第2話 それぞれの片想い
「もう!見たでしょ!?今朝の瑞乃を!」
昼休み。お弁当を食べた後に広夢と2人で話をした。
「見たよ。すごい気分が良さそうだった。」
「柚がファインプレーしちゃったからね。日曜日どうすんの?康作誘ったの?」
「あ、まだだったわ。」
と、スローペースな広夢にイライラする私。
「何してんの!早く声掛けなきゃ!康作ダメだったら柚?柚ダメだったら誰に声かける?その辺も全部決めておかなきゃダメー!」
「純理、そんなに逢坂と瑞乃にくっつかせたくないんだ?」
と広夢に言われたけど、
「失礼な!!それもあるけど私は広夢が瑞乃と結ばれて欲しいの!!」
と返す。
「お、おう…。」
うん、でも広夢の言う通り、広夢や瑞乃の望む方向より、逢坂と自分の友達をくっつけさせたくないっていう私情が大きくなっている気はする。
あんなよく分からん八方美人エセ王子なんかとは付き合って欲しくない。なんで瑞乃、アイツを好きになるかなぁ。
ひとまず康作に広夢がその後予定を聞いたらしく、運良く空いていた。しかし危うく瑞乃にも「日曜日よろしくー!」なんて声をかけそうになったから、康作にも事情を説明する事にした。
「あぁ、そういう感じね!了解了解ー!」
と康作は納得してくれたけど、上手くいくかなぁ…。
そして迎えた日曜日。瑞乃には私が行けないから、代わりに康作と広夢が来てくれる事は土曜日に伝えておいた。
広夢には正直期待出来ないけど、康作が上手いこと2人をいい感じに持って行ってくれたら良いなぁ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
康作と瑞乃と俺は、康作の家の近くで会う事になって、そこの大型ゲームセンターのスポーツコーナーで遊ぶ事になった。瑞乃動くの大丈夫かな?と思ったけど案外楽しんでくれていた。一緒にフットサルコーナーにも入った。そこでサッカーのスキルを瑞乃に見せつけてアピールした。
康作は俺のこういう部分引き出す為にここを選んでくれたのかな?
康作には感謝だ…!
「広夢くんも康作くんもすごいね。こんなに動けるなんて。」
「いやいや!そんな事ないさ!な、広夢!」
「う、うん。」
緊張するな俺…!もう少し自然に話せないのか!?
それからカフェゾーンで休む事になり、康作が3人分のドリンクを買うために並んでくれる事になった。
康作の気遣いだ。俺と瑞乃を2人にしてくれた。
でも、なんの会話をしていいか…。
そもそも、俺が何故瑞乃を好きになったか。
それは、一学期の時に社会の授業で前後の席の人と調べ物をして発表する。という項目があって、その時に一緒のペアになったのが瑞乃だった。こうしようああしようって、健気に頑張る姿とか、空っぽの頭振り絞って出した俺の案を否定しないで良いね!って必ず承認してくれて、一緒に図書室に行って資料借りて…。なんてやっていたら、どんどん瑞乃に夢中になってた。見た目も可愛いし、こんな子が彼女だったら良いなって。
でも、その授業以来ちゃんと話してなくて、今の席も遠い。
だからこんな風に2人きりになるのは久しぶりだし、あの時は授業の題材があったから、喋る話題は作れたけど、今はそうじゃない。
すると、俺に瑞乃から話しかけてきた。
「ねぇ、広夢くんってパンは好き?」
え?パン…?
「うん。好き好き。」
「そうなんだ。何パンが好きなの?」
どうしてこんな事を聞くんだ??と思いながらも俺は普通に返答する。
「俺はカレーパンとか、焼きそばパンとか、それからコロッケパンとか、ガッツリしたやつが好きかなぁ。」
「そうなんだ!甘い物は苦手なの?」
「甘い物?いや、苦手じゃないけどカレーパンとあんぱんが並んでたら、カレーパン取るなぁって感じ。俺はね?」
「ふーん、そうなんだ。」
と頷く瑞乃。気になって、
「急にどうした?」
と聞くと…
「いや、この間ね、A組の逢坂くんって分かるかな…?その子にパンをプレゼントしたの。小説を貸してもらってそのお礼にね。」
なんだよ。逢坂の話かよ。
なんでそんなに嬉しそうに話すんだよ。
「それで、クリームパンとメロンパンを渡してね。喜んでくれたんだけど、男子って甘い物苦手な人もいるから、逢坂くんは本当の所どうだったのかなぁって。実は広夢くんみたく、しょっぱい系の方が良かったかなぁと思ってね。」
くそ。そんな話なんて聞きたくないよ。俺はどう返したら良い…?瑞乃はどう返して欲しいんだ?
