第7話「片付けモクモク食い違い」
一息つく。
「タエ、店にいってくる。ケイコへの指導は任せるよ。」
「わかりました。いってらっしゃいませ。」
慶さんが部屋からでていく。私はただ背中を見つめた。
「ケイコさん。もう指導は始まっていますよ。」
「何のことですか。」
またなんかやっちゃったの。
「説明します。
"いってらっしゃいませ"と"おかえりなさいませ"は必要なのですよ。
あるのとないのでは安心感が違います。」
外出したとき、お母さんから言われることだ。
確かにいまの状況ならわかる。
元の時代に戻れるかがわからないから、
寂しく感じている。不安に思っている。
「ごめんなさい。気づきませんでした。」
「また、謝ってますね。」
「ごめんなさい。」
「きっと”ごめんなさい”の代わりの言葉が見つかりますよ。」
言葉の意味がわからない。謝るのは違うのだろうか。
「では、後片付けに入りましょう。
近くに井戸があるので、
桶に水をくんで台所に持ってきてください。」
井戸。蛇口をひねれば水がでていたのに。
水をもってこなければいけないのか。
全部ひとりでやっているのかな。だとしたらすごすぎる。
「どうかしましたか。」
視線に気づきタエさんが尋ねる。
気づかないうちに無言で見つめていた。
「色々なことをひとりでやってるんですか」
「いえいえ。あの方々がいないので。」
「慶さんもいってたんですけど、この屋敷に他に誰かいるんですか。」
「下宿している人達ですよ。」
「下宿って何ですか。」
「ケイコさんと同じようにこの館の世話になっている方々ですね。ですので手伝いもしてもらう決まりになっています。」
「どんな方々がいるんですか。」
「少し時間が足りないので、また今度教えますね。」
たえさんはそそくさと部屋に戻っていく。
私以外にも寝泊まりしている人がいるのか。
イケメンが居たらテンション上がるな。
そうだった話に夢中になっているじゃなかった。
「私、水くんできますね。」
「これをつかってください。」
二つの入れ物と棒をわたされる。
この入れ物、木で出来てる。バケツみたいだ。
タエさんから使い方を教えてもらった。
これは桶で棒は肩に担ぐ。
二つ桶をぶら下げる事ができるとのことだった。
担ぎながら、井戸に向かう。
井戸につく。
昔話にでてくるような井戸だ。
ひもを上げ下げして水をくむ仕組みになってる。
ひもを掴んで引き上げる。
重たい。けっこう力がいるな。男の人の仕事じゃないのコレ。
きついと思って引き上げた水は桶の半分しかなかった。
休憩したいけどタエさんが待ってるからな。
手を伸ばすと誰かの手とぶつかった。
「おまん、コツを知らんじゃが。」
誰だろう。この人。
「おタエさんが様子を見てこいというた理由がわかったぜよ。」
「タエさんの知り合いの方ですか。」
「知り合いもなんも慶さんとこの下宿生ぜよ。ヤタローちゅうもんじゃ。」
龍馬さんと喋り方が似ている。どこの方言だろ。
ヤタロー。龍馬さんの知り合いだったら土佐出身かな。
まだ土佐がどこかはわからないけど。
地理、勉強しておけばよかったかな。
「私、ケイコっていいます。名前を教えてください。」
「岩崎弥太郎じゃ。」
”岩崎弥太郎”、聞いたことないな。誰だろう。
ポカンとする。
「はよう、水くんで戻るがや。」
この人は朗らかだ。
カラカラ笑う笑顔が輝いていた。
毎日を楽しんでいる。私とは全く違う。
こんな性格になれたら、幸せだろうな。
「だったら少し手伝ってくれませんか。」
「いやじゃ。なんで、おまんの仕事を手伝わなならんが。」
え。想定外の質問に驚いてしまう。
「わしはわしのことをやるが。おまんはおまんのことをやり。」
「さっき、早く水汲んで帰ろうっていったじゃないですか。」
「あ。なんで、それが手伝うことになるが。」
手伝ってくれるとは確かにいってはいないけど、
普通、手伝うはずなんじゃないの。
女の私には力が足りないのに。
「私は力が足りないので、手伝ってください。」
「いやじゃの。」
改めて頼んだが、すぐさま断られる。
「私には持てないんです。」
弥太郎の顔が曇っていく。
坂道転んだLJKの幕末転移物語 かすてらうまみぃ @kasuteraumamii
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