エピローグ

とある占い師の独白

 エイミたちと別れてから数時間後。

 ラディカはパルシファル宮殿での用事を終え、サル―パへ戻るためアクトゥールの街を一人歩いていた。

 彼女にとって特別な存在であるアルドの危機を告げられた直後……にしてはその表情に焦燥の色はなく、どちらかといえば難しいクイズに挑戦しているような思索顔である。


「うーん……やっぱりわからないわ。アレはどういう意味だったのかしら?」


 あれからずっとラディカの頭を悩ませているのは、先ほど占ったアルドの運勢の結果であった。


「『混沌』の正位置と『死神』の逆位置……『死神』の逆位置はむしろ『復活』を意味するのよね」


 話を聞いた時は焦ったが、この占いの結果ならアルドの無事は間違いないはずである。凄腕の占い師であるラディカにも不得手なジャンルはあるが、『死』に関する占いに関してはむしろ得意分野であり、『死を否定する』結果が外れることはまず考えられなかった。

 それをエイミたちに伝えようとしたのに、『死神』という言葉のイメージだけで悪い意味に捉えた彼らはラディカの話を聞かずに行ってしまった。


「まったく、本当に話を聞いてくれない人たちばかりなんだから……。でも妙よね。この結果を順当に解釈するなら、『アルドは元気になるけど、それが原因で大騒動になる』――ということになるけれど。でもそれってどういう状況?」


 これまで占いの結果の解釈で悩むことなどそうはなかった。「誰の」「何を」占うかである程度パターンは絞られてくるし、珍しい結果であっても、その意味を類推することはラディカにとってさほど難しいことではない。

 だが、今回ばかりはいくら考えても正解にたどり着けそうもなかった。


 ふう――と、ラディカは諦観のこもった溜息をつく。


「まあいいわ。あの人たちの未来が予測もつかないのは今に始まったことでもないものね」


 アルドたちと共に冒険をしたあの日々から、ラディカの人生は劇的に変化を遂げた。だが、彼らと出会う以前にラディカが未来について占った際、果たしてそんな未来はまったく予測できなかったのだ。

 占いはあくまで占い……〝現時点で起こり得る事象を導き出す〟ためのものであって、何らかの不確定要素、あるいは結果を上書きするほどの強い力が働いた時、因果の螺旋は形を変え、未来は完全なる白紙となる。


 そして――アルドたちはきっと、その中心にいるのだ。

 未来を変える力を、彼らは持っている。


 そこまで考えた時、一人悶々と頭を悩ませていたことが急に馬鹿らしく感じられてきて、ラディカは思わず噴き出した。


「ふふっ。今頃はきっと問題も解決して、皆で笑い合ってる頃かもね」



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主人公が消えた日 一夜 @ichiya_hando

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