「広夢くんはどう思う…?」
そんなの知らない…!と言いたいけれど、瑞乃は真剣だ。ここは傷つけてはいけないと思い、
「逢坂がどんな奴かは分からないけど、絶対に全部食べきったと思うし、例えしょっぱい系の方が好きだったとしても、プレゼントならそんな事関係ない気がする。純粋に喜んで食ったんじゃないのかな?」
この返しが100点満点かは分からないけど、瑞乃はホッとした表情になって、
「そうだと良いなぁ。」
と言った。
俺にもそうやってプレゼントしてよ。と言いたいけど、なんで?と返されそうで怖くて言い出せなかった。
好きなんだな。瑞乃は逢坂が。知っていたけどそんな光景を目の当たりにするのは辛い。
それから康作が戻ってきてしばらく休んでからまたスポーツ再開。別のゾーンへと移動した。その時だった。
「え…!?」
嘘だろ…!?
「よぉ!康作じゃん。」
「清人くんじゃん!あれ?隣の子ってA組の!?逢坂くんよね?」
何この組み合わせ…!
その場に出くわしたのは生徒会長の徳原先輩と、なんと…俺が今日1番会いたくなかった逢坂がいた。
「そうそう。コイツ幼なじみ。」
と徳原先輩。
「雅、会ったことない?俺と幼稚園と中学が一緒の康作。」
「幼なじみだったんだ。彼とは選択授業で授業一緒なんだよ。市川くんだよね。」
「うん!そうそう!」
逢坂は今日もキラキラして、かっこよかった。男から見ても美青年だ。
徳原先輩と康作が中学一緒で部活も一緒だから仲がいい事は知っていた。でもまさか逢坂と徳原先輩までもが繋がりがあったなんて。
瑞乃はまさかの展開に驚いていた。なんだか顔も若干火照っていた。
「丁度ダーツしようかって話になってたんだ。康作達も混ざればー?」
と徳原先輩。
「広夢!瑞乃!良いかな!?」
と康作も言い出して、結局5人でダーツをする事になった。
ダーツなんて俺、全然やった事ないからなかなかブルに当たらない。康作も意外とヘタだった。しかし、徳原先輩と逢坂は違った。ほぼほぼ2人の一騎打ち。これじゃ力の差が…と思ったのか、徳原先輩がチーム戦にしようと言い出す。ゲームはゼロワンだ。2人ペアの所は交互に投げる事になっている。
強い2人をバラけさせて、ジャンケンの結果、最悪の自体に…。
俺は徳原先輩と。康作は1人で、瑞乃と逢坂がペアになってしまったんだ。
「逢坂くん、どうやったら上手く飛ぶか教えて!?」
瑞乃はグイグイ話しかける。
「投げるタイミング少し遅いかも。矢を離す所が一定じゃないんだ。」
そう言ってボディタッチし始める。と言っても投げ方のフォームを真面目に教えているだけだ。瑞乃のやつ、ドキドキしてるのが傍から見て丸わかりだ。
俺が瑞乃に教えたい…。そんな技術があれば良かったのに。
純理が逢坂を嫌う理由が何となく分かった気がする。コイツ、抜けが無い。何か弱みとか無いのか…?
