第2話 11-20

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11-11 階段

待ち合わせに遅れた。背の高い彼のまっすぐな背が怒っている。わたしは横断歩道の信号の変わるのをビクビクしながら待っている。彼の背中に、背後のビルの非常階段の影が写っている。そこを死に物狂いで駆け下りる人影……

 わたし?

信号が青に変わる。わたしは渡らない。

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11-12 閉じ込める

第二回。監禁文学大賞。

あなたは抽選により出場者に選ばれましたので、拉致監禁しました。机上の原稿用紙に鉛筆で、現在あなたの置かれている状況を文学的に伝える作品を書きなさい。審査員の検閲をクリアした優秀作はネット上に公表します。水と食料は三日分です。

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11-13 解き放つ

今こそ、封印された力を解き放て!

っていうけどさ。今まで一度も発揮したことのない力を、その恥ずかしい姿勢と雄叫びで解き放つなんて本当にできるの?

「オーケーグーグル。力を解き放ち方教えて」って、どのくらい信憑性あるの? え? 失うもの?

別に、ないか……

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11-14 寓話

農夫は広大な凍土を耕して畝を作り、水を撒くために地下水の汲み上げポンプから太いホースを畑へ引っ張りました。その土地は永久凍土でしたが、地下水は凍っていません。農夫が凍った畝の真ん中でノズルをひねると地下水は霧氷となって降り注ぎ、農夫を樹氷に変えましたとさ。

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1-15 旅

なぜ人間は旅をしたがるの? 旅の途中に今ここがあるのに。ここで出会えた仲間となるべく長く過ごしたいって思わないのかな?

仲間がもっと欲しいからじゃない?

淋しいから? 欲張りだから?

苦しいからさ。

苦しい?

留まることがさ。人生は苦だ。

でもこんなにきれいだよ。

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11-16 完全な

告白したら「絶対無理」「完全に無理」「あり得ない」という三者三様の回答をもらいました。可能性の順番を教えて下さい。わたしは、不可能ー絶対ー完全の順に不可能さが強まると思います。あと「完全なカン違い野郎」って言われたんですが、これ告訴していい案件ですよね?

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11-17 博物館

 村上春樹さんの小説で、白い壁に額装されたクジラのペニスの標本が展示してあったのは、水族館だっけ? 博物館だっけ? 白い窓からはエーゲ海が見えていてね。あ、それは通いつめた寄生虫博物館だったのかもしれません。だとしたら、目黒のサンマは何メートルありますか?

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11-18 化石

味付け海苔ですよね?

ほら~ぁ。よぉ~く見ろぉ~。

だから、味付け海苔ですよね?

こぉ~こ。ほらこぉ~~~こ。

確かに嘴と爪と羽っぽいですけども……

始祖鳥だよぉ~。ねぇ~完全な形だねぇ~。

いやいや、でもこれ味付け海苔ですから。

だぁ~めだよぉ~。先入観わぁ~。

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11-19 忘却

これからお話しするのは、わたしからあなたにお話しなければと思い立ち、そう思えば思うほど、あなたが知っているべき事実で、むしろ、わたしよりもあなたが知っていて、わたしに教えてくれることこそが相応しいと思われる真実だったのですが、忘れてしまいました。すみません。

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11-20 編む

三つ編みは、自分の頭だけでするの、そうじゃないか。一人の子の頭だけでするものなの。どうしてって…… 頭はみんな違うことを考えるから。ううん違う。みんな敵だとか、本当は分かり合えないとかいうんじゃなくて。ほら、あなたが結んじゃった七人の子が泣いてるでしょ。

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