第179話:消えた村人⑤

「それじゃあラピスのスキルから見ていくか」

「お願いね」


 ラピスの隣に座ると、冒険者カードを差し出してきた。


「ふーむ。それなりスキルが増えてきたな。とりあえず細かいやつから取っていくか」


 ステータス上昇系、弓の威力上昇系のスキルを取っていく。こういうのは火力に直結するし取って損は無いスキルだ。

 後は……


「そうだな……スプレッドポイントも習得しておくか。今のラピスなら使いこなせそうだし」

「どういうスキルなの?」

「こいつは矢が刺さった地点を中心に敵を吹き飛ばすスキルだ。グラビポイントの逆バージョンみたいなもんだ。あれは敵を引き寄せる効果だったが、こっちはその逆で吹き飛ばしてしまうんだ」

「へぇ~。そんなスキルもあったのね」


 弓はこういった敵を妨害するようなスキルが多い。

 火力は前衛や杖に劣りがちではあるが、このようなスキルで前衛を援護する動きができる。例え前衛が居なくてもスキルを上手く使えば有利に動ける。


「スプレッドポイントはダメージはあまりない。あくまで敵を吹き飛ばすことを目的としたスキルなんだ。前にも言ったと思うが、この手のスキルはどんな状況でも使えるほど万能ではない。けどこういったのを上手く使いこなすことが大事だ」

「そうね。使える選択肢が多いほど色々な状況に対応しやすいものね。頑張って使いこなしてみるわ」

「ちなみに弱点もグラビポイントと同じだ。大型モンスターには効果が薄いから注意してくれ」

「覚えておくわ。ありがと!」


 ラピスはこれくらいでいいだろう。もう少し熟練度が溜まるまではこのままでもいけるはず。

 後は本人の立ち回りの問題だからな。ひたすら数をこなすしかない。


「次はフィーネだな」

「はい。お願いします」


 立ち上がってからフィーネの隣まで移動。差し出してきた冒険者カードを確認する。


「ん~……杖系統のスキルは難しいんだよな……」

「スキルが豊富で迷いやすいんですか?」

「そうだ。習得可能なスキル自体は沢山ある。けどプレイスタイルによって使うスキルが全然違うからな。一番個人差が出るのが杖系統なんだ」


 やろうと思えばどんなスタイルにもできるからな。

 自由が多い分、難易度も高い。それが逆に面白いと思う人もいるんだけどね。


「フィーネは今のスタイルでもやっていけそうか?」

「そうですね。攻撃も出来ますし、お姉ちゃんのサポートも出来るので気に入っています。ですから私に向いていると思います」

「そっか。ならその方向で進めてみるか」


 フィーネは火力兼支援といったスキル構成になりつつある。本人もそれで不満は無いようだし、プレイスタイルは固まりつつある。

 それなら欲しいスキルも自然と絞れてくるし、本人にとってもやりやすいだろう。

 となると……


「ふーむ…………それなら…………これにするか。アイスアローというスキルを習得してくれ」

「このスキルも強いんですか?」

「いや別に強くは無い。アイスアローはざっくり言ってしまうと、ファイヤーアローの氷版って感じだ。威力も性能も似ている」

「そうなんですね。つまり状況によって使い分けるということですか?」

「それもあるんだが、選んだ理由は前提スキルだからなんだ」


 欲しいスキルがあっても、前提となるスキルを習得していないと習得できない仕様だからな。だから現状不要となっているスキルでも習得せざるを得ない状況がよくある。

 とはいってもそこまで使えないスキルが前提になっていることは少ない。どれもそれなり役に立てる性能をしている。


「本当に欲しいのはもっと強力なスキル……フロストジャベリンだ」

「……! それってもしかして……」

「ああ。フレイムジャベリンの氷版だ」


 ある意味ではフレイムジャベリンより強力なスキルだ。

 しかし序盤ではそこまで活躍はしない。ある程度プレイヤーが強くならないとその強さが発揮されないスキルなのだ。


「詳しく言わなくてもどんなスキルなのかはある程度察しているはずだ」

「相手に命中したら爆発するんですか?」

「まぁな。だが明確に違うのは命中時の効果だ。フレイムジャベリンの場合は純粋にダメージだったが、フロストジャベリンの場合は相手を凍結させてしまうんだ」

「な、なるほど~……」


 凍結は相手は全ての行動を封じられてしまう強力な状態異常だ。


「凍結状態にさえしてしまえば相手は全く動けないからな。しかも範囲がそこそこあって命中した相手の周辺をまとめて凍結にできるんだ。なかなか強力だと思わないか?」

「そ、それはすごいですね! 使い道が多そうです!」


 そのまま追撃してもいいし、仲間にトドメを任すこともできる。いっそのことそのまま放置して他のモンスターを優先するのもありだ。


「単純な威力だけならフレイムジャベリンの方が上だ。しかしその後の状況を考慮するとフロストジャベリンの方が有利になることもある。特にタフな相手だとフレイムジャベリンでも仕留められない場合もあるからな」

