ったのです」

「そうだったのか……。村人が居なくなったのはあなたが連れ去ったのが原因だったのか……」

「勝手なことをして申し訳ございません。ですが邪悪の化身が復活するのを監視しつつ、人々を守るにはこうするしかないと思いました……」


 なるほどなぁ。全部こいつのせいだったのか。これで色々な謎が解けたよ。

 料理途中で放置していた家もこれのせいだったんだな。いきなりこんな女神みたいな存在が現れたんだ。そりゃ料理なんてしてる場合じゃないわな。


 村に何も痕跡が無かったのも納得だ。そもそも痕跡が残るような出来事が無かったわけだしな。

 自らの意志で村を出て行ったんだから、そんなもの残るはずがないもんな。


 結果的にはリリィの仮説が一番近かった気がする。

 リリィは強力なモンスターを狩るために総出で出て行ったとか言ってたな。さすがに動機は間違っていたが、『全員が自らの意志で出て行った』という点では的中していたってことになるな。


「皆様もここに居ては危険です。私が安全な場所まで案内しましょう」

「安全な場所ってもしかして……」

「はい。村の人達もそこに居ます。もちろん全員無事です。ですが不安な様子で元気がありません。皆様が励まして頂けないでしょうか?」

「それくらいなら任せてくれ! 冒険者ギルドにも報告せねばならんからな。直接会って話がしたかったんだ」


 ……………………


「ではお願いします。私の後に付いてきてください」


 そういってゆっくりと背を向けて動き出すルア。

 ルアの出現に全員が驚いて固まっていたが、カッツェが動いてくれたお陰で全員の緊張が解けたようだ。

 今は和やかな雰囲気で会話が聞こえてくる。


「まさかあんな綺麗な人が出てくるとはな……」

「いや人じゃなくて女神だって言ってただろ」

「そういやそうだったな! でも美人で綺麗だよなぁ……」

「だよな。本当に女神に出会えるとはなぁ……」

「この依頼引き受けて大正解だったぜ」


 全員がそんな会話をしつつ、ルアの後を追うべく動き出した。


 ……………………


 さて……どうすっかな……

 このまま放置するわけにはいかないし、のんびりしてる暇は無いよな……


 う~ん…………


 あっ。そうだ。


「なぁフィーネ。ちょっと手伝ってくれないか?」

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