第400話 ライト、教皇就任おめでとう
11年後の1月、ライトはダーイン公爵の地位とドラウプニルをトールに譲った。
トールが
結局、トールは初恋の相手であるロゼッタと誕生日に結婚し、14歳差のカップルが誕生した。
14歳差と聞けばかなり年が離れているようにも思えるが、他所の領地には20歳差のカップルもいたりするのでそれと比べれば十分に許容範囲だ。
幸い、ロゼッタはその緩い雰囲気のまま今に至るので、アラサーにもかかわらず20代前半と言われても信じられる見た目のままである。
その一方、トールにべったりだったエイルはセブルスと婚約した。
セブルスはアルバスとイルミの子だから、従兄妹同士の婚約と言えよう。
ちなみに、ライトとヒルダの間にはエイルの後にソールとノートという双子の姉妹が生まれている。
ノーライフキングを倒した日の夜、ライトとヒルダが頑張った結果である。
ソールはジェシカの子供のハインドと婚約し、ノートはザックとアリサの子供と婚約している。
ハインドだが、これはアルバスとイルミの間に生まれたセブルスの弟をジェシカが養子として迎え入れた子だ。
残念なことにジェシカに釣り合う男性はライト以外おらず、そのライトはヒルダと結婚しているためジェシカは独り身となった。
とはいえ、ハインドが優秀な子供だったことでジェシカはその教育で充実した生活を過ごしているのだが。
以上の経緯から、ライトは安心してダーイン公爵をトールに譲った今、ヒルダとアンジェラと共にセイントジョーカーに来ていた。
アンジェラが操縦する
ドアをノックすると、その中から声が聞こえて来た。
「どうぞ」
「失礼します」
ライト達は許可が下りたので教皇室に入った。
「ライト、ヒルダちゃん、それにアンジェラもよく来たね」
「いらっしゃい」
「父様、母様、お久し振りです。元気そうで良かったです」
「そりゃ元気にもなるさ。今日でデスクワークから解放されるんだからな」
「パーシー?」
「オホン。すまん、間違えた。無事にライトに教皇のバトンを託せて嬉しいぞ」
(父様、本音モロ出しで取り繕っても遅いです・・・)
うっかり口を滑らせて本音を言ってしまったパーシーに気づき、エリザベスがジト目を向けたのだが言い終わっている時点で遅い。
言い直したところで、この場にいる全員がパーシーの本音を聞いてしまっている。
そうは言っても、パーシーからすれば教皇に恥じない振舞いを今日までずっと意識し続けて来たのだ。
解放されると思うと、緊張の糸が切れてうっかり口を滑らせてしまったのも仕方のないことだろう。
教皇としての在位年数は15年11ヶ月という記録は、歴代の中でも最長である。
それまではローランドが最長記録だったが、少しずつ平和な世の中になって多くの者達から助けてもらっていたおかげで、パーシーはローランドの記録を超えていた。
来月になれば16年とキリが良いが、パーシーはキリの良さよりも早く解放されたいという気持ちの方が強く、ライトがトールにダーイン公爵の地位を譲ったら自分もライトに地位を譲る気満々だった。
本来なら教皇選挙を行うところではあるものの、パーシーの後を継いでヘルハイル教皇国全体を良い方向へと進めていくにはライトが教皇になるしかない。
他の3公爵家の当主達はそう判断して教皇になる権利を辞退したため、今回は教皇選挙が行われなかった。
「あら、もうこんな時間。パーシー、ライト、準備して」
「わかった」
「わかりました」
時計を見てエリザベスが口を開くと、パーシーとライトはすぐに準備に移った。
何を準備するのかというと、教皇の引継ぎ放送である。
ライト達がノーライフキングを倒してから11年が経ち、その間に技術もかなり進歩した。
ライトは知り得る限りの知識を工場の
テレビの使い方としては、ニュースを流したり、クローバーのライブ中継、各地の知っておくべき情報をリアルタイムで知るといったところである。
録画配信もできなくはないが、録画して配信すべきコンテンツが充実しておらず、余程のことがない限り再放送を含む録画配信は行われない。
ドラマやアニメなんてものはまだ着手できておらず、精々がお○あさんといっしょのような教育番組ぐらいしか存在しない。
それはさておき、今日は午後3時から教皇の引継ぎを生放送で行うためにライト達は教皇室までやって来たのだ。
生放送に遅れる訳にはいかないので、パーシーもライトもきびきび動いているのである。
そして、セバスとアンジェラがテキパキと準備を済ませて午後3時となった。
