第5話「手伝いモヤモヤ不安」1.1


慶さんの自宅につく。

景色が薄暗い。18時ぐらいだろうか。


玄関から入るなり、お手伝いさんを呼びつけた。


「この子が家で働くことになったから。

色々と教えてやってくれ。」

「わかりました。」


お手伝いさんが深々と頭を下げる。


「私は書斎にいるから。なんかあったら来てくれ。」


告げると足早に去っていった。


お手伝いさんは私に対し一礼し、優しく笑う。

「わたしの名前はタエといいます。これから、あなたの指導を担当します。」

ハキハキと喋り、慶さんといたときとはまるで別人のよう。

「私はケイコです。よろしくお願いします。」

「さっそくですが、お風呂の湯をたきましょう。」

毎日の日課なのだろう。時間をきにしているようだ。

けれども湯をたくという意味が分からない。

「えっと、わかりました。」

何もできないなんて思われたくない。つい答えてしまった。

「では外に行きましょう。」

外にでて少し歩くと、小さな煙突付きの鉄の箱があった。

「こちらです。風呂の真裏にあります。たきつけの薪は隣にあります。わたしは別の仕事がありますのでたいておいてください。」


タエさんがその場を去った。

何をやればいいかわからず立ち尽くす。

湯をたくって何。薪でやるの。何とかしないと。

薪のそばに小さな箱があった。

開いてみると先端が赤い棒がいっぱい入ってる。

先端はザラザラしてる。これなんだろ。

でもそばに置いてあるってことはこれを使うのかな。

薪、箱を並べて考えていると館の中から声が聞こえた。

「冷たっ。まだ水のままじゃないか。」

慶さんの声だ。

風呂の窓から慶さんが顔をだす。

「タエから教わらなかったのかい。」

声を聞いたタエさんが小走りで向かってきた。

「申し訳ございません。手違いがありました。知っているとばかり。」

「タエは謝らなくていいんだよ。」

「それよりケイコ。ちゃんと話を聞いたのかい。」


喉につっかえた。ほんとは何も聞いていない。

わかりましたとしかいっていなかった。

だまりこんでいると、慶さんが話をつづけた。

「夜更けに色々いうのも、考えもんだね。明日にしよう。」

「ごめんなさい。」

「謝らなくていいよ。今は。」

今はという言葉た引っかかる。

「タエ。今日は風呂はいい。あとケイコには何もいわなくていいからね。」

何もいわれないのが、不思議だった。

親は時間なんて関係なく注意してくる。

「ケイコ。今日はもう寝な。それとタエ。布団を用意してやってくれ。使ってなかった部屋があっただろう。あそこでいい。」

「わかりました。」


タエさんに促され、部屋についていく。後ろから尋ねた。

「慶さんを怒らせてしまいましたか。」

「明日、わかるとおもいます。本日は休んでください。」

タエさんは何かを知っているようだった。

あえて何もいわないような。


布団に入っても何かがつっかえたかんじ。

何を間違っていたんだろう。

何がわからないのかさえわからない。

家の手伝いとかもやってなかったな。

面倒くさいとかいって。やってたら何か違ってたのかな。

お母さんに全部任せてた。恋しさと虚しさで胸がいっぱい。

これが夢だったらいいのに。お母さんから起こされて学校にいく。

何にも考えなくていい毎日に戻りたい。




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