第4話「問題アワアワ解決」1.2

「龍馬。もう少し静かに出来ないか。」


男の人が困った顔でこちらにやってきた。


「噂をすれば。」

「違う。おまえの声は大きすぎるのだ。」


この人が近藤さんかな。細身で姿勢がいい。

豪快な龍馬さんと印象が違う。


「ケイコさん。こいつが近藤じゃ。」

「紹介なぞせんでいい。おまえが説明すると誤解を招く。」


近藤さんは一礼したのちに話を始めた。


「近藤長次郎と申す。龍馬とは腐れ縁のなかだ。以後宜しく頼む。」

「腐れ縁はなかぜよ。」


無視して、長次郎さんが話を続ける。


「詳しく話を聞かせてくれないだろうか。」


私がいた所も長崎だということも含めて細かく話した。


「作り話にしても、つじつまが合いすぎている。」

「私は死んでしまったのでしょうか。」

「考えすぎだ。死んだのなら、転倒の痛みさえ感じないだろう。」


慶さんや龍馬さんが気づかなかった部分を指摘してきた。

痛みを感じるのは生きている証拠だ。


「では、なぜここにいるんでしょう。」

「可能性の話だが古い書物に神隠しという現象がある。」

「神隠しですか。」


聞いたことがある。

ある日突然に人がいなくなってしまうことだ。


「同じ長崎という地名だとしても、中身は違っている。

けれども龍馬のことは知っている。」


「学校で歴史を学んでいたときに知りました。」

「妙だな。武家が通う藩校、庶民が通う寺子屋の2種類しかないのだ。ちなみに武家というのは侍の家系だ。」


藩校はサムライ専用学校で、寺子屋が一般人用ってことか。

淡々と近藤さんは話を続けた。


「我々の時代が進んだ長崎から来たのかもしれない。つまり時間を超える神隠し。」


タイムトラベルが浮かんだ。


「戻れますか。」

「わからぬ。同じことがおきるか保証はない。」

「そんな。」

「悲観することはない。物事は一度おきたことは、またおきるはずだ。」


私を元気づけようという姿勢がみえた。それだけでもうれしかった。


「不安にならなくても、なんとかなるぜよ。」


龍馬さんが割って入る。


「これから世の中が変化していくときじゃき、これから見つかるかや。」

「龍馬。無責任なことをいうべきではない。」

「ほなら、ビクビクしながらこれから過ごさなならんじゃが。」


近藤さんはハッとした。


「そうだな。龍馬の言う通りだ。」


この2人は親しい間柄なんだろうな。お互いの意見を尊重してる。


「これから行く宛てはあるのか。」

「ありません。」

「だったら大浦屋で世話になるといい。私が慶さんに頼んでみる。」

「大浦屋というのは何ですか。」

「店の屋号だ。大浦慶さんの。」


大浦慶という名前だったんだ。


「世話になることは許してくれるんでしょうか。」

「大丈夫だよ。箸にも棒にも掛からぬ人をここには連れてこない。」


なんとか泊まれる場所が見つかった。

手伝いって何するんだろう。バイト自体もやったことないけど大丈夫かな。


「なんとかなるぜよ。」


勇気づけるようにいう。

龍馬さんのポジティブな性格が羨ましい。

慶さんもこの性格だから、親しくしているのかな。


「私の方でも、調べておく。海外の客が何か知っているかもしれない。」

「海外の方とも取引しているんですか。」


驚いた。自分がいる世界とはまるで違う。


「珍しくはない。取引の知見は慶さんの方が詳しい。」

「宴会は開かないかいの。ケイコさんを歓迎するための。」


「馬鹿いってんじゃないよ。娘相手に酒の席を開けるわけないだろ。」

大声がするほうに目を向けた。


慶さんが腕組みをして、怒っている。

「龍馬に預けた私が馬鹿だったよ。ケイコ。すまないね。」

表情がスッとかわった。不安げに私をみてる。

「ありがとう。長次郎。」

「いえ、礼をいわれることではありません。」


慶さんの中で、長次郎さんがアドバイスをしたと察している。


「わしへの礼は。」

「ないに決まってるだろ。」

宴会を開こうとしたことが、気に入らなかったみたい。

「慶さん。この子を大浦屋でみてくれないだろうか。」

「手伝います。お願いします。」


近藤さんのセリフに食い気味でいった。


「長次郎に心配されなくても、そのつもりさ。ただ働いてはもらうからね。」

「頑張ります。」


ここでは知り合いが誰もいない。

もしかしたら戻れないかもしれない。

ダメだ。戻るんだ。龍馬さんからもいわれた。

大浦屋で働きながら、戻る方法を探そう。


「さぁ帰ろうか。今日は私の家に泊りな。」


慶さんはいい人だな。

知らない私を気にかけてくれるなんて。

他の人の家に泊るのも初めてだ。


私たちは亀山社中をあとにした。

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