第39話 マジカルテレビ 2


「つまりぃ、助けてもらったということなんです~ぅ、ええ、ピュアグラトニーにぃ!」


【たまたま魔法少女がいた付近を通りかかったというR・Kさんの証言】


「なんかピュアグラトニー参上! ―――って叫んだかと思うと~~ぉ、その圧倒的なオーラで魔怪獣達が恐れをなしたんですよぉ。ひるんで……魔法の、その聖なるオーラに惑わされったっていうか~~ぁ」



 ツインテールをくるりと結んだ彼女は身振り手振りを使ってその時の様子を話してくれた。

 小柄な体も相まって可愛らしい仕草。

 はきはきとしゃべる様子からは利発さが溢れていた。

 カメラ内に納められた大雑把なカットがぶつぶつと現れるが、説明が続いていく。



「人類の敵、魔怪獣たちは牙を剥き出しにぃ人々を襲っていたのですが、それまではねぇピュアグラトニーが来るまではぁ~~? でもでもキラキラと輝いた腕が伸びて~~ぇ。こう、ホーリーハンド的なアレが、自由自在に伸びていってぇ


「おのれぇぇ!って叫びながら敵が―――こう、来たからぁ! それをマジカルな光の中で、じゅわーって浄化して天国へと送ってあげたんですぅ、そんな感じでしたぁ。でホラ、後ろからもぉ、来たからぁ。二匹でしたねぇ~~聖なる手のひらで包み込んで……そうやって不思議なパワーで悪を封じ込め、ええとォ~ぉ、浄化? 


「そう、浄化していったんですよぉ。まるで天使のような~~ぁ……そう天国から降り立った現代の天使が聖なる手のひらで~~悪に怯まず、恐れることなくですね、立ち向かい、救ってあげたのですよぉ、あ、ピュアグラトニー~~が・ですぅ!


「見上げるほどの大きな怪物に立ち向かい、百三十九センチほどの身長でありながらも、ばっさばっさと薙ぎ倒してぇ


 「どのくらい強いかって? ドのクラい ツよいのカとイうとォオオオオオ! っていうやつです? うふふ、あのマンガのあのシーンがあたしぃ、かなり好きで、ええ、これから何が起こるんだろうっていうぅ~~わくわく感ですかぁ?そういうのが詰まっているっていうか~ぁ

 

「え?可愛いか?どのくらい可愛いかって?もーなにを言わせてるんですかぁ照れるなぁ~~も~~ぉ。可愛かったですよピュアグラトニー、あたしに匹敵するくらいの可愛さは備えていましたよ」


「えっその時どうしていたか~~?あたしですかあ?いえ、ですからぁ怖くってえ、とっさにトイレに駆け込んでぇずぅーっとびくびくしていましたよお。ふ、ふえぇぇえええん! 怖かったよぉぉぉ!」


 両目に自身の手のひらをあてたところで映像は途切れる。


 



「―――キャップ!今回はいいですよォ! どう思われます? この子、証言が具体的ですよ!」


「証言が具体的すぎないか……?」


 統括するリーダー役の男が映像を吟味している。

 場所は狭い車内、備え付けられた簡易の映像デッキを睨む。

 しかしとにかく、とにかくだ……使えそうな映像であることは間違いない……他にも多くの証言があったが……。

 はきはきと状況を語っている民間人というシーンは欲しいところだ。

 


 これがなかなかに少なかった。

 魔法少女の戦闘は増え続け、目撃例も多いのだが。

 最近はとにもかくにもまず映像を撮ろうと躍起になるものが多いようだった。

 争奪戦が起こっているのだろうか、若者の中でも。


「しっかし良く喋る子ですねー」


制作側こっちとしてはありがたいじゃないの?」

 

 撮沢とりさわ映場はえばが呟く。

 体勢は伸びなどしてリラックス―――ひと仕事終えたというところである。


 女子の方がおしゃべりな傾向はある。

 言語中枢としてもなんちゃら―――と、専門的な話は詳しく知らんが。

 まあ、多くの目撃者も魔法少女を目撃した時は興奮気味だった―――たいした珍しさはない。



 制作側……か。

 他の局ライバルの中には、目撃者のスマホを奪ってでも魔法少女のを者にした者もいる。

 それほどに苛烈化し、魔法少女に出会えていない業界人は使えないやつ、の烙印らくいんを押される。

 遊びじゃねえ……ちんたらしていられねえ。

 この証言でもまだ、インパクトは弱い……冷静に見れば。



 市民に聞いて歩く日々。

 可能な限り、魔法少女に年代の近い女の子からの声を拾うように、というのはプロデューサーの方から降りてきた指示だった。

 本来ならば、大体その場にいる保護者との面倒事を回避さけるためにも、踏み込んだ話題は出来ないのだが。

  若者がとっくに見飽きたような動画も、なかなか馬鹿にできないもので、テレビでして放送すれば中高年にも伝えられる。

 はじめてそこで、「若い人と話の共有ができた」との声が寄せられるのだった。



 若い層での盛り上がりは強い。

 もうSNSには魔法少女の戦闘を収めた動画が上がり始めている。

 もっとも、何が何だかわからないようなブレにブレた短い動画、被写体にカメラレンズが追いつけていないものがほとんどだったが。


「まあだいたいわかった……これでいくか……」


よくわからない違和感を感じつつ、その日に集まった映像に一通り目を通した男が、呟いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る