「あぁ!いい感じになったね!」
逢坂から教わったあとに投げた瑞乃のダーツの矢は、ブルこそは当たらなかったが真っ直ぐと飛んで的にしっかり当たるようになった。
教え方も上手いと来た。
しかも、逢坂がブル連続で当てて一気にトップに躍り出た。
なんだかこのまま終わるのも悔しい。俺もいい所を見せたいと思って頑張ってみたけど、ブルに当たったのは1回。でも瑞乃のテンションは、逢坂がブルに当てた時と明らか違う。このあからさまな差がキツイ。
結局、どのチームもなかなかトドメをさせない中、逢坂のダーツの矢が見事命中してカウントがゼロに。結局逢坂と瑞乃のペアが勝利する事に。
「やったー!逢坂くんすごい!」
そう言って瑞乃は逢坂にハイタッチをしに行く。そしてそのままちゃっかり手を握っていた。逢坂はダーツの矢を持ちっぱだったから握り返すとかは無かったけど。
悔しい。
悔しい…!!
すると徳原先輩が、
「この人数いるならちょっと一瞬2on2付き合ってよ。」
と言い出して、5分だけ瑞乃にはバスケコートの網の外で待っててもらって、対決をする事になった。徳原先輩と康作のバスケ部2人が同じチームだと不公平なのと、さっきのダーツで俺が徳原先輩とペアだった事から、康作と俺、徳原先輩と逢坂というチーム分けになった。
俺はサッカーなら得意だけど、バスケはサッカー程実力を出せない。
そしてバスケ部2人が強い。康作もフォローしてくれて、すごくやりやすいけど…
逢坂がここでも活躍してくるんだ。
カットして俺からボール奪うし、
徳原先輩からナイスパスされてランニングシュート決めちゃうし…。
瑞乃は瑞乃で…
「逢坂くん!頑張れ!」
なんて…。逢坂の応援しかしてない。
逢坂雅、こいつはなんなんだよ…。
本人にその気が無いのも、悪気が無いのも重々承知している。でもゴメン逢坂、
俺の邪魔をしないでくれ。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ねぇ、どういう事!?説明して!瑞乃から逢坂に会えたってLINE来たんだけど!」
昼休みに中庭にて康作と広夢の3人で話す私。もちろん、まさかの展開になっていたなんて驚きで、私はついつい大声になる。
「いやー、その通りなんだよー。」
と康作。
「3人で騒げたらいいなと思って、俺がよく行く大型ゲームスポーツセンター的なところに連れていった訳。そしたらそこでたまたまバッタリよ。」
「何それ、一人でいたわけじゃないでしょ?向こうだって連れが居たんじゃなくて?」
「居たよ!清人くんが。」
この言葉を聞いて私はそっちに驚く。
「待って、清人先輩いたの!!?待って、え!嘘でしょ!?」
なんで日曜日部活なのよー!!!清人先輩と遊べるなんて羨ましい!!!!私はついそんなリアクションをしてしまった。
「てか、逢坂と清人先輩ってどういう組み合わせよ!?」
「あぁ、あれよ。清人くんと俺が幼稚園で一緒だったって話したことあったっしょ?清人くんが引っ越して、学区違くなっちゃったけど、その小学校の時に一緒だったのが逢坂くんなんだって。近所だったからよく遊び相手になってたらしいよ。」
嘘、逢坂と清人先輩が幼なじみ…!?知らなかった。広夢と瑞乃の展開を聞くはずが、清人先輩の事で頭がいっぱいになってしまった。
「清人先輩と何したの?」
「ダーツとねー2on2した!でもあの時はごめんな広夢。大事な作戦だったのに。」
「良いよ。徳原先輩が康作の幼なじみじゃし仕方ないよ。」
と広夢は言うも、悔しそうだった。
良いなぁ瑞乃。
清人先輩と遊んだ事なんて無いのに。
…じゃなくて!!結局のところ瑞乃は逢坂と遊べてラッキー!ってなった訳だよね!?
