<急> 妖精の騎士・下


は追ってきた。セリスを抱えつつ。

セリスは貴族であるが、騎士ナイトの称号を得ている。


そして騎士であると同時に、俺達を封印した魔道士の血統でもある。

故に、その魔力の潜在量は凄まじい。


気を失いながらも、なおセリスは苦しんでいる。

は血の盟約をほどこした血統から、大量の魔素を奪っているのだ。

今、セリスは自身が持つ以上の力を強引に引っ張り出されている。

それは生命力を魔素に変換しているのに近い。

酷使されれば、いずれは死に至る。不死身でない限り。



は俺を逃がすまいと、正面口を背後に立ち塞がった。

「独リデハ何モ出来ナイ。人ナド所詮コノ程度。ゴミ、、ハ燃エテ消滅セヨ」



――地獄ノ亡者ヲ焼ベシ炎ヨブラシュ ナ マイルブー アンヌ アン イフリン ラサイル 一欠片ノ魂モ残サズ滅セヨデアン スグリオス アイル ガチ アナム デ ピヒオス――




「独りでは、ないであろうに――。

  わらわを無視するとは、死んで詫びでも入れるつもりかぇ?」


ミイアは同調し、俺と同じ呪文を同期させ唱える。


        ――嘆きの川よりラガディ エ ブオゥ アブハインナ イズ生まれし永久凍氷よエ デイグゥ レオータ マイレアンナチャ ア ズアン…………

          ――嘆きの川よりラガディ エ ブオゥ アブハインナ イズ生まれし永久凍氷よエ デイグゥ レオータ マイレアンナチャ ア ズアン…………


        …………悲嘆せし忘恩の徒を糧とし顕現せよデアン ブローン アグス ノシダディ アイル ブナイト エアス フュウランガス――

          …………悲嘆せし忘恩の徒を糧とし顕現せよデアン ブローン アグス ノシダディ アイル ブナイト エアス フュウランガス――




  「「 滅却業火 ディストラクション・ヘルファイア」」


                「「 悲嘆凍氷 コキュートス・ペルマフロスト」」

                    「「 悲嘆凍氷 コキュートス・ペルマフロスト」」



地獄ゲヘナより来たりし業火ごうかは、全てを焼き尽くす。大地ガイアすらも焦がし。

だがしかし、けなかった。

俺とミイア、二人の想いがのった凍氷とうひょうには及ばない。


魔族は簡単に凍り付く。

焼けていた筈の森は、辺り一面、氷の世界へと変る。

気が付くと、夜は明けている。森の火が消えた後も、視界は良好だ。

セリスは衝撃で身を投げ出されており、無事だった。


ミイアはこおれる大地を踏みしめ、俺の隣に並び立つ。

「セリスを救うのか? それとも復讐すべき相手だと知り、救わぬのか?」


「救う」


「ならば、復讐は止めるのか?」


「いや、止めはしないさ。

  だが復讐相手が居なくなっては困る。だから助けに行くのだ」


「なんともアホな理由じゃの……」



「あら、でもそういう所がアルドさまらしくて素敵なのですよね?」

ラピスだった。あらかたの敵を倒したのであろう。人の姿で舞い戻ってきていた。




〝 メキリッ 〟


を包みし凍氷とうひょうの一部が砕ける。


「さあ、躊躇ちゅうちょするでない。わらわとその生意気な小娘の魔力を存分に使うが良い」


「そうだな。決着の時だ」


≪ 眷属けんぞく併呑へいどん ≫


――冥府に迷いし淳朴なる嘆きし亡者よ、デエアン カオイダ アイル・ナ マリルブ アイル チャルノ アンネス アノ フォザラム

           我は汝らを求め、テハ ミ ガド シヒレアド汝らは我を求めよテハ ツ ガム シヒレアド――


  「「怨懟呪殺グラッジ・カース」」


まずは、とセリスとの盟約という名の【呪い】を壊した。

これでセリスからの魔力供給は無くなった。



「独りでは何も出来ない。そんなゴミ、、は燃やして消滅――だったな」


――地獄の亡者を焼べし炎よブラシュ ナ マイルブー アンヌ アン イフリン ラサイル…………


対抗たいこうしようという想いは、最早もはやなかった。

凍氷とうひょうの内より、何か聞こえる。

「ヤ……ヤメロォォォォォオ」


「いや、何も聞こえん」

俺は躊躇ためらわず続けた。


…………一欠片の魂も残さず滅せよデアン スグリオス アイル ガチ アナム デ ピヒオス――


  「「 滅却業火 ディストラクション・ヘルファイア 」」



灰となり、散り、は消えた。悲鳴を上げる事すら叶わず。


「これが本物の業火ごうかだ。たくましく、地獄ゲヘナで生きろよ」



ミイアが後ろから抱き付いてくる。

「終わったのう」


「ああ……」


「何じゃ、ほうけておるのか? まぁ、よい。ならば今度はわらわが復讐の時よ」


「人間の魔道士をそそのかし、ミイを封印した現・魔王への……か?」


ミイアは背中で、もぞもぞと告げる。

「それを知ったか。 わらわを止める……か?」



「俺の復讐は叶わなかった……。が、こうしてお前やラピスと旅が出来た」


ラピスがその言葉に反応し、直ぐ近くへとやって来る。

「アルド……様?」


俺の発言に驚いた為か、ミイアがゆっくりと背中から離れる。

「なんじゃ? ……突然に」


「その、なんだ……。ミイア……。討伐済みでないと良いな」

ミイアの顔を見ずに、俺は告げた。



= 完 =

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「封印されし不死の勇者」   中二病魔法バトル❌現地ファンタジー すめらぎ @isekaigm

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