後日譚

後日談①『結婚式』

「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」


 俺たちの国の、ダンジョンの三十階層。

 かつてカナヘビがボスとして待ち構えたその洞穴を改造して用意した即席の教会にて、神父服を着た孔明君が憧れの誓いの言葉を並べ立てる。


「「誓います」」


 俺といちかちゃんの声が重なった。


「それでは指輪交換を」


 言われて左を向くと、白いベールに包まれた女神以上の美少女(天界で毎日女神の顔は見てるけど、それでもいちかちゃん以上に可愛いのはいない)が視界に入る。

 あぁぁぁぁ、何度見ても可愛い、綺麗、尊い!!


 ヴァージンロードを歩いてきたその時からもう感無量と言うか、いちかちゃんと結婚できるという嬉しみとドキドキで泣き出しそうだったんだけど、こうしていざ目の前にすると本当に、涙が浮かんでくる。


「や、靖くん!? な、泣いてる」


「ご、ごめ゛ん。晴れの日くらいちゃんとしたかったんだけど、いちかちゃんと結婚出来るのが嬉しくて……! ほ、本当に結婚するんだよね? 夢じゃないよね?」


「ちゃんと現実だよ? 靖くんはこれから私の旦那さんになるんだよ。だから、泣かないで? さ、流石にここまで喜ばれると照れくさすぎて、困っちゃうし」


 いちかちゃんは顔を真っ赤にしながらも、しんわりと目に涙を滲ませている。

 いちかちゃんは慧眼で心が読めるから、俺の嬉しさとか好きの気持ちがダイレクトに伝わっているのだ。

 そして俺といちかちゃんはそれぞれ使い魔、従魔契約を結んでいるから、俺にもいちかちゃんの気持ちが伝わってくる。


 多分同じ気持ちで、それで――二人分の気持ちが合わさるから倍嬉しい。


 俺といちかちゃんは指輪を交換する。俺がいちかちゃんに渡す指輪は神界に住む装飾の神様に交渉(物理)をして作ってもらった物。

 いちかちゃんが俺にくれる指輪は、いちかちゃんの手作りだ。世界一の指輪である。今後一生俺は薬指に嵌められたこの指輪を外すことはないだろう。


「それでは誓いのキスを」


 俺はいちかちゃんのウエディングベールを上げて、顔を見る。いちかちゃんのヘーゼルの瞳が俺を真っすぐに見つめてくれていた。


「いちかちゃん」


「もう、靖くん……そんなに泣かないでよ。心が繋がってるんだから、私まで、つられて――」


 誓いのキスを前にして、涙があふれて止まらない。

 そんな俺に釣られていちかちゃんも泣いて、その涙に共鳴して更に俺の涙が溢れてしまう。


 神レベルに成長したはずの『精神完全耐性』が仕事をしてくれない。

 最高神を片腕で倒せるくらいに上がったステータスをもってしても、この喜びの涙には抗えそうになかった。


「こんな、こんな俺だけど……いちかちゃんは、本当に、俺のお嫁さんになってくれますか?」


「当たり前だよ。それに――こんな、じゃない。靖くんだから、結婚したいんだよ」


「いちかちゃんっ……!!」


 俺はいちかちゃんの唇にキスをする。本当はおでこだったような気もするけど、感極まりすぎてその辺の細かい判断が出来なかった。

 思えば『超演算』や『並列思考』もあんまり仕事をしてくれてない。


「好きだよ、いちかちゃん」


「私も、だよ。靖くん」


「今、この両名は永遠の愛を誓い、夫婦となりました。佐島靖と小林いちかの二人が決め誓ったその愛は、例え神であろうと引き離すこと能わず。二人の友として、二人の真実を愛を見続けて来た者の解答です」


 孔明君が本来の誓約書の提示のときの言葉をクリスチャンではない俺たちの為に気の利いた言い回しにアレンジしてくれる。


 振り向くと俺の両親は「あんな筋トレバカ息子にもちゃんと嫁が……」と失礼なことを言いながら泣いていて、いちかちゃんの父親は「思いの外早くこの日が来てしまったな」と寂し気に呟き、母親が「昔から知ってる靖くんなら安心じゃありませんか」と言って慰めている。


