そして、現在

ってな感じですよ。最初に言ったって、パンツが見えちゃったことなの」


 窓から射す温かい光が、語り手だった立花たちばなかおりを照らす。彼女は少し照れたように笑っていた。


「私も、ずっとあの人のことが気になっていたの。毎日の電車で見かけるあの人を。そして、雨が降ったあの秋の日に、今日こそ話しかけようと決意して待ってたんだ。言った通り、時間とかが多い人だから……。

 でも、そんな日に限って電車が遅れて、今日は諦めて登校しようと思ったってわけ」


 だけど彼は来てくれた――


「5ふ……ちがうちがう、5分ね。こういう時は全角数字を使うんだった。そう、あの人っこういうところも細かいから」


 かおりは、また照れたように微笑んだ。彼女は左手の薬指には、ダイヤモンドの指輪が填めてあった。


「たったの5分の遅れなのに、全速力で駆けてくる彼を見て何事かと思ったわ。まさか、私のパンツが見たかった、なんて……えへへ。

 え? 体操服のズボン? だってその日はすっごく寒かったんだもん。雨も降ってたし、10月なのに真冬なみって天気予報でも言ってたから。

 あ、電話だ……もしもし? いま着いたの? さすが時間ぴったりね。お父さんとお母さんを呼んでくるからちょっと待ってて。え? うん、話してないよ。お姉ちゃんには、さっき話しちゃったけどね。あなたの桜色の大冒険を」



(『桜色ヴォヤージュ』おわり――)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜色ヴォヤージュ 和団子 @nigita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