第6話 スタート

 十八時四十五分


 バスの終点がミステリーツアーに指定されていたバスの降りる場所だった。探偵もここで、降りるようだった。やはりミステリーツアーの参加者なのだろうか?


 バスから降りるとすぐに黒塗りの高級そうな車が目に入った。その車を見つめていると初老の女性が出てきた。初老の女性は小さなレンズが入った眼鏡をかけて、タクシーの運転手のようなジャケットを羽織った恰好をしていた。彼女は私の方に向かってきた。


 そして、

「渡蓮眠様でございますね。お待ちしておりました。私、案内人の旗目紫苑と申します」

「あ、初めまして渡蓮眠です。よろしくお願いします。ただ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「何でございましょうか?」

「何故、私が渡蓮眠だと分かったのでしょうか?」


 名前をすでに知られていることに過敏になっていた。さっきの探偵との会話のせいだ。


「ふふ。それはすでに他のパーティーメンバーが到着しているからですわ。それに女性はあなた様含めて二人だけですわ。分かりやすいですよ」


 上品に笑いながら彼女は私に微笑みかけた。それは、そうか。自意識過剰だったか。

 また、探偵にバカにされるのを覚悟した。けれどその時には隣にいたはずの探偵は消えていた。

 どういうことだろうか?そもそも、私以外の全員が揃っているのならば探偵はこのミステリーツアーの参加者ではないということになるのではないか?だったら、探偵はこんな田舎に何をしにきたというのだろうか。

 私は怖くなっていた。私は、知っていた。探偵がいるところに事件が起こるという原初からなる法則を。


 不安に陥っていると、

「それでは申し訳ありませんが目隠しをしていただいてもよろしいでしょうか?」

 彼女は突然、そう言って黒い目隠しを私に渡してきた。なぜそんなことをさせるのだろうか?

 彼女は私が思った疑問に答えるように説明を続ける。

「主催者からのご要望で今回はこの状況からパーティーがスタートいたします」

「あの、目隠しはちょっと」

 私は怖くなった心に寄り添う言葉を紡いだ。

「申し訳ございませんが、それならば今回のミステリーツアーに参加できません。お引き取りください」

 彼女は、今度は、感情の宿らない作り笑いで私に声を掛ける。

「でも、バスはもう」

「歩いて帰ってください。五時間もあればここから帰れますわ」

 言葉遣いは丁寧なままにミステリーツアーの参加を強制する言葉を女性は吐いた。

「わかりました」

 私はその言葉を紡ぐよりほかはなかった。

 黒い不安を抱えたまま私のミステリーツアーはスタートした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

加害者である名探偵は殺されて欲しい♡ keimil @keimil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