第40話 マジカルテレビ 3


「キャップ、その―――ちょっと気になる点と言いますか」


 映場はえばが呟いた―――上司に対して、物言いである。


「それぞれバラバラ……妙です、一人一人の証言、説明が違います」


「ああ……」


 それなら、と彼も気づいてはいたようだった。

 一方の撮沢の方は画面を睨んでいるのみ。


撮沢とりさわくん、話聞いてた?」


 額に皺を作った男に対して呆れる映場はえば

 目撃者たちに会っていた。 

 二人一組で色んな証言をかき集めていたのに、この男はまったく……という視線である。


「ちゃんと話聞いてたァ?」


「き、聞いてたけどよ、めったにあることじゃあないんだ。今回の魔法少女じけんは……」


 目撃者はパニック気味に決まってるだろ、と撮沢は言う。

 人間の記憶なんだから、誤差くらいある。

 そもそもしっかり目撃できた一般人は少なかった。

 普通は目撃よりも、逃げるべきである。


「だからピュアグラトニーは伸びる腕で倒していったって話だろーがよ……魔怪獣を」


 そんなふうに、撮沢とりさわ

 実際のところ、正確な情報はこうだと確定していない。


「オレンジの少女が魔怪獣の後ろに立ち、命令を出していた狼のような魔怪獣……ええ、ピュアグラトニーは一番態度の大きかった者を背後から丸かじりにして仕留めた後に、黙々とほかの、残党狩りを開始していたそうです―――ええ、名乗りなんて一度も上げていなかったらしいです」


 無言になるキャップ。


 名乗らずとも、オレンジの魔法少女がピュアグラトニーであることなど、日本中が周知する事実である。

 魔法少女はトレンドそのもの。

 俳優やYAUTUBER。そういった存在をも、凌ぎかねない関心を引き付けている。

 

 本当に、映像業界にいる身としては、衝撃である―――ひたすらに。

 彼はもう一度、停止状態である画面を見た。



「キャップ……もうひとつなんですが、映場とは別で」


 撮沢が声をかける。

 画面を見たままである。


「魔怪獣って、人を襲うとき」


「ん」


「いえ……襲うだけじゃあないっすよね」


 少し時間が経って意味が分かった。

 映像を何度もチェックしている二人である。

 魔怪獣が何かを掴んだり、口に咥えたりする―――仕草は映っている。


「ほら……何か集めてる」


「何かとは」


「いえ……」


 二人は何も見えない。

 魔怪獣の目的である恐怖のエネルギークリスタルの存在を、取材班は知らない。 だが確かに何か、魔怪獣には見えている風だった。

 このでかい魔怪獣……何か掴む仕草を。

 だが見えないのだった……我々一般人には。


 だから今は仕事だ。

 あるんだかないんだかわからないものに集中はできない。


 キャップは何か言い淀んでいる……が、やがて声を上げる。

 ぼそぼそと。


「オイ、撮沢おまえ…」


「はいい?」


「おまえ、もう一度この子と会って……よぉ、それと」


「え」


「……いや、なんでもねえ」


 口元を手で覆いつつ、唸るシワの多い男。


「忘れてくれ」

 

 ちょっと吸ってくる―――自分の胸元を指で触れた。

 白い箱を見せたあと、視線を切って。

 


 バタン―――、と車のドアを開けて彼は夜空を見上げる。

 彼は心に疑念を持つ。

 個人的な勘で、一体何を……どうも脳裏に焼き付く、くりっとした目の小柄な少女。

 何か良からぬことを言い出した自分に、困惑。



 吹き出した嗜好品の白煙。

 それが夜空に伸びる。

 真上にどれだけ飛ばすかが、ちょっとした遊びであった。


「顔がいいからか?」



 目に留まった理由がわからない。

 確かに可愛らしい子だった。

 腐るほどいるうちの一人……映像を作る、この業界にいれば食傷気味だ。

 芸能界に入れるかもと、いうような夢と希望。

 きらきらとした瞳を持った人間……何の意外性も混じっていない。




 あれも、あの少女も同じ……それら芸能界志望と大差ない可愛らしさと―――同時に、強烈な不安を掻き立てる。

 何故か……見ていると何故か、異様に。

 そんな少女だった。


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魔法少女ピュアグラトニー 時流話説 @46377677

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