後日談②『新婚生活』
前世からの初恋が叶って、ついに迎えたいちかちゃんとの結婚式。
神父を務めたのは孔明君だったけど、一応最高神やポセイドンと言った神々の前で永遠の愛を誓い、俺たちは晴れて夫婦になった。
大好きないちかちゃんと結婚した。
劣化コンピューターと馬鹿にされながらも、働き続け、過労で死んだ前世の記憶。小学生の頃の一方的な片思いのまま疎遠になってしまった初恋の人と、夫婦に。
結婚式の時、嬉しさが込み上げて思わず泣いてしまったけど、今思い返しても泣いてしまいそうになる。……俺が泣けば感受性の高いいちかちゃんにも感情が伝播して彼女までも泣かせてしまうから、我慢するけど。
そんなこんなで、翌朝。
「靖殿ぉ! 起きてるかぁ? 今日も一緒に鍛錬をするぞぉおお!!」
防音完備の上等な家の外からのはずなのに、何故か聞こえてくるポセイドンの無駄に大きな声で目が覚めた。
……昨日は初夜だったから色々と熱くなりすぎて、いつもより夜更かししちゃったからまだ結構眠いのだ。そうでなくとも、結婚式の翌日くらい、いちかちゃんと家でゆっくりいちゃいちゃしていたい。
俺は隣で寝ているいちかちゃんを撫でようとして、ベッドには俺一人しかいないことに気付く。ガチャリと寝室のドアが開いた。
「靖くん、ポセイドンさんが来てるよ。起きないの?」
「んー、今何時くらい?」
「もう12時過ぎてるよ」
エプロン姿のいちかちゃんが、半眼でそう告げる。
そっか。道理でいちかちゃんも隣で寝てないわけだ。確かにこの時間、いつもならポセイドンと鍛錬してる時間だけど……今日は結婚式の翌日だし、やっぱり一日中いちかちゃんとイチャイチャしてた方が――
「行って来たら? 鍛錬。どうせ私たちはこれから何十年何百年何千年と一緒にいられるわけだし、イチャイチャするのはいくらでも出来るでしょ?」
俺といちかちゃんは『人魔』になってるから、神々に匹敵する寿命があるのだ。
「いや、でも最初の一日くらいは……」
「良いから、行って来れば? それに、一緒にいるって言っても靖くん、こんな時間まで寝てたじゃん」
「い、いや、そうなんだけど……」
昨日の夜更かしもさることながら、結婚の緊張とか喜びの緩急とか、睡眠を深くするイベントが盛りだくさんだったから……。
「あ、あの、いちかさん。お、怒ってます?」
「怒ってないよ。それにポセイドンさん折角来てるのにほったらかしたら可哀そうだよ」
「ま、まあそうだね。うん」
「昼は弁当作ってあるから。朝分はプロテインでも飲んでいってよ」
「弁当あるの?」
「うん。今日もいつも通り鍛錬行くかと思って」
「ありがとう、いちかちゃん!」
まあ、弁当といちかちゃんの好意を無駄にするわけにはいかないし。それに、筋トレは一日サボると取り戻すのに三日掛かると言われている。幸せにかまけて、折角シックスパックに割れているお腹周りが緩んだりしたら格好悪い。
やっぱり男の子たるもの、恋人にはパーフェクトボディで格好つけていきたいものなのだ。
「ポセイドン、ちょっと待ってて。準備するから」
「おう、早くしてくれ!」
ドアの向こうにいるポセイドンに声をかけてから、顔を洗い、歯を磨いて、即興で作ったプロテインだけ飲んで、それからいちかちゃんに渡された弁当をアイテムボックスに仕舞いながら外に出た。
アイテムボックスに入れることで、食べる時も弁当が温かいままになるのだ。
「お待たせ。さて、行くか」
俺たちは、俺といちかちゃんの家がある階層の三つ上にある階層に移動する。
その階層はちょっと前まで普通にモンスターを配置して普通のダンジョンの階層にしてたけど、ポセイドンが来てから、専ら鍛錬専用になりつつある。まあ、モンスターは普通にいるんだけど。
階層に着いた俺とポセイドンは入念にストレッチをする。
無心で自重トレをするのも嫌いじゃないし、『反復試行』もあって無限に出来てしまうんだけど、それはそうとして、組手形式も嫌いじゃない。
「『魔力纏鎧』」
俺はしょっぱなから、全身に魔力を纏う。しかしこれは命がけの殺し合いではなく鍛錬だ。この魔力纏鎧は少し特殊で、俺の力を強化するためではなく、俺の肉体に負荷を掛ける為に力を注いでいる。
そしてポセイドンもポセイドンで、身体にいくつもの重りを着け始める。
「さあ靖殿、今日も今日とて汗を流そうぞ! 『海域展開』」
ポセイドンが地面に拳をめり込ませると同時に、この階層が上に数十cmの空間だけ残して海水に覆われる。水中はポセイドンの力を増幅させて、俺には負荷と呼吸の制限が掛かる。つまり、凄く良いトレーニングになるのだ。