「なるほどぉ。体勢を立て直す時にも使えそうですね」

「そこは状況によって使い分けることになるな」


 現状の攻撃スキルはこれくらいで十分だろう。あとは熟練度を貯めるしかない。

 なら次はバフスキルにしようかな。サポートできるスキルも欲しいって言ってたしな。

 となると……


「おっ。これも取っておくか。次はブレッシングというスキルにしよう」

「はい。これですね」

「これはバフスキルで一時的にステータスを上昇する効果がある。便利で使いやすいスキルだぞ」

「なら戦う前に皆さんに使っておいたほうがいいですか?」

「できればそれがいいけど、状況を一変するほど強力ってわけでもないから暇があったら使う程度でいいぞ」

「分かりました」

「実はこのスキルにはもう一つ便利な効果があるんだけど……まぁその時になったら教えるよ」

「ありがとうございます」


 フィーネはこれくらいでいいかな。現状だと十分なはずだ。


「さて次はリリィだな」

「頼んだ!」


 リリィの側まで移動して冒険者カードを確認。


「ん~……リリィの場合はこれ1択だな。ソニックスラッシュってスキルだ。それ以外は要らん」

「それだけなのか? 他にも色々スキルが表示されてるぞ?」

「リリィの場合は少し特別だからな。他の人に比べて偏ったスキル構成になると思う」


 竜人族は素のステータスが高いからな。ぶっちゃけ火力の高いスキルが無くてもなんとかなりそうなんだよな。


「リリィは火力面では十分足りてるんだよな。だからちょっと威力が高いだけのスキルは習得する必要は無いと判断したんだ。大して威力も変わらないスキルとか使うつもりはないだろ?」

「パワーなら自信あるぞ! スキルが無くてもぶっ飛ばせるし!」

「だろうな。だから威力より利便性を重視することにした」


 リリィに必要なのはパワーをうまく生かした立ち回りだと思っている。なので威力以外を目的としたスキルを増やすつもりだ。


「それでどんなスキルなんだ?」

「ソニックスラッシュは一言で言えば、斬撃を飛ばすスキルなんだ。離れた場所にいる相手に使うのが基本になるかな。リーチはそこまで長くないけど、なかなか便利なスキルだぞ」

「へぇー! そんなことできるのか! 面白そう!」

「威力はそこまで高くないスキルだけど、リリィなら十分火力が出るはずだ」


 使いやすくてリリィにもピッタリなスキルなはず。

 リリィはこういった利便性重視のスキルを増やしていきたいと思っている。パワーだけでは解決できない場面でも、スキルで対応できるようになれるはずだ。


「本当ならもっと色々と便利なスキルが欲しいんだよな。けど今は熟練度不足で習得できないんだよ」


 ずっとリリィは適正レベル不足の武器を使い続けてきたからな。そのせいで熟練度がラピスとフィーネよりずっと低い。

 こればかりはひたすらモンスターを倒していくしかない。


「しばらくは地道に熟練度を貯めていくしかない。欲しいスキルが習得できるようになるまでの我慢だな。それまでは今まで通り戦ってくれ」

「うん! よくわかんないけどゼストがそう言うならそうする!」


 これで終わりかな。あとは見張りの交代時間まで待機していよう。

 そう思い自分が座っていた場所まで戻って腰を下ろした。


 それからなんとなく自分のスキルツリーを確認した。


 ………………


 …………!


「お、おおお! マジか!?」

「!? ど、どうしたの!?」

「何かあったんですか?」

「どうした!?」

「あ、いや……何でもないんだ。いきなり叫んで悪かった」

「そ、そう? ならいいんだけど……」


 いかんいかん。あまりにも驚いたもんで思わず声が出てしまった。

 俺がいきなり驚いた原因は新しいスキルが習得可能になっていたのを見たからだ。


 基本的に要求熟練度が多いほど強力なスキルになっていく傾向がある。中には非常に多くの熟練度を要するスキルもある。レベルがカンストしても熟練度不足で習得できないことも珍しくない。

 そして今俺が欲しかったスキルがまさにそれだった。


 熟練度不足で習得できなかったからこそ、今までずっと格闘系の武器を使い続けていたんだよな。

 その努力がようやく報われる時が来たのだ。こんなに嬉しいことはない。急に叫んでしまっても仕方ないと思わないか?

 というわけですぐに習得。これで格闘系もかなり極めたと言っていいはずだ。


 そうして心の中で喜んでいる時だった。


「た、たたた大変だあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る