「2人のことは引き離した?」
「いや、チーム戦でダーツやったりして、バランス的に逢坂くんと瑞乃が組まざるを得なくて一緒になったりしたよ。」
と康作。
「あーー。なんてこった…どんどん2人が仲良くなっていくじゃん。」
と嘆く私を前に、広夢がこんな事を言ってきた。
「純理が逢坂がムカつくって言ってきた理由が何となくわかったよ。」
「え?」
「アイツ、全然抜け目ないのな。ダーツも上手いし、バスケだって…さすがに部活で現役の先輩や康作には敵わないけど、でも俺より遥かに上手かった。勉強だってアイツが首席だろ?って思った時に、アイツ一体なんなんだって思って。」
広夢はベンチの背もたれにどかっとへばりつき空を仰ぐ。
「ほんと。だから私は勝手にAIって呼んでる。」
その発言に康作は笑い出す。
「AI!?ヤバくないそれ。」
「だってそうじゃん。」
所が康作はこう言う。
「俺はそうは感じないけどなぁ。」
すると昨日の話の続きを話し出す。
「広夢、最後に昨日卓球したっしょ?逢坂くんがやりたいって言って。」
「あぁ、うん。」
「あれでさ、まだ俺とペアになってないって事で俺と逢坂くんがペアになって、清人くん審判の、瑞乃とペアになったでしょ?」
「うん。なったな。」
「あれ、逢坂くんの測らいだと思うんだよね。」
「…は?」
広夢は背もたれに寄りかかるのをやめて、前のめりになる。
「康作、どういう事よ。」
「いや、分かんないけどね。それに逢坂くんがちょっとだけ手加減してるようにも感じたよ。」
「手加減!?まぁ確かに、バスケよりは苦手なのかなとは思ったけど。」
「多分、瑞乃相手に本気になるのもって思ったんじゃない?あと1つ理由があると思うんだけど、なんだと思う?」
「え?」
そこまで聞いて広夢はまだしっくり来てなさそうだったけど、私には分かった。
「まさか…逢坂に気付かれてる…?」
と私が言うと。
「俺の憶測だけどね。でも、好きな子にいい所見せてあげたいっていう男心を汲んだようにも見えたよ。だから自分から俺とペアになってないから組もうよって言ってきたような気もする。」
と返ってきた。
すると広夢は、
「はぁ!?なんなんだよ。余計なお世話だっつの。なんでアイツにそんな事されなきゃなんねーの?」
とイライラしだした。
「……ダメだろそれ。アイツがそんな事してたとしたら…瑞乃が辛いじゃん。」
それから教室に戻ってくると、瑞乃が私にこんなものを見せてくる。
「ねぇ!これ、脈アリかな?今朝、逢坂くんからこんなLINEが来てたの!」
そう言って瑞乃のスマホを手に取って見てみると、こんなメッセージが。
まず、瑞乃が昨日の夜に、
〈今日はありがとう!すごく楽しかったよ!スポーツ全般得意なんだね!かっこよかった!〉
と送っていた。
かっこよかったとか言える辺りがすごい。グイグイ行っていた。その返信がこれだ。
〈おはよう。昨日はありがとね!こちらこそ楽しかったよ!全然だよー(笑)また遊ぼうね!〉
だった。
私から見たら社交辞令のようにも取れるけど…。
瑞乃はウキウキしていた。
相手が好きな人だとこれだけでも嬉しいんだね。
「これだけ?って感じするけど…」
「えー!?でもまた遊んでくれるんだよ!?超嬉しい事じゃん!逢坂くんにデート誘ってみようかな…?」
「早くない!?それに、社交辞令でまた遊ぼうねって言っただけかもよ?」
「そんなの分かんないじゃん。あー…デートはまだ早いのかなぁ?」
そんな会話をしている時に少し想像してみた。清人さんからLINEでまた遊ぼうねって言われたらどんな気持ちかな?って。
考えてみたら、結果それはとても嬉しいもので。
そんな事を思ったら、清人先輩に早く会いたくなった。今日の放課後会えるかな…?
という形で迎えた放課後。今日は残念ながら体育館全面バド部が使う日になっていた。なんだよ。半面バスケ部であれよ。
でも、部活の終わり、私たちがポールとかを片している時に、バスケットボールを持って清人先輩が1人で体育館にやってきて…。
シュートの練習を始めた。
今日はバスケ部は外練だったのかな?
