第10話 旧友ト向カウ 1

「……んん………。」


目が開く………、それと同時に頑張っても空いているカーテンの隙間から差し込む光が視界を照らす。


薄い毛布1枚では肌寒い季節……、直ぐに起きれる訳もなく目を閉じ、身体を丸めることで顔まで毛布に埋める。



秋の終わり……冷たい朝は何処までも静かで、気を抜けばこのまま寝てしまいそうになる。



しかし……人間は寒いからと冬眠出来る訳では無い。


横になっているだけでも腹が減ってくる……ましてや夕食がパン1切れの俺には尚更、



……と、そこで気がつく。


「……あんまり腹減ってないな。」


いつもは空腹との戦いから始まる朝が、今日は違う……、


「……そうだった……、昨日は違うんだ。」



そう、昨日は隣の部屋に弟子になったエルが引っ越してきたのだ。


そして、エルのメイドであるメリーさんが俺の分まで夕食を用意してくれた。



時間と器具が無いから凝ったものは作れないと言っていたが、振る舞われた鮭のムニエルとポトフはどうしようもなく美味しかった。



思い出すだけでも…………、



「……結局、腹減って来たなぁ。」



もう諦めよう……、


いつも通りカーラの店に行き、不本意ながらギルバートと調査に向かおう。



そう決心し、俺は暖かな毛布から抜け出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「よお、俺も何か頼んでいいか?。」


ギルバートが呟く。


朝の日課であるカーラが経営する店、明けの帳に向かい朝食をとっている最中にギルバートが入ってきた。



ギルバートはカーラの立つカウンターの目の前の席に座る俺とエル(メリーさんは1度帰ったらしい)から少し離れたテーブル席に腰掛けると、コーヒーとマフィン等の軽食をカーラに注文した。



……その様子を見たエルが俺に話しかけてくる。


「……あの人誰ですか?。」



「あいつはギルバート、俺と同じランクBの魔術士だよ。俺を協会の調査に巻き込む為に来たんだ。」



「失礼な言い方だな。当事者のお前を呼びない理由の方が無いだろ……それに、どうせ暇なんだろ?。」



「当事者?……一体なんのですか?。」


コクリと首を傾げるエル、そう言えばこの事はまだ言ってなかった。



「昨日逃げてきた魔獣の事だよ。なんでも俺がそいつと出くわした所で魔術士の犠牲者が出たらしい。」



「だから俺とディノで調査に向かうんだ。こいつが昨日の内に仕留めていれば犠牲者は出なかっただろうに……。」



姿が見えない相手からの奇襲を受け、軽傷とはいえ攻撃を貰ったのに……そんな言い方もどうとかと思う。


……とはいえ、何とかできた可能性のある魔獣を放置した俺に責任が無いとは言えないが。



「……俺だってこんなすぐ犠牲者が出るとは思わなかった。その魔術士が死んだのはそいつらが弱いせいで、そんな奴らを派遣した協会のせいだが……まあ、後始末くらいはしっかりするさ………お前らに言われなくてもな。」



「言っとくが俺が決めた事じゃないからな、俺だって振り回される側なんだよ。」



少し揉めているようにも見えるだろうが……ギルバートとは大体こんな感じだ。


……いや、ギルバートはいつも通りだが……俺が少し違う。



魔獣から逃げるのは権利だし、依頼の吟味もせずに現地へ向かう魔術士は愚かだ。俺に一歳の非は無く、死んだのは全て当人のせいなのだ。


いつもは死んだ奴が悪いと一蹴していた……なのに今日は少しだけ申し訳なく感じてしまった。



何故だろう……そう考えた時、思い当たる変化点はすぐ隣にいた。



俺の貸与えた魔術書に目を通しながら小さな口でトーストをサクサクと齧るエル……、


先程の俺とギルバートの会話に入って来なかったのは興味が失せてしまったからだろうか?


『人を助ける魔術士に…』そんなエルの言葉が脳内で再生される。



ほんの僅かな期間にもかかわらず、俺に弟子入りしたこの少女の理想とは掛け離れた言葉を言ってしまった事に罪悪感を感じていたのだ。



「……大丈夫かディノ?、調子が悪いなら言ってくれないと困るぞ。」


案の定、それに感ずいたのかギルバートが珍しく俺の心配をして来た。



………言われるまでもない、



「当たり前だ、どの道攻撃的な魔獣なら早めに駆除しなきゃいけないんだから。被害が広がる前に……仕留めてやるさ。」



ちらりとエルの方を見る、以前として真剣に魔術書を呼んでいるその横顔を。



何を考えているかは分からない……俺は読心術なんて持ち合わせて無いので当然だが。



カタリとテーブルの上にミルクティーが置かれる。


当然カーラだ、俺が1杯目を飲み干したのを見ておかわりを用意してくれたのだ。



「元気出しなよ。」



「なんの事だよ……まあ、ありがとう。」



新しく来たミルクティーに口を付ける。

入れたてなので少し熱いが……香りも強い。


カーラには珍しく、何も言ってないのに甘めのミルクティーを出してくれた。



「それを飲んだら店を出よう、昼には戻りたいんだ。」


「はいはい、分かったからそう急かすなよ。」



そうして俺は、ギルバートと互いの近況を語りる事に店を出るまでの短い時間を費やした。







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暇な魔術士やってたのに、最近になって少し忙しくなってきました。 @papikon

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