あとがき
ポインセチアをお読みいただき、ありがとうございます。
クリスマスらしい希望に満ちた話かと言われれば、書いたわたし自身もうーんと首を傾げざるを得ません。しかし、本話を書くにあたって最初にわたしが設定したコンセプトは「置かれた状況の中で少しでも明るい地平を目指す」です。それは達成できたかなと思っています。
◇ ◇ ◇
本話を書くきっかけになったのは、文字通り購入したポインセチアです。わたしはホームセンターで購入することが多いのですが、時期になればどのスーパーの店頭でも売られるようになりますね。そして彼らが必ずしも丁寧に扱われていないことを、いつもこの目で見続けてきました。
専業ゆえに手を抜かない園芸店や園芸担当の店員がいるホームセンターと、花鉢も無数の商品の一つでしかないスーパー。その違いが鉢物の扱いの差に表れているのかもしれません。でも、それで片付けてしまっていいのかなあと、ふと思ったんです。
どうしてか。自分で育ててみると、理屈はわかっていても思うようにいかないからです。
苞が大きくならない。短日処理がうまくいかない。剪定をしくじって枯らす。滞水させれば根腐れし、水やりを控えれば干上がって落葉する。手をかけすぎるのがいけないのかと放置すれば、オンシツコナジラミの総攻撃を食らって葉が全部落ちる……。
たった一鉢ですよ。その一鉢のポインセチアをきちんと管理するのに、恐ろしく手間暇がかかるんです。わたしがそれだけしか育てていなければ、徹底的に手をかけますけどね。わたしにとってその鉢は、たくさんある鉢植えの一つに過ぎません。
で。ああそうかと思ったんです。わたし自身も同じだな、と。わたしは、他者から見れば特徴のない普通のおっさんに見えるでしょう。ですから大勢の他者と同じ場所に並べられます。でも他者と同じ扱いをされた時に、同じように成長し、同じように花を咲かせられるわけではありません。じゃあ、そういうのをモチーフにして書いてみようかなと。
◇ ◇ ◇
いつものことではあるんですが、わたしは直球を投げたくないへそ曲がりなので、本話の執筆にあたってもかなりひねくれた書き方にいたしました。ポイントは三つ。それに、ちょっとだけ触れておこうと思います。
一つめ。本話には、主人公の横井さんを含め、突出した人物を一人も設定しませんでした。しっかり人物を動かすのが小説の基本だと思うんですが、そのアクションをあえて抑えました。
例えば。主人公の横井さんが何も行動しなかったわけではないんですが、本話の駆動者は必ずしも横井さんではありません。店長を極めてパワフルな人物に造形しましたが、スーパーマンにはしていませんし、店長の決断も決してウルトラCではありません。シンママ田村さんを冒頭に登場させて恋バナ系を匂わせておきながら、そこはまるっきりスルー。横井家の再生も、ぎりぎりまで低いレベルに抑えました。なぜ話のイルミネーションの輝度を下げたか。現実から大きく乖離しない話にしたかったからです。
そして本話では、貧者に施しのできる人が一人も出てきません。誰もが、程度の差こそあれ喪失を抱えているんです。その喪失を埋めて前を向くには、他者による施しより先に自身の生命力が要る。それをポインセチアで象徴させました。
二つめ。『停止』という通常はネガティブな意味で捉えられやすい概念を、ポジティブに使いました。
水管理の失敗でダメージを
三つめ。視点の変化を話の根幹に据えました。立ち位置が激変することで初めてもたらされる視点の変化を、筋にふんだんに盛り込んであります。喪失と発見はその最たるものですが、他にもいろいろな視点の変化を取り入れています。
生産者と消費者。
雇用者と被雇用者。
上昇中と下降中。
ピンチの時とチャンスの時。
緊張と緩和。
主人公だけでなく多くの登場人物が自らの立ち位置を揺すぶられ、強制的に視点を動かされています。各人の動いた視点から見えたものはなにか。それを本話から拾っていただければ幸いです。
◇ ◇ ◇
取り組んだ実験要素をどれだけこなせたか。実のところ、必ずしも納得できる形では書ききれませんでした。まだまだ鍛錬が必要だということなんでしょう。今後スキルアップするのが先か、ボケるのが先か……微妙なところです。
最後にもう一度。拙作をお読みくださったみなさんにあつくお礼申し上げ、あとがきに代えさせていただきます。
ポインセチア 水円 岳 @mizomer
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