清人先輩は制服姿だった。制服でバスケをする姿もかっこいい。
「何見てんのー?」
話しかけてきたのは光陽だった。
「わ!!!びっくりしたー。」
「そんなに驚く程じゃないでしょ?何?清人先輩ファン?」
と光陽に言われて慌てる私。
「うるさい!!」
光陽はクラスも同じで部活も同じだから仲がいいんだけど、この人羨ましいのが、生徒会のメンバーなんだよね。だから清人先輩に容易く話かけられる。
「清人さん!練習っすか?」
と光陽。
「おお!光陽じゃん!あ、丁度良かった。俺向こうから走るからパスしてよ。」
と言って光陽を練習に巻き込んだのだ。
「先輩…それは私が…!」
と言いたいけどそんな私の小さい声は通らず…。
「井上ちゃん!そこに1個落ちてるシャトル拾ってカゴに入れてー!」
「あ、はい!」
ずっと清人先輩を見ていたいけど、そうにはいかず…。私はバド部の先輩に呼ばれてシャトルの片付けに行くことに。光陽とポジションを交代したかった。
先輩…話したい…!
先輩と話したいよ…。
それから着替えた後に体育館に最後にもう一度行ってみた。
すると…先輩がまだ1人でシュートの練習をしていて…。
「あれ?純理ちゃん?」
私はドキドキして上手く話せなくなる。
「お…お疲れ様です。」
「お疲れ様。ごめんね、片付けてる所乱入して。」
「いえいえそんな…!今日はずっと外練でしたもんね…。」
「うん。そうだね。」
清人先輩は綺麗なシュートを投げる。全然ネットにかすりもしない。
「純理ちゃん、バスケ好き?」
「…す、好きです!」
あれ…なんか告白みたい。と思った一瞬。すると先輩から山なりの緩いボールが飛んできた。
「ちょっと打ってみてよ。」
え!?私が清人先輩の前でゴールを!?
「良いんですか?」
「うん。」
私は普段通り、授業で投げているやり方と同じ方法でボールを投げた。でも恥ずかしい事にゴールを外してしまった。
「すみません…入らなかったです。」
「はは!なんの謝罪よ!」
と清人先輩は爽やかに笑って返す。
「いや、女子って普段どう投げるのかなって。極々たまに、女子練にも混ざって教えてやってくれって部長に頼まれるんよ。」
「女バス部長の紺野先輩ですか?」
「そうそう。あのキツネに。」
「キツネって…。」
「あぁ、紺野だからコンでキツネね。それでまぁ、女子に教える時にどう教えたら良いのかもそうだけど、そもそもどういう力の入りをするのかとか、ちゃんと細かくまでは見た事無かったなって。それに、一人一人の改善ポイントをすぐに見抜けないと、本人達も改善されないからね。」
すると清人先輩は人差し指を立てて、
「ごめん、もっかい投げてみて?」
と言う。
「分かりました。」
深呼吸してから投げてみると、次は何とかゴールを決められた。
「お、ナイス!」
と喜ぶ清人先輩の笑顔にドキッとする私。清人先輩に褒められるの、こんなに嬉しいんだ。
「ありがとうございます。」
「やっぱり女子って投げ方こうだよなー。」
「え?」
「いや、本当はさ、両手でこう持ってゴールに向かって突き上げるように投げるやり方だとさ、左右均等の力が入らないと曲がるんだよね。純理ちゃん、利き手右だよね?」
「そうです。」
「だから利き手の方が力強くなるから、左に曲がるんだよね。」
「なるほど…!清人先輩はどう投げるんですか?」
「俺?俺はこう。」
という事で清人先輩がもう一度ゴールを決めるのを見せてくれた。本当に綺麗なフォームだ。
「手の置く位置違うの分かった?」
「はい。」
そしてしばらく清人先輩から投げ方を教えてもらって、短時間の中でもうまくシュートが決まるようになってきた。
好きな人から教えて貰えるって、幸せだな。
このまま時間が止まれば良いのに。
でもその後先輩は、同級生が迎えに来てしまって、体育館を一緒に出て校門辺りで解散した。
先輩は同級生が来るまでの間、時間を潰しに来ただけだったんだ。
でも、その時間潰しの相手になれたんだったらそれでいいや。
本当はこのまま、一緒に帰りたかったけどね。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それから次の日の昼休み、私は放送委員の当番の関係で放送室にいた。放送室は放送委員以外に放送部の人達も来る。なんだかちょっとした溜まり場だった。そこで仲良くしてるのがノブこと、A組の加藤信彦くんだ。そう言えばこの子、よく逢坂と一緒にいる気がする。仲良いんだろうな。
という事でノブと迎え合わせでお弁当を食べた。
「ねぇノブ!ノブってさ、逢坂雅と仲良いの?」
「あぁ、うん。純理、好きなの?」
「なんでやねん!!」
「あれ?違った?これまで俺に仲良いのか聞いてくる女子は大体雅の事好きな女子だったから。」
「違うよー。好きなのは私じゃなくてクラスの友達。困ってるんだよ。」
「困ってる?」
ノブは首を傾げる?
