第6話「朝ドンドン問答」1.0
まったく寝れなかった。
よくわからないままこの時代にきて、
よくわからないままドジをして、
よくわからないまま朝になった。
目をこすりながら、部屋をでる。
「まず、台所で顔を洗ってください。」
言われた通りに台所にいき、顔を洗う。
「おはよう。ケイコ。」
「昨日のことなんですけど。」
「先に朝ごはんでも食べようじゃないか。」
慶さんに連れられて部屋に行くと、3人分の食事が用意されていた。
「タエがきたら、食べようか。」
わたしから、話し始めるのは気がひける。
タエさんがくるまで黙っておこうか。
「昨日と違って随分大人しいじゃないか。」
「ごめんなさい。」
「謝れだなんていってないし、あんたが悪いともいってないよ。なぜ謝るんだい。」
慶さんが淡々と話す。表情は変わらない。
どう答えていいかわからない。
するとタエさんが入ってきた。
「お待たせしました。」
「揃ったね。食べようか。」
「私たちだけでよろしいのでしょうか。」
「あいつらは龍馬と出かけているはずさ。」
慶さんやタエさんの他に誰かいるのだろうか。
いや、そんなことはいまはどうでもいい。
「頂くとするかね。」
「そうですね。」
私は手をつけていいかわからなかった。
なぜ謝るかの答えが見つからない。
「ケイコ。おまえさんの家は誰が家事をしているんだい。」
「母です。」
「手伝いはしてたかい。」
「いえ、一度もありません。」
「だろうねぇ。」
「そうでしたか。」
慶さんとタエさんの言葉が重なる。
「まず家事をやるには手本をみなくちゃいけない。これは仕事にも同じことが言える。」
「見て覚えて、やり方を聞いて、自分でやってみて、教える人に見守っててもらうのさ。そして初めてやることなら、まず教えをこうんだよ。」
家事はお母さんに任せきりだった。
毎日自分のやりたいことだけやってきた。
「改めて聞くよ。なぜ謝るんだい。」
「失敗したからです。」
「だったら、なぜ失敗したら謝るんだい。」
「迷惑をかけたからです。悪いと思っています。」
「だったら、なぜ悪いと思ったら謝るんだい。」
なぜなぜなぜと慶さんが問う。
悪いと思ったら謝るのはなんでだろう。
「もし私たちが本気で怒っているなら、朝ごはんなんて一緒に食べないよ。」
私が怒ったときは口さえ聞かない。
ただの女子高生と大人を比べるのもおかしいけど。
タエさんがさとすようにいう。
「答えはこれから見つかっていくでしょうね。」
「そうだね。まずこの家の中のことを覚えてもらおうか。次に油問屋のほうも手伝ってもらうよ。油問屋の方はお客さんがいるからね。」
家事の先に仕事があるのだろうな。
アルバイトさえしていない私にできるだろうか。
こんな考え方は初めて聞く。
「また心配になってるのかい。先のことを考えすぎると疲れちゃうよ。まず目の前のことから覚えていくのさ。」
「タエ、よろしく頼む。」
「わかりました。ケイコさん、少しでも不安なことがあったらいってくださいね。どんな不安を抱えているかはわかりませんので。」
やり取りを聞いて、ミスをすることが悪い事じゃない気がしてきた。
ミスすることが駄目だという考えではないようだ。
私の時代と随分違う。
ミスをしたら、これでもかというほどにおこられてしまう。
気が済むまで怒り続ける人もいる。
この時代の人は仕事そのものへの考え方が違う気がする。
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