第31話 二章 開幕 邪神討伐隊

 あの日ニーナとアレクの別れから三年の月日が経っていた。


 エリスも今は落ち着きを取り戻しておりパルムとアレクと共にレイクヒルズという穏やかな街で平穏な日常を送っている。


 当初エリスはニーナが自分に何も告げずに旅立ってから暫く塞ぎこんで居たが、パルムやアレクのニーナはそんなエリスの姿をきっと望んでは居ないとの叱咤激励を受けてニーナに少しでも追い付くべく一心不乱に槍を振り魔法の練習もしながら日々研鑽を積んでいる。


 槍はさておき魔法の才能は元々あったようで簡単な魔法は最初こそ苦戦したものの一度コツを掴んでからはみるみる間に上達していったのだった。


 槍術は云うまでも無くこの世界でエリスとまともに打ち合える者はもう居ないだろうというレベルにまで技術は昇華されている。


 今ならやろうと思えば海も割れるかもしれない。


 エリスはニーナと違いチカラを誇示するタイプでは無いのでそういう目立つ事は極力避けるだろうが。

 

 邪神の使徒化により身体能力は飛躍的に向上しておりそこいらの冒険者等ではいくら束になった所でもはや太刀打ちは出来ないだろう。


 エリスの成長にパルムも満足している。


 但し邪神の使徒になった事によりその体躯は全く変わっておらず相変わらず当時の小さいエリスのままであった。


 ニーナも邪神の使徒になった事で成長は止まっておりあの日と姿のままだろうとアレクやエリスは思っている。


 いつかニーナに会った時に恥ずかしくないチカラを身につけて今度こそニーナの役に立ちたい。

 その一心こそが今のエリスの根幹を成している。


 アレクはというとニーナの復讐に付き添うと言った約束を元に地上に残っていたのだがニーナが旅立った後もエリスやパルムの側に残っている。


 本来ならあの様な結末とは言え約束は果たされており帰っても問題ある無かったのだが何か思う所があったのか変わらずエリスやパルムと一緒に暮らしている。


 ニーナが一生遊んで暮らせるお金を残していてくれた事もあり住居を構えあれから三年共に生活をしているのだった。


 アレクの姿は三年前と変わらず猫に似た何かのままだったのはアレクなりに今の姿を気に入っていたのかもしれない。


 パルムも邪神竜という事もありあの三年前から全く姿形は変わっていない。


 人の暮らす世界に慣れたのか今では交友範囲は狭いものの商店や商人とは会話する位には馴染んできている。


 仲の良い親子に変なペット


 それが周りからの認識だろう。


 あれから変わった事と言えばエリスも商人ギルドに登録し戦商人バトルトレーダーとして活動している。


 エリスは主にヒトが余り寄り付かない危険な地域での活動を行なっている。


 普通の人には危険であってもエリスからすれば特に危険な地域では無かったのが主な理由だった。


 覚えたての魔法を練習するにはそのな魔物も丁度いい塩梅であり魔法で仕留め損なったとしても槍を振ればどうにでも出来たからだ。


 只、槍を振るう以上は余り人目に付くわけにも行かず仕方なく奥地や辺境地域へと赴いている内に危険地域担当の様な形でギルドからは認識されてしまっていたのでお互いの利益が一致した結果ではあった。


 今日もエリスは商人ギルドへと納品を済ませて帰路に着く。


 特別な地域専門という事もあり今やエリスの商人としてのランクはニーナを抜き去りAランクになっているのだった。


 エリスは異世界人では無く純粋なこの世界の住人なので料理での貢献度は低いがエリスの持って来る素材の希少価値は高く商人というよりハンターとしてそのチカラを認められての現在のランクとなっているのだった。


 ニーナ自身がランクに全く拘らなかったというのもエリスの今のランクとの差に繋がっているのだろうが。


 「ただいまー」


 「お帰りなさいエリス」


 最近では普通に感じられる様になった親子での会話。


 パルムは優しく微笑むとエリスを抱き上げた。


 「お母さん、私もうそんな子供じゃないんだから。恥ずかしいよー。」


 「何を言ってるの。エリスはまだまだ子供よ。お母さんいつも心配で心配で。」


 二人の素性を知らない者が見れば優しい母親に可愛い子供の一幕なのだろうがこれを見ているのはアレク一人である。


 「しかし良くも毎日変わらず同じ様なやりとりが出来ますねぇ。」


 アレクは毎日繰り返されているこの茶番にいつもの様にチャチャを入れた。


 「人の心が無い邪神様にはこの気持ちは一生理解できないでしょう。」


 「君も人じゃないじゃないんですかねぇ?」


 アレクの真っ当な返しに


 「私は人である前にエリスの母親ですから。」


 「自ら人でない事を認めて居ますねぇ。」


 「まぁ、そんな事言ってないで夕食にしようよ。」


 竜と邪神の世界大戦に発展する前にエリスは口を挟んだ。


 ここにいる三人


 正確には一人と一匹と一柱が暴れれば本当に世界に混沌を齎しかねない。


 だからといって本気で暴れ出す者は居ないのだが、エリスはお腹が空いていたので二人の皮肉合戦をいなして夕飯にありつきたかったのだった。


 そんな夕食中の会話


 「そう言えば邪神様、今日ギルドで聞いたんですが、邪神討伐隊というのが結成されたみたいです。」


 突然エリスからそんな言葉が漏れた。


 「何なんですかねぇ?」


 どうやらニーナが聞いた話はまだギルドのみで何処にも出回って居ない様だった。


 何処で出来たのか首謀者も分からずある日突然発生した不思議な集団。


 そもそも邪神討伐を謳っては居たが、この世界で邪神は元々存在感していない。


 下天すれば、話は別だがわざわざ神の地位を捨ててまで地上に降臨して生活を送りたい等という物好きは居ないからだ。


 そうすると必然的にアレクが目標になってくるのだが、アレクは邪神として普段から振る舞っている訳ではないのでいささかこのエリスからの情報には懐疑的であった。


 自然発生的に現れる物ではないのでアレクもかが裏で糸を引いてるのは間違いないと考えたのだった。


 このではそういった心当たりは無い筈だが、他にあり過ぎるので他の神または少女ちゃんではないだろうかとも思う。


 アレクには理由ワケがあったとはいえニーナの故郷を滅ぼした事によって怨まれていてもおかしくはない。


 そう考えるとニーナかもとも思ったが、あの日以来ニーナの話は奇妙な位聞く事は無かった。

 

 あれだけ自我が強い少女が大人しくこの世界を旅してるとも思えない。


 普通にしていても目立つのだ。


 何らかの意図を持って身を潜ませる位は可能だろう。


 それだけニーナのチカラは絶大なものだったのだから。


 あれから弱くなっている等とは梅雨ほどにも思わない。


 あの時ならまだ辛うじて互角だっただろうが更に成長していればニーナは神すら超えるチカラを備えている事になるだろう。


 邪神討伐隊を組織したのがニーナでない事を三年振りに神に願ったアレクなのだった。


 「そう言えば最近これやって無かったですねぇ。」


 アレクにとっても当たり前となった日常を脅かす足音がゆっくりと近付いて来ている事なんてこの時はまだ誰一人知るよしも無かった。


 


 

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復讐を誓った少女は闇聖女となる 邪神の使徒となり世界に動乱を齎す @kwkek

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