偽善者の無責任

赤青黄

偽善者の無責任

 「おい、自殺は辞めろ」

 大柄の教師が学校の屋上にいる寂しい生徒に話しかける

 「うるさい、近寄るな」

 生徒はただ苦しみから開放されたいだけなのにその勇気を止める教師に怒りを表す

 「考え直そう、な、死ぬなんて馬鹿な真似は辞めろ」

 無責任な言葉に生徒は一層勇気が湧いてくる

 そしてもう一つの感情が溢れ出してきた

 「先生なんで私は、死のうと思ったのか考えてないの」

 生徒の突然の問いかけに教師は慌てて答える

 「いじめだろ」

 単純明快で夕日のオレンジが生徒に当たる

 そして悲しそうに長い茶色の髪をたなびかせる

 「やっぱり知ってたんだ、私がいじめられてること」

 悲しそうな顔が夕日で照らされグツグツと溶ける

 そして今にも泣き出しそうな顔の教師を見て一層どす黒い感情が心の奥に根付いてゆく

 「ああ、最近報告があったからな」

 教師の偽善者的な存在に心は刻まれてゆく

 「報告があったのに、解決しようとしなかったんだ」

 苦しそうに心が悲鳴を上げるどうしようもない社会に心が軋む

 「解決しようとしたさ、お前をいじめている主犯格にやめるように話をしたりな」

 教師は手振りで慌てて説明をするしかし生徒の心には怨みが溜めっていた

 「余計なことしないでよ」

 「え?」

 「余計なことしないでよ!」

 生徒の突然の心の叫びに教師は驚く

 涙がコンクリートで出来た床と心に小さな染みを作りだす

 「何で、余計なことをするの解決できないくせに勝手に行動しないでよ、私は確かに苦しかったでも、私は耐えれたのなのに、あんたら偽善者によって前よりいじめがひどくなったじゃない」

 涙が頬を濡らしていくどうしようもない人生に絶望して頬を濡らす

 足掻いても足掻いても地面には届かないそんな人生に涙を流す

 「あなた達のせいだからねあなた達、偽善者がいるから、いるから」

 嗚咽をしながら座り込む、まるで一生分の涙を出し切るかのようにただむせび泣く

 その悲しい光景に教師は無責任な怒りを覚え無責任に生きて欲しいと願った。

 「俺のせいじゃないだろ」

 教師がポツリと言葉を漏らす教師は自分が醜いと感じた。しかしもう溢れてしまった言葉は戻せない

 「貴方のせいよ!」

 生徒は教師の無責任な言動に声を荒げる

 「俺のせいじゃない!」

 教師もそれに対抗する我の如く声を荒げ溢れた言葉が溢れ出す。

 「一番悪いのはお前をいじめた奴らだろうが」

 もう自分が分からない教師は歯を食い地張りただ先程とは打って変わって険しい表情を作る

 「偽善者のせいにするんじゃね、お前が一番恨まなきゃいけないのはいじめた奴らだろうが、無責任に行動?いいじゃねえか俺の行動でいじめが終わるかもしれね、お前が心から笑えるそんな可能性だってあったはずだろ、それも試さないで前が良かっただと、ふざけるのも大概にしろ!」

 教師の言葉に空気が揺れる涙が揺れる

 「前よりいじめがひどくなった?、ならまずは俺に相談しろよ誰も相談してないで自分で自己完結してんじゃね」

 教師の言葉は空中に舞う生徒を見つめ唇を噛む

 「それに何死のうとしてんだ、何無責任に死のうとしてんだよ!」

 教師は、ただ叫ぶ夕日に照らせれてただ叫ぶ

 「お前が勝手に終わらせていい人生じゃないんだぞ、お前の為に頑張ってる存在を忘れてんじゃね」

 生徒は、教師の言葉に鼻で笑い初めての笑顔を見せながら自虐的に笑う

 「それって誰よ、どうせ親とか言うんでしょう、でも私は親なんかに愛されてなんかいない、あいつらが愛しているのは私のより後に生まれた妹だけよ」

 生徒の脳裏に記憶が蘇る

 無能と罵る母親、自分のストレス解消の為に使ってくる父親、存在を無視する妹

 今思うと糞のような人生だったと感じる生徒は空を見る彼女にはもう誰も味方と言える存在は居なかった

 「私の為に頑張ってる存在なんていないのよ」

 オレンジ色の空に神を恨むかのように言葉が頬に流れる

 教師は生徒の顔を見てただ言葉をこぼす

 「お前は何で気づかないお前の為に頑張ってる存在を」

 ただポツリと呟く

 その言葉に激怒したのか激しい口調で言及する

 「それはいったい誰なのよ!」

 生徒の言葉に教師は親指を自分の体に向けて口を開く

 「それは、自分の体だろ」

 「はぁあ?」

 意味のわからない答えに生徒は、情けない声を出す

 教師は自分が何を言っているのか何を話しているのか理解できなかった。しかし目の前にいる生徒ただ自分の言葉をぶつける

 「お前の体は、感謝されもしない、報酬もないただお前を生かすために自分を犠牲にして働いている、ただお前に生きてほしい為に何も文句も言わずに頑張っている」

 教師の顔が夕日に照らされる

 「だからお前には、自分で命を捨てるって権利はね、お前にあるのはただ生きるための義務だ」

 教師の言葉は生徒の心には届かない心の底から出た言葉は届かない

 「そんなの無責任じゃない」

 悲しそうに辛そうに答えるその光景は雪解け前の様に儚かった

 「ああ、無責任さ、無責任で何が悪いお前を生かすためなら無責任でもいい、そうやって世界は進んで行くんだよ、お前は無責任に生きさせて貰ってるんだよ、これは誰でも言える事だ!この体はただ生きてもらうために幸せになってもらうために無責任で働いてんだよ」

 教師は、握りこぶしを作り手の平に爪を立てる

 「だから俺達は、生きる義務もあるし、幸せになる義務もある、そんな無責任の願いによって生まれたんだ、そんな願いを無視して勝手に死のうとすんじゃね、この世は厳しいさ、アホというぐらい厳しいよ…だがよ、そのぶん優しんだよ…この世界は、だから死のうとすんじゃね、生きろ、生きてくれ」

 教師は嗚咽を吐き涙を出しそしてその場で土下座する、無責任に生きてもらうために生徒にお願いをするその光景はとっても醜く…◼しかった

 「はは、バッカみたい」

 その光景を見て生徒は、何を思ったのかこれから何をするのか分からない生徒は死ぬのか生きるのかそれも、分からない。


 

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偽善者の無責任 赤青黄 @kakikuke098

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