セバスがパーシーにレンズを向けて撮影を始めると、パーシーが口を開いた。
「こんにちは、ヘルハイル教皇国の国民諸君。教皇のパーシー=ダーインだ。今日は諸君に大事な話があってこの放送を行ってる。どうか最後まで見てほしい。よろしく頼む」
パーシーは軽く頭を下げ、それから再び口を開く。
「諸君に助けてもらって15年11ヶ月、俺は教皇としてこの国のために働いて来た。俺は優れた頭脳がある訳でもなく、Sランクの中でも下の方だったが、それでも長い間教皇として働けたのは諸君の協力あってのことだ。本当にありがとう」
今度は頭を深く下げた。
その角度がパーシーの感謝する気持ちの大きさを表現していた。
頭を上げると、パーシーはライトにチラッと視線をやってから話を続けた。
「さて、今日は俺が教皇の地位を降りるにあたって、次代の教皇に来てもらってる。ライト、こちらに来てくれ」
パーシーに呼ばれたライトはフレームインした。
「紹介しよう、元ダーイン公爵にして”ヘルの代行者”の称号を持つライト=ダーインだ」
「ご紹介に与りましたライト=ダーインです。皆さんこんにちは」
ライトは言い終わってからお辞儀した。
「この度67代教皇に就任することになりました。父が15年以上かけて安定、そして発展させてきたこの国をより住みやすく、より快適に過ごせるよう頑張ります。僕だけでそれを成し遂げられるとは思ってません。皆さんの力が必要です。どうか、僕にも皆さんの力を貸して下さい。よろしくお願いします」
ライトは深く頭を下げた。
ここにはいないが、この放送を見ている国民に対して力を借りたいと思っているからこそ、ライトは深く頭を下げた。
ライトが頭を上げると、今度はパーシーが口を開いた。
「今日この時から、ライトは教皇となった。俺は断言しよう。決して親バカだからではなく、ライトはこの国を良い方向に引っ張っれる男だ。俺からも諸君に頼もう。ライトの力になってくれ。さて、引き継ぎは以上だ。諸君、最後はこの言葉で占めよう! ヘルハイル教皇国万歳!」
「「「「「ヘルハイル教皇国万歳!」」」」」
パーシーが万歳すると、ライトやフレームの外にいるヒルダ達も万歳と復唱した。
これで放送は終わり、カメラは止まった。
「ふぅ、やりきったな。じゃあライト、後は頼むぞ」
(父様、この落差はどうなんです?)
軽い感じで言うパーシーに対し、ライトはやれやれと内心溜息をついた。
とりあえず、これで教皇の引継ぎ自体は終わったので、ライトは報告すべき人の方を向いた。
その人こそ、ライトの初めての師匠であるルクスリアだ。
引継ぎ放送を見てもらうため、その少し前から英霊降臨でこの場にいてもらっていた。
『ライト、教皇就任おめでとう。見事なスピーチだったわ』
「ルー婆、ありがとう。今日までの間、色々と世話になったよ。これからもよろしくね」
『仕方ないわね。黒髪黒目のよしみで最後まで面倒見てあげるわ。感謝なさい』
「感謝してるよ。メシマズなところはあるけど。メシマズなところはあるけど」
『気にしてるんだから2回も言わないでくれる!? はぁ、もう良いわよ。そんなことよりも、教皇になったからって気を抜くんじゃないわよ。これからが大変なんだからね?』
メシマズについてはどうしようもないと判断したようで、ルクスリアは話題を変えた。
ライトも真剣な表情で応じる。
「大変なのはわかってる。でも、ヒルダがいてアンジェラがいて、ルー婆もいるんだ。それに色んな人が助け合えば、きっと今よりも良い国になるよ」
「そうね。私もライトを隣で支えるわ」
「勿論、私も微力ながらお手伝いさせていただきます」
『アンジェラ、貴女が微力だったら大多数が塵じゃないのよ。謙遜は止めなさい』
「承知しました。では、私がいるので大船に乗ったつもりでいて下さい」
『それで良いのよ、それで』
そんなやり取りをしていると、ライトは自分の視界が切れ変わって教会の礼拝堂を移した。
「ヘル様が呼んでるみたい。多分、教皇になったことへの激励かな」
「ライト、教皇初の仕事はヘル様への報告ね。私も同行するわ」
「よろしく頼むよ」
この後、ライトとヒルダはヘルに激励され、お土産としてヘル謹製のエナジードリンクを渡された。
ライトのセカンドライフにはエナジードリンクが欠かせない。
法術無双! ~エナドリから始めるセカンドライフ~ モノクロ @dolphin26
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