名前 Aloajerlerm

tarf ―― 「ターフ」


 最近、ウマ娘にハマっている。流行りものはあまり好きではなかったが、友人がやっているのを見てすっかりハマってしまったのである。最初はライスちゃんを愛でつつ、楽しんでいたのだが、幾らかの収穫があった。例えば、芝のことを「ターフ」というのを知ったのはこのゲームのおかげであった。

 しかし、今回扱うターフは芝ではなく"tarf"である。その重要性はユエスレオネ連邦だけではなく惑星ファイクレオネの東方史に強く影響を与えている。今回はその名字ターフに迫っていきたい。


 さて、名字ターフの重要人物といえばユエスレオネ連邦だけでも大量にいる。ユエスレオネ連邦の国母であり、イェスカ主義の立役者、そしてユエスレオネ革命の先導者であるターフ・ヴィール・イェスカ。その妹であり、姉の暗殺後に政権を引き継いでカリスマで国を牽引したターフ・ヴィール・ユミリア。映画監督で著名映画を輩出してきたターフ・ファーゲー・リファーリン。リパラオネ語族の歴史言語学研究者であるターフ・ナモヴァフ。……というふうに挙げればキリがない。


 tarfは有名人以外にも多くの人々に共通する名字である。元々リパラオネ人の名字は数が少ないことから、家というより氏族単位を表すような標識となっている。このため、その来歴は大まかにたどることが出来る。ターフが名字である人物が歴史に初めて登場するのはターフ・ルキアという人物である。この人物はリパラオネ人ではなく、リナエスト人であるがリナエスト民族の一部の共同体は自らを(ラネーメ人よりも)リパラオネ人であると見なしてリパラオネ人の名前を模倣する習慣があったため、この時期からリパラオネ人名にターフが存在したことを傍証している。

 その起源は東方地域に住むリパラオネ古代文明の貴族のタハーファ氏族だったが文明の崩壊とラネーメ王朝の成立の間に離散し、この名字が広がったと言われている。


 そもそもtarfの語源は"darv(s)ダルヴス"という語に遡る。darv(s)ダルヴスは更に惑星ファイクレオネの東方世界を大まかに指すデーノ(またはデーナ)地域の古称"dhernghaデヘーンハ"と関係しているという。このdhernghaデヘーンハはさらに「東方地域デーノ、広いところ」などを表すリパラオネ祖語の語根の"*dʰæːʁhŋデール゛フン"に由来するとされ、「世界」を表すリパライン語"undeウンデ"の祖語形"*əwnアウン+*dʰæːʁhŋデール゛フン"の構成要素であるほか、「神」を表す"*[t/d]ʰauniɻadタウニラド"(標準現代リパライン語のtonirトニー)に関係するとされる。


 古代文明の貴族が自らに「神」や「世界」に連なるターフという自称を付けていたのは単なるナルシズムによるものではなかった。リパラオネ人の間で一神教の信仰であるリパラオネ教が信仰されるようになる以前、リパラオネ人は独自のアニミズム様の信仰を持っていたとされている。リパラオネ民族の一つであるヴェフィス人のフィメノーウル信仰はその末裔の一つである。リパラオネ教が本格的に民族宗教化していくのは古代文明成立の数十年後であり、この間に既に存在していたターフという自称にはリパラオネ原始信仰の影響があったのではないかと考えられている。


 ターフに関係する単語に共通する語根*dʰæːʁhŋデール゛フンが表していたのは、リパラオネ人の古来からの自然法則自体への信仰だったのではないだろうか。フィメノーウル信仰では基本的に人間を含む主体を世界中に散らばる意思の濃度が濃くなった場所であると認識している。世界中に意思が存在するということは、自分という主体の境目は曖昧であり、今ここの肉体に結び付けられて存在出来ているのは偶然の出来事だということになる。フィメノーウル信仰を信じるヴェフィス人達は正気で自我を保っている状態が偶然であり、その他の意思との「調整」の上で成り立っていることを感謝しながら生活している。このためにヴェフィス人達は物や状態に話しかけたりすることが良くあるのである。そして、この「調整」が上手くいっている対象に対する抽象的な願いと畏れこそが彼らにとっての信仰と祈りであり、その対象が*dʰæːʁhŋデール゛フンで表される「世界」そして「神」とも言えるものであったのである。


 彼らが自らをターフと名乗ったのは、自らを含めてその*dʰæːʁhŋデール゛フンの一部としての自覚を持っていたからであろう。近代以降、ターフという名字を持つリパラオネ人が市民階級の多くを占め、ひいてはユエスレオネ革命を牽引する底力となったのにはターフ氏族がリパラオネ人のなかでも多数である証拠となっている。今では殆どが一神教であるリパラオネ教を信仰しているが、古代から引き継がれた世界観は未だにその名字に残り続けているのである。



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ユエスレオネ連邦の言語文化誌 ~単語と文化から見る連邦社会~ Fafs F. Sashimi @Fafs_falira

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