「ごぼ、ごぼぼぼ(おう、そうだな)」
◇
「ふぅ。それなりに多くのハンデを貰ったはずなんだが、靖殿には敵わなんだ」
「でもポセイドンは全然余裕そうじゃねえか。俺は結構へとへとだぞ?」
いつものように、3時間ほどぶっ続けで組み手をして終えた俺は、いちかちゃんの手作り弁当を食べながらポセイドンと雑談をしていた。塩味濃い目のおにぎりが、鍛錬で汗を流した身体に染みわたって美味しい。
「そうは見えぬがな」
「やせ我慢してるだけだよ。ポセイドンは、この後はカナヘビと鍛錬か?」
「おう、そうだな。やはり亜神竜なだけあって、その潜在能力は目を見張るものがあってな。鍛え甲斐がある。靖殿も一緒にどうだ?」
カナヘビの奴、ポセイドンとの鍛錬が厳しすぎて二日に一回のペースで俺の所に来ては『あれ、もうちょっと手心を加えさせてくれ……』とか言ってきてるけど、いつ訪れるか解らない『魔人』たちとの決戦への備えとかまで考えるとカナヘビが強くなっているに越したことはない。
「カナヘビ、進化しそう?」
「まだではあるな。ただもう少しで一段階高みへ行きそうな気はしている。その時は是非、靖殿も見に来てやってくれ」
「解った。でも今日はいいや。孔明君に昨日のお礼も言いに行きたいし」
「そうだな。昨日の仲人の務め振りは見事なものだったと伝えておいてくれ」
「ああ、ありがとな。ポセイドンも祝ってくれて」
俺はいちかちゃんの弁当を食べ終え、それからポセイドンと別れ孔明君の所へ向かった。
◇
「あら、どちら様ですか?」
孔明君の家に出向くと、知らない女の人が俺を迎えだした。
「え、あ、い、いや、そ、その……こ、孔明くんいるかなって」
「孔明君?」
「い、いや、その……な、何でもないです。はい、すみません」
俺は知らない女性が開けたドアから中の様子をチラリと見て、孔明くんはいなさそうだったのでもう帰ることにした。……っていうか孔明君の家、応対した人以外にも何人も女の人いたな。
ハーレムなのかな? いやまあ別に、俺は友人の性癖を否定する気はないけど。複数人の女性と恋人になったりするとギクシャクしそうだし、凄く大変そうだなって思う。いや、孔明くんは俺と違ってコミュ力高いし、器用だしでその辺もそつなくこなしていけるのだろうか?
俺はそんなコミュ力あったとしてもいちかちゃん一人で十分すぎるな。
まあ孔明くん、外の国を治める首相だし忙しいのだろう。会えなかったなら仕方がない。お礼はまた明日とか今度とか、会えるときにしよう。
余計なこと言って、知らない女の人がいっぱいいる空間で「帰りを待ちますか?」とか言われたら地獄だからな。
俺はダンジョン内転移で、速攻家の前まで移動する。
ちょっと早めの帰宅になってしまったな。折角だし、当初の目的通りいちかちゃんと思う存分いちゃいちゃしよう。
そう思ってドアを開けると、俺の帰宅を察知したのかエプロン姿のいちかちゃんが出迎えてくれる。
……ってあれ、まってエプロンの下、なにも着てなくない?
「おかえりなさい、靖くん。じゃなくてアナタ。ご飯にする? お風呂にする? それとも……わ・た・し?」
「え? ……え?」
「えへへ。折角結婚したんだし、一回やってみたかったんだよね。新妻ごっこ」
「お、俺の嫁が可愛すぎるんだが!?」
「ちょ、や、靖くん!?」
はい。当然いちかちゃんを選んだし、その後一緒にお風呂に入ったし、晩ご飯を食べて精力を着けた後、さらにいちかちゃんを美味しくいただきましたね。
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昨日からヤングエース様にて、本作のコミカライズが連載開始されてます!
ARATA先生めっちゃ絵上手いし、想像以上に良い漫画にしてくれてるしで、めっちゃ良くてテンションが上がったので久々の後日談更新です。
マジで良いので、皆さんもよろしければ是非読んでみてください!
↓↓↓コミカライズ版のURLです!
https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000239/episode/7996/
それから最近『その視聴者、最強につき~推しのダンジョン配信者がピンチになると颯爽と助ける世界一位の探索者~』って作品も連載してるので、コミカライズ読んだ後にでもよろしければ!
スキルが見えた二度目の人生は超余裕、初恋の人と楽しく過ごしています 破滅 @rito0112
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