第3話 21-30
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11-21 蝶番
世界中の蝶番が、素数の周期で海を越えて移動するという詩を読んだ記憶が鮮明にあります。併せて、蝶番を失った扉がバタバタと逃亡し始めるので、人々が必死で家中の扉を抑えている風景を克明に描写した銅版画と共に覚えているのですが、そのwikiを誰か作ってくれませんか?
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11-22 約束
幼き日指きりをした約束を覚えてるのは小指ばかりで
あの頃の小指も今は成長し立派な親の小指になった
約束は守れたろうか喉元に突きつけられた刃がヒヤリ
針千本豆腐に刺して供養する行事もリモート開催となり
約束は小指の絡み合いほどの触れ合いでした温かでした
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11-23 スプーン
広告業界に『二本目のスプーン』という金言がある。超能力を広めるために「スプーン」を用いるという最適解を導き出した業績を称えつつ、そんな奇跡はめったにない、ということを戒める言葉だ。いやはや、超能力にスプーンとは。まさに世界は驚きと可能性とに満ちている。
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11-24 古代
ワイファイが翼竜だった頃、打製スマホの製法が、クラウドの果ての岩板製ハードディスクに刻まれていた。グーグルアースを手書きしていたバイトのクロマニヨン人は、その製法を目に焼き付けて村に戻り、広場のSNSで喉が嗄れるまで皆に広めると、みんなに「イイネ」された。
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11-25 壜
この小さくて不思議な形のガラス壜は、吹きガラス製法で製作されているのですが、口がありません。でも、お土産物としてよく売れています。職人の臭い息が入っているだけの壜なんですけどね。
「わたしが作りました」って、うるせえよって感じですね。一個800円(税別)です。
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11-26 流れる
小川に立っている棒杭に枝や葉や、菓子の袋などがたくさん引っかかって流れを滞らせていた。その集積物は、ある意味で、ここにしかないユニークな存在だが、美観上好ましくない。私は、拾った棒でそれを突いてゴミを流した。 すると私は、自分が誰なのかを忘れてしまった。
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11-27 定点観測
定点観測する者はまた、定点観測されているのである。観測者のみが目を持っているものと思い上がるのは止めよ。
点Aと点Bにそれぞれ収斂する平行線的視線は「ある直線 L とその直線の外にある点 p が与えられたとき、p を通り L に平行な直線は無限に存在する」文字数……
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11-28 きらきら
きらきらしたものが好き。泣いてる瞳が好き。額の汗が好き。汗染みは嫌い。ビルのガラスの壁面は嫌いだけど割れて降ってきたなら好き。ガラスのおはじきが好きで噛まずに飲み込むのも好き。漣が好き。船は嫌い。この体が大嫌い。でも目と歯とネイルは好き。わたしが好き?
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11-29 薬
実験動物の尊重と保護。
臨床実験における事故と免責。
老いと病との同一視と若さへの信奉。
意識の変容と拡張。宇宙意思とのチャネリング。
準強姦罪。
余らせた薬を売って必要な薬を買うサスティナビリティ
奥歯に楽に死ねる薬のカプセルを埋め込んだ旨を記載した母子手帳。
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11-30 箱
「はこぉっのなっかみぃわなっんでっしょねっ!」
と言われても、このジュラルミン製の箱に手を入れる穴はなかった。ダリ髭の司会者と、満員の観衆は固唾を飲んで僕を見る。僕は、箱を見つめている僕の顔が歪んで写っている箱を見る。箱は静かな寝息を立てている。僕は裸足だ。
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#novelmber 2020 1-30 新出既出 @shinnsyutukisyutu
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