「その友達と逢坂がくっ付くのをなんとか阻止したいの。」
「えぇー?なんだそりゃ、どういう事?」
ノブにはヒソヒソ話で簡単に内容を伝えた。
「あぁ、広夢くんが瑞乃ちゃんをねー。」
広夢とノブの2人は選択授業で被るらしく、そこで仲良くなったようだ。
「なるほどね、それで純理は広夢くんと瑞乃ちゃんをくっ付けさせたいと。」
「うん。でも、瑞乃は逢坂とくっ付くのを望んでるし、ちょっと心苦しい部分はあるんだけどね。」
「なんでそこまでしてくっつけさせたくないの?雅と瑞乃ちゃんを。」
と言う質問にはちょっと答え難かったけど、これを言わないと話が繋がらない為、ノブにも伝えた。
「私が逢坂嫌いなの。」
「嫌い!?」
「だって彼、何考えてるか分からないし、AIみたいなんだもん。そんな相手と瑞乃がくっ付くのはちょっと…。」
ノブはそれを聞いて笑い出す。
「あの子はAIなんかと程遠いよ。意外と不器用な面もあるよ。」
「えぇ!?」
「気になるなら雅に話しかけてみればいいのに。」
「嫌だよ!面倒臭いもん。アイツに話しかけたら周りの逢坂ファンが黙ってないし、言い寄られるのとかウザくて嫌いなの。今後逢坂と話す事なんて一生無いんじゃないかな?」
そう言って私はお弁当のおかずを口にぶち込む。
「どっかしらであるでしょう。」
「嫌よ!」
そんな私にノブは言う、
「あの子、俺の幼なじみなんよ。だからこそわかるけど、良い奴だよ。」
「…え?」
幼なじみだって…?
「意外とみんな知らないけど、俺と雅と生徒会長いるでしょ?3人でよく公園遊んでたのさ。」
待って、ここにも清人先輩と遊んでた人いたーーー!!
「清人先輩と幼なじみ…!?」
つい声が大きくなってしまった。
「そこ!?」
「あ、ごめん…。」
私の言動を見てノブは笑ってしまった。
「ちょっと、笑わないでよ。」
「純理、大丈夫だよ。黙っておくから。」
え?悟られた?
私って分かりやすい…?
もしかして昨日のあの反応で広夢や康作にもバレた…?噂にならないと良いけど…と心配になった。
恋愛は面倒臭い。バレたらすぐに噂が回ったりして、みんながギャーギャーと騒ぎ立てる。くっ付くなとか、その子の事はあの子の方が先に好きだったとか。
これ以上私の好きな人が清人先輩であることをばらす訳にはいかないんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部活の帰り、柚とこの間学校に行く前に寄った、駅前のパン屋さんを覗いて見た。するとそこで逢坂くんが働いているのが見えた。
自宅の食パンがそろそろ無くなりそうだったし、逢坂くんとも話したいから寄って行こう。
私は緊張しつつも、深呼吸をして胸の鼓動を落ち着かせてからお店の中に入った。
「いらっしゃいま…あれ?安藤さん。こんばんは。」
今日は店長さんはいないみたい。フロアには逢坂くんともう1人バイトの男の子と、レジにはバイトの女の子がいた。
この時間帯は高校生がシフトに入る事が多いのかな。
「逢坂くん、今日はバイトの日だったんだ。」
「うん。今日はこの店舗でのシフトの日なんだ。」
「そうなんだ。」
逢坂くんの制服姿はかっこよくて、眩しかった。白がとても似合っている。
「…あ、あの!食パンってどこにある?」
「食パン?それならこっちに置いてあるよ。」
そう言って食パンの置いてある棚を教えてもらい、それから何かもう1種類くらい買いたいけど、逢坂くんがレジに応援に入ってしまい、聞くに聞けなくなってしまった。
拝めるだけでも嬉しいけど、でも…もっと話したい。
そう思いながらも棚を眺める私は、美味しそうなパンを見つけた。
ホイップクリームのたっぷり入ったコロネだった。いい匂いもするし美味しそうだ。焼きたてなのかな?そう思ってトングで取ろうとした時に、
