悪魔憑きの歪な少女イサミ ~ツバメ編~

こたろうくん

ツルギとツバメ

 フリーターのツルギは暇を持て余している。

 色々とちょろいツバメという女性をたらし込んでは彼女の自宅に転がり込み、彼女の稼ぎに依存してその金で気ままに過ごす。

 大した学も肩書きも無いツルギであったがそう言うことだけは上手で、他者からなんと言われようが生き方を変えるような気は今のところありはしなかった。

 何せ己もツバメも、双方共に幸せだと思えるからだ。


「ああーっ! 見て見てっ、ツルギちゃん! コレ見てっ」

「なんでしょう……」

「勝業戦士G-バンダム! メカアク魂のシャイニングゴッドバンダムだよっ」

「ばん……あー、ええっとこの前見てた、ミロクが歌を――」

「違うよおっ、ソレはバンダムWO!」

「あ、ああ……そうそう、G-バンダム! オープニングの合いの手がイイ感じだよな、G~バンダ~ムってサ……」

「そーっ、さっすがツルギちゃん! 分かってるっ。あっ、でもねでもね、後期オープニングの一般にしたことは無駄じゃなかったねって歌詞が終盤の展開と重なるんだけどそれも……」


 ただしツバメの趣味に付き合うのだけはツルギにとって少しばかり大変であった。

 デートと言えば聞こえは良いが、行く場所はといえばショッピングセンターならそこに入っているおもちゃ屋か家電売り場のおもちゃコーナー。

 遠出をすれば気が付けばサブカルに侵略された電気街でやはりおもちゃ屋巡りである。

 今日も暇を使ってよく行くリサイクルショップでおもちゃ漁りである。

 刈り上げた金と黒のグラデーションになっている髪をサムライヘアで纏めた軽装の男と、栗色の長髪が緩やかに波打つ清楚な様子の女が並んで覗き込むそこの棚に陳列されていた、十五センチ規模のロボットの模型が入った箱を手に取ったツバメが語る作品への思い入れにツルギは少し引いてしまう。


「ま、いつものことだけどサ……」

「――それでね、序盤で前回和解したトミヨシがミスターヤスを庇って、それで彼の機体は大破しちゃうんだけどね? 残った左脚で幻のシュートを決めるシーンがスゴいんだよ~っ!! 声優の新谷さんのシャウトもスゴいんだけど、とにかく作画とメカの表現がね……って、ツルギちゃん?」

「何でもナイナイ。それでそれで? 確か話もスゲーことなってなかったっけ?」

「う、うんっ! それででもねその後……」


 此処で呆れた様子や面倒がる仕草を見せてはいけない――こう言うタイプの人間を引き付けておく術を心得ているツルギはすぐに人懐こい笑顔を作り上げ、彼女の手のおもちゃ箱をそれとなく手繰り寄せ、そうやって同じものを一緒になって見る仕草をしつつ、更にツバメに話の続きを促す。それも出来るだけ弾んだ調子で、さも興味があるように装って。

 すると単純なツバメのことなので怪訝さは消え、すぐに上機嫌を取り戻し一人次々と語り出す。

 それを右から左に、耳から耳へ流して放出して行くツルギは彼女がどうしてロボットアニメだとか特撮番組、そしてそれらのおもちゃなどに興味を持つのか考えるのであった。


「――いやぁ~……楽しかったねっ、ツルギちゃん!」

「買ったね~……」

「えへへっ、前々から欲しかったものもあるしこれでも抑えた方だよ?」

「オタク凄まじいな……」

「えへへぇ~、おカネはあるからね~」


 帰路、間もなくやってくるであろう電車を待ちながら、買い物を終えても興奮冷めやらぬツバメ。

 ホクホクした彼女の顔を見れば思わぬ掘り出し物が手に入ったと言うことは想像に難くない。

 両手の指先を互いに合わせながら縦に揺れるツバメを見た後、改めてツルギは己が両手に提げた二つずつ、計四つの大袋を見下ろすと 苦笑してしまう。中身は全てフィギュアやプラモデルだ。

 しかしそんな彼の様子に気付いたらしいツバメは何か思う所があったらしく、急に調子を落とすと俯きがちになり後ろ手組んで体を左右に揺らすと言った。


「でもゴメン、ね……?」

「あン? 急に何よ?」

「あ、えと……ツルギちゃん、デートしたいって言ってたのになんかわたしのお買い物に付き合わせちゃった感じになっちゃったな〜……って、思って……」

「謝るこんないっしょ、ほらコレ」


 するとツルギは袋の中から小さな箱を一つ取り出し、それをツバメへと見せた。

 それを見たツバメはあっと声を上げる。


「それ、SDバンダム……の、プレミアムバンダム……? そういえばツルギちゃんが選んだ……」

「昔は俺もこーゆーので遊んだりしてたからさ、懐かしいなって。ツバメちゃんと買い物行かなきゃずっと忘れたまんまだったよ。自分じゃ作れなくてよくお袋に頼んでたわ」

「お母さん……って、ツルギちゃん!」

「……最近はめっきり顔も思い出すことなくなってたからなァ……ついでに親父の顔も思い出せたし、だから俺も楽しかったし嬉しかったよ、ツバメちゃん」


 言って彼女に笑いかけるツルギ。彼の両親は既にこの世にない。彼が幼い頃、二人は何者かに殺されているのだ。

 それを知るツバメはツルギの思い出に悲しげな顔をするものの、それを嫌がるのがツルギである。だから彼女は彼の為、彼に嫌われたりしない為にもうんと頷きそして笑い返す。帰ったら一緒にプラモデルを組み立てようと思いながら。

 ――やがて電車到着のアナウンスが構内に響く。程なくしてやって来た、既に人で一杯の電車を見てため息を吐くツルギを見て、ツバメがくすりと笑声を零すと彼女は流れに遅れないよう彼の腕を掴むと歩み出すのだった。


「――じゃあまた一緒に来ようね、ツルギちゃんっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪魔憑きの歪な少女イサミ ~ツバメ編~ こたろうくん @kotaro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