恋惚恵美(こいぼえみ)は公務員なのに21時出勤の仮想空間動画配信者

まま

第1話 順調な公務員生活、2年目の始まりのはずが?

4月1日、新生活の始まりの時期。サクラが咲き、学生が社会人となるとなる時期でもある。

また、年度の変わり目でもあり、場所を変えて、新たな生活が始まる人も多い。

とは言っても、全く変わらない人も多いわけで‥‥

「おはようございます!」

今日も元気に定時出勤、恋惚恵美、公務員生活2年目の始まりです!


恋惚恵美、出身は星居村ではありませんが、星井村の職員として無事2回目の春を迎えることが出来ました。

2年目と言っても、部署は去年度と変わらず商工振興課所属なので、そこまで新年度という感じはありませんでした。

課長に声を掛けられるまでは‥‥

「恋惚さん。ぶいちゅーばー?だったかの資料、予算通って今年度から始めるから、机の上の資料よく読んでおいてね。」

「あ、そうでしたね。今日から新年度ですもんね。」

担当者「恋惚恵美」と書かれた資料をパラパラめくりながら、私は自分が立案した政策を置き去りにしていたことをこっそり課長に隠しました。

「へえ、結構かわいいじゃないですか。『星居いちか』ちゃんかぁ。」

あの予算でよくここまで出来たなあ、と思いながら、資料を読んでいると、ある違和感を感じたので、課長に尋ねました。

「課長、vtuberの声優さんは誰になったんですか?人件費のとこに1万としか資料には書かれてませんけど。」

仮想空間に存在するvtuber、とは言っても、実態は3Dモデルを動かして、声優さんが声を当てている、というのは皆さん周知の通り‥‥なのでしたが、課長から返ってきた返事は予想外の内容でした。

「人件費?君が出してきた内訳の通りのはずだが。」

「え?」

私は驚きながら自分で作った計画書を見直すと

「嘘でしょ‥‥、人件費に1万円しか計上されていない!なんで?」

計画書を何度も見返しても『人件費1万円』としか書かれていませんでした。

どう考えても予算が足りません。

なぜ1万円しか予算を計上しなかったのでしょうか?

私は計画書を提出した2月を思い出します。


「うーん、これじゃ予算オーバーで通らないよ。なんか削れるとこない?」

そのころ、vtuber計画書を書いていた私は大きな問題に直面していました。予算の問題です。

「ふるさと納税結構集まりましたよね?どうしてなんですか?」

星居村は村公式vtuberをデビューさせるために、ふるさと納税を活用して寄付を募っていたのでした。

村公式のvtuberという今までに無い取り組みに対して寄付金は多く集まり、余裕で1人のvtuber運営費用1年分は集まっていた、はずでした。

「いや、寄付はあつまったんだが、『主にvtuber整備運営に用います』としていて、他のとこに少し寄付金が流れちゃったんだ。」

「はい?どこですかそれ?今からその部署に殴り込みしてきていいですか?」

そうは書いてあったとしても、多くの人はvtuberの整備運営に使われると思って寄付したはずです。寄付して下さった方の期待を裏切ることになってしまいます。

「それが、私もそう思って聞いてみたら、子供の医療費に回されたみたいでな。」

痛い所を突かれました。星居村は数年前から少子化対策として、高校生までの医療費を村負担にして、実質無料にしていました。

「医療費政策も効果が出てきて、今年度は30年ぶりに子供の数が増加するようで、村としてもそれをアピールしたいからなぁ。」

子供の数が増えた、といっても周辺市町村からの転入な訳で、少子化に歯止めがかかったわけではないのですが、目先の数字は重要なようです。

「それは‥‥感情で納得はいってませんが、論理的には納得したのでなんとか策を考えます。」

そのときの私は何を血迷ったのか

「うーん、どうしようか。3Dモデル代は削れないし、他も‥‥そうだ!人件費を削ろう。編集とかはちょっとは出来るし、合成音声で最初は始めて、予算が付いたら声優さんにお願いすることにしようかな。」

そのように人件費を思いっ切り削り、計画書を提出したのでした。


回想は終わって4月

「そういえば人件費削ってたの忘れてました。はあ、合成音声編集する仕事が増えた‥‥」

仕事が増えた、とは言っても思い出しただけですが、ちょっとがっかりしながら席に着こうとすると

「合成音声?報告書には人が声当てますと書いてあったから、今月の広報に載せちゃってるから変えられないな。」

課長からまたも予想しない返事を受けて、渡された広報を見ると、しっかりと「星居村公式バーチャル動画配信者!なんと人の声で話します、反応します。合成音声じゃありません!」

と書いてありました。

「あっ‥‥」

なんということでしょう、予算に気を取られ、計画書の内容を変えるまで頭が回っていなかったのです。タダでさえ忙しい年度末にそんなことをしていたので、疲労困憊でした。

広報は今日から配布開始です。今から差し替えることは出来ません。

私は初日から大きなピンチに直面してしまいました。

順調だった公務員生活、どうなってしまうのでしょうか‥‥








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