「これ、さっき焼き上がったばっかなんだ。」
と、後ろから逢坂くんがレジを終えて声をかけてきてくれたのだ。
「へ、そうなの!?逢坂くんが焼いたとか…?」
「うん。俺が焼いた。」
「すごい!!そうなんだ!1人で?」
と聞いてみるとサラッとこう答える。
「うん。こう見えてある程度のパンは作れます。親に小さい時に叩き込まれててね。」
「え、すごい。」
そういう訳で、食パンと一緒にこのコロネも合わせて買うことにした。
「俺がレジをやるよ。」
と言ってレジまでやってくれた。
逢坂くんと距離が近くて緊張する。ダーツしてた時だってそうだ。距離が近くてどれだけドキドキしたことか。
好きだなぁ…。彼の事。
そう思っていると気が付いたらボーッと彼をただただ見つめてしまっていた。
「どうしたの…?」
「あ、え…いや…。」
そんな時に純理から言われた
社交辞令かもしれないじゃん!
という言葉を思い出す。
そうだ、思い切ってデートに誘ってみよう。
「逢坂くん…その……。今度の土曜日って…空いてるかな…?」
「え?」
「その…。また一緒に遊びたいなー…って。」
その時の私は逢坂くんの目なんて見れなかった。どう返ってくるのか、彼のこの後する反応を見るのが怖くて…。
彼の返事はこうだった。
「ごめん。その日は先約があるなぁ。クラスの女子に誘われてて。」
そうだ、彼はモテるんだもん。
「そ…そっか。」
彼と遊びたい人なんてたくさんいるんだ。
イコールそれは、彼を狙ってる人がたくさんいるってことでもある。
どうしよう。逢坂くんが取られる…。
私が行動しない間に誰かと結ばれてしまったらどうしよう…!
「ごめんね、忙しいのに誘ったりして。」
「そんな事ない。誘ってくれてありがとう。」
そのままお会計を済ませて、逢坂くんと外へ。お店の外までお見送りしてくれるみたいだ。
「来てくれてありがとう。帰り道気を付けてね。」
「うん。」
その時だった。
「…その次の週の日曜日で良ければ空いてるよ。」
そんな事を言ってくれるなんて…!!
私は慌ててスマホの予定のアプリを見て確認する。
「日曜日…9時から13時までは部活で、それ以降なら空いてるけど…?」
いつも部活を邪魔だと思わない私でも、今ばっかりはこんな日になんで部活なの!?と思ってしまった。
でも逢坂くんは言った。
「俺、その日1日フリーだから空けておくよ。もう少し先になっちゃうけど、その日に会おうか。」
と笑顔で答えてくれた。
「え…!!良いの…!?」
「うん。良いよ。」
どうしよう、嬉しい。嬉しくてたまらない。
「ありがとう…!」
でも、これって2人きりってことでいいのかな?
念の為確認してみた。
「それって…2人で……って事で良いのかな…?」
逢坂くんは首を傾げて、
「…が、いいの?」
と尋ねてくるから、私は照れながらも首を縦に振る。
嫌だって言われたらどうしよう…!!
困らせてないかな??
なんだコイツって思われてないかな??
私はそのまま目をギュッと閉じて返事を待つ。逢坂くんは、
「安藤さん、可愛いなぁ。良いよ。」
そう言って微笑んで頭をポンと一瞬撫でてくれた。
その破壊力は凄まじいもので、心臓が痛くなった。
こんなたった数秒の言葉や素振りだけでもダメだ。もっと上手く喋れなくなるし、もっとちゃんと相手の顔を見れなくなる。
「それに、最初から2人でって事だと思ってたし。じゃあ、また明日学校でね。」
「うん!」
何あれ…。
ねぇ純理、彼の言葉は社交辞令なんかじゃなかったよ。
ちゃんと思いの籠った言葉だったよ…!
続く
雅くんはいつもキラキラしている ちぁる @believearashi
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