 早乙女さんは「姐さん……本当に良かったですね」と目尻に涙を浮かべて小さく拍手をしていて、ポセイドンがそれをかき消すように「うぉぉおおお。めでたい! めでたいな!」満面の笑みで豪快に拍手をしてくれていた。


 最高神はポセイドンを鬱陶しそうに小さく睨みながら、むすっと少し不機嫌そうに座っていた。


 合計7人しかいない参列者。だけど神二人とお互いの両親。祝ってくれる面子としては十二分だった。


「靖くん、こういう場合もブーケトスってするのかな?」


「確かに」


 両親は言わずもがな既婚者だし、神々に結婚の概念があるのか甚だ不明だし。


「でもまぁ、幸せのおすそ分けってことでしてもいいんじゃないの?」


「そうだね」


 言っていちかちゃんが投げると、今までむすっとしていたはずの最高神が飛びあがってブーケをキャッチする。キョロキョロと周りを見てから、少し恥ずかしそうに、投げられたブーケを抱きしめていた。


 ……結婚、したいのかな? 最高神も。


「うぉぉおおお、靖殿! いちか殿! めでたい! 祝福するぞぉぉおおお!!」


 ヴァージンロードを通って即席の教会から出ようとすると、ポセイドンが暑苦しくライスシャワーをしてくる。

 なんかこう、慶事を一緒に喜んでくれるのは凄く嬉しかった。


 ポセイドン、筋肉も日に日にキレを増しているし、実直だし。本当にいい友人を持った。


 それに、今日神父の代わりをしてくれた孔明君も。何だかんだ色々あったけどこうして平穏に暮らせる国を作ってくれて、ダンジョンの最深部に住まっていると忘れがちだけど、ちゃんと統治してくれてるんだよな。

 そうでなくとも色々気遣ってくれて、良い人だし。


 数こそ少ないものの、どうやら俺は相当友人にも恵まれているらしい。


「あ、そうだ。靖くん。帰ったら、新妻ごっこしない?」


「ご飯にする? お風呂にする? ってやつ?」


「うん。どう?」


「めっっっちゃ良いね、それ。でもこれから披露宴だし、流石に明日になるかも?」


「何言ってるの? 靖くん。夜にするから良いんでしょ?」


 そ、それってつまりそう言う事だよね?

 ちょっと恥ずかしそうにしながら、悪戯っぽくはにかむいちかちゃんにはドキドキさせられる。


 なんだか幸せ過ぎて、夢みたいで、現実感がないけど俺――いちかちゃんと結婚したんだ。




――――――――――――――――――



拙作『スキルが見えた二度目の人生は超余裕、初恋の人と楽しく過ごしています』がスニーカー文庫様より、6月1日――つまり、今日発売です!


アニメイト様

『靖のトレーニングルーティーン』

ゲーマーズ様

『一年生のいちか』

とらのあな様

『佐島くんに寄り添いたい』

メロンブックス様

『亜神竜のご主人様』


こちらの4店舗のいずれかで購入すると、特典SSが手に入るそうです。


SSは本編では描かれなかったいちか視点や靖のトレーニングだったり、カナヘビとの絡みだったりを書いてみました。

全部読むと、SS同士のちょっとした繋がりもあったりするので、興味があるかたは集めて頂けると幸いです。


またWEB版と書籍版での変更点に関してですが、

靖の転生時の年齢が小学生から中学生に上がり、それに伴って色んな描写を書き変えた結果、まったく真新しい『二度目の人生』が完成しました。


数値のインフレや爽快感のある展開はそのままにしつつ、恋愛パートをパワーアップさせました。設定上小学生だったからやると不自然だと思っていたあれやこれやを詰め込んだので、是非、書籍版の方も読んでいただけると幸いです。


ではまた!


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