第12話 入院
ユウカ君! ユウカ君!
女の子が名前を呼んでいた。
ユウカはそれに誘われるように目を開ける。
手を強く握って、必死に呼び続ける、星の姿がそこにあった。
ユウカは死んだのだと、悟ったが、エリィーの事が頭に浮かぶと、ばねの様に体を起こす。
手を握ってくれている星にドキドキしながら、話掛ける。彼女はきっと、夜もずっと手を握り続けてくれていたに違いない。
それだけ思ってくれている彼女は、間違いなくユウカの事が気になっている証拠である。
「星……」
「あら、目が覚めたのね」
手を握っているのは星ではなく、女性の格好をした、ごつい男だった。
「ぎぃやぁぁぁっぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ユウカは急いで手を振り払った。
「あら、元気じゃない。
良かった」
「だ、誰なんだ、お前は?! 」
そのゴツイ体に、角張の強い顔。
ユウカは初対面とは思えなかった。
どこで会っていたのかは分からないにしろ、一度見たら忘れられないぐらい濃い。
「あら、私を覚えていないの? 以外に冷たいのね。
まぁ、それならそれで好都合だけど。
そんな事より、アナタ、大変な事になっちゃってるみたいじゃない」
目覚めると病院。
外を走っていたのに、急に室内にいるのだと認識すると、酷く不思議な感覚に陥る。
まるで記憶を失ったような感覚だ。
「そうだ。 えっと、俺は何でここに……?
それと、あなたは誰? 」
「私の事はもういいわ、
それよりあなたの今の状況でしょ」
状況?
ユウカは頭をフル回転させる。
何故ここに来たのかの経緯は分からないが、エリィーの顔が頭に映る
「そうだ、!?
今、何時です?今日はいつです?
俺はここに来て、何にち寝てましたか?
あと、何故、あなたがここにいるんですか? 」
急に必死になって、ユウカは問い詰める。
それはそうだ。早く見つけなければならないの、ユウカは寝ていたのだ。
それに外は明るくなってる。どう見ても一日は経過した。
数日寝ていたなら、エリィーはもう。
彼は冷静さを失った。
「ったく、落ち着きなさい。
冷静で可愛い子かと思ったら、いきなりべらべら喋りだして。
やかましい。
話すから、黙ってなさい」
ユウカは、前にいる男に圧倒された。
何故ここまで男らしい考えと、声をした人が、女性になりたがるのだろうと、また違う思考がユウカの頭をめぐっていた。
「まず、あんたが起きたのは、倒れてから一日日付が変わってるわ。
倒れたのは昨日の事よ」
ひとまず、何日もたっていない事に安心した。
だから、尚更こんなところでゆっくりしている訳にはいかない。
この間にも死へのカウントダウンは、近づいているかもしれないのだから。
エリィーは人間ではない。きっとでしかないが。
悪魔のような羽が生えていて、それは見せかけではなく、本当に飛べるし。
尋常ではない力をもってはいそうだが、だからと言って、彼女が常人よりも強いのかと言うと、そうは見えない。
逆にどう見ても非力でしかない。太陽には弱いは、重たい物は持てないし、こければ普通にすりむく。 なして、普通の女の子と変わらない。 女の子だ。
だからこそ、より心配で仕方がない。
「ちょっとアンタ、何してるの?
頭までおかしくなっちゃた訳?! 」
ユウカは体についていた医療器具を取外し、ベッドを飛び出す。
「待ちなさい」
女装した男性がユウカの手を取る。
「あんた、どこへ行くつもり?
死ぬわよ」
体は普通に動く。
自分が逆に、なぜ包帯を巻かれて、病院のベッドに入れさせられていたのか不思議なくらいだった。
「それでも行かなきゃならない。
こんなところで寝ている暇は無いんだ。
ありがとう、助けてくれて」
「何がそこまでさせるの」
ユウカには質問の意味が分からなかった。
そもそもこの男性は、なぜ突っ込んで入って来るのか。
そもそも自分たちと何の接点があったのか。
そしてこの人は、何を知っていると言うのか。
一番思うのは、この人は誰何だという事だった。
疑問だらけの存在。
だけど、今はそんな事はどうでもよい。
「大切だからだ」
「黒い鳥を追いかけなさい。
それが必ず貴方を導いてくれるわ」
黒い鳥?どういう事なのか意味が分からない。
ユウカは颯爽と病院を飛びだしていった。
「大切ね……」
女装した男は病室の窓からユウカを見つめていた。
怪物や幽霊、神や悪魔も信じないと言ったのに、俺の横に居るこいつは何?ー少女期編ー AIR @RILRIL
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