第399話 僕達はもう一生分の苦労をしたよ

 スカルキャリッジ軍団をライトが一掃すると、ノーライフキングは苛立ちを表に出した。


「おのれ、邪魔をするな!」


 ライトを狙ってノーライフキングが<呪吐息カースブレス>を放った。


 その射線にアンジェラが割り込んだ。


「【伍式:旋風陣せんぷうじん】」


 ノーライフキングのスキルに対し、アンジェラはグングニルを高速で回転させてそれを受け流した。


「何ぃ!?」


 まさか曲芸じみた技で自分のブレスが防がれるとは思っておらず、ノーライフキングは驚きを隠し切れなかった。


「私の目の黒い間は旦那様にブレスが通ると思わないことです」


 アンジェラのドヤ顔が決まった。


「ならば押し潰してくれる!」


 これならば受け流せまいとノーライフキングがムキになり、今度は<呪隕石カースメテオ>を発動した。


 だが、隕石に対応するのはアンジェラではなかった。


「お姉ちゃんのターン! 【輝闘気シャイニングオーラ】【聖壊ホーリークラッシュ】」


 全身から聖気を放出したイルミが大きく跳躍し、全力で隕石を殴った。


 イルミの拳が命中した瞬間、隕石は粉砕されてノーライフキングの狙いはまたしても現実とはならなかった。


「足元がお留守ね。【聖六連星ホーリープレアデス】」


「しまった!?」


 ヒルダの六連突きを右前脚に受け、ノーライフキングは自らの体が重くなったのを感じた。


 AGIを一気に削り取られたせいで、体が鉛のように感じられるのである。


「まだだ!」


 自分が動けないのならば、配下を動かせば良いじゃないのとノーライフキングが<配下召喚>を発動し、トーチジェネラルを8体召喚して自分を守るように配置する。


 ライトが【範囲昇天エリアターンアンデッド】だけで倒せないアンデッドを召喚するあたり、8体だけしか召喚できなかったがそれだけの価値はあった。


 しかし、ノーライフキングがトーチジェネラルを召喚したのは時間稼ぎのためではなかった。


「行け、僕共!」


 8体のトーチジェネラルは、ノーライフキングの命令に従ってその八方位に位置することを意識したまま広がるように進んだ。


「まさか!? みんな伏せて! 【【【聖半球ホーリードーム】】】」


 ノーライフキングの意図に気づき、ライトはノーライフキングと8体のトーチジェネラルを閉じ込めるように光のドームを三重に創り出した。


「遅い!」


 その瞬間、ドームの中でノーライフキングが黒く発光して爆発した。


 <復讐爆発リベンジエクスプロージョン>を発動したのだ。


 爆発がトーチジェネラル達を巻き込むと、全身が燃えているトーチジェネラル達をブースターにして爆発の威力が膨れ上がった。


 三重の光のドームでも爆発の衝撃を抑え込むことはできず、ドームは粉々に砕け散ってその衝撃波がライト達を襲った。


 ライトは自分に【誓約盾プレッジシールド】を使っていなかったから、ある程度ダメージを負うことを覚悟していた。


 しかし、ダメージを負った感触はなかった。


 爆発の光のせいで目が開けられなかったため、ライトは自分がどうして無傷でいられたのかわかるのに時間がかかった。


「ヒルダ!? アンジェラ!?」


 目を開けた時、自分の前に立っていたのはボロボロになったヒルダとアンジェラだった。


 2人はライトに伏せろと言われていたが、それに従わずにライトの盾になったのである。


 自分達には【誓約盾プレッジシールド】があるから、ライトの前に入れば自分達と併せてライトも守れると判断したのだ。


「ライト、無事よね?」


「旦那様、ご無事で良かったです」


 それだけ言うと、ヒルダとアンジェラは【誓約盾プレッジシールド】が壊れて透過したダメージに耐えられずに倒れた。


「絶対に治す! 【【天使回復エンジェルズヒール】】」


 ライトは2人を決して死なせまいと【天使回復エンジェルズヒール】を二重に発動した。


 幸いなことに、ライトが【誓約盾プレッジシールド】をかけていたおかげで、2人共火傷が酷かったがHPは残っていた。


 そんな2人を抱き締めるように天使を模った聖気が現れ、負ったダメージも火傷も全快させた。


 全快したヒルダとアンジェラは立ち上がった。


「良かった、助けられ・・・」


「ライト!?」


 最後まで言えずにライトはふらつき、それをヒルダが受け止めた。


「MPがマジでヤバいかも」


「アンジェラ、今から私がライトのMP回復を補助するわ。護衛をお願い」


「かしこまりました。命にかけてお守りいたしましょう」


「お姉ちゃんは怒ったぞぉぉぉっ! 【輝闘気シャイニングオーラ】【聖拳ホーリーフィスト】」


「ぐぼぉっ!?」


 アンジェラが覚悟を決めた表情で言うのと同時に、イルミがノーライフキングの横っ面を殴り飛ばした。


 爆発が生じた時、イルミだけはライトの指示をしっかりと守って身を伏せていた。


 そのおかげで、【誓約盾プレッジシールド】の損傷も少なくどうにか爆発をやり過ごすことができた。


 しかし、ライトの危機を察せずにヒルダとアンジェラが体を張ってライトを守っていた中、自分だけが安全にノーライフキングの攻撃をやり過ごせていた。


 その事実にイルミはムカつき、この事態を生み出したノーライフキングに怒りの一撃をかました。


 下手に自分でどうにかしようとするよりも、ライトの言うことを聞いていた方が生存率は高くなるので、イルミがライトの指示を守ったのは間違いではない。


 間違いではないのだが、自分だけが無事だった後ろめたさも後押しして、イルミの憂さ晴らしの一撃はノーライフキングにクリティカルヒットした。


 イルミが攻撃している間、ライトはヒルダに支えられながら【祈通神プレイトゥーヘル】を発動してMP回復に集中していた。


 今の自分にできるのは、MPを回復することだけだからである。


 ノーライフキングにとどめを刺すには【昇天ターンアンデッド】は必須だし、ヒルダやアンジェラに【誓約盾プレッジシールド】をかけ直す必要がある。


 それに、イルミがダメージを負った時のために各種回復技だって使えるようにしておきたいのだから、MPはいくらあっても多過ぎることはないだろう。


 MPポーションで回復速度を上げたいところだが、既に何本か服用しているのでこれ以上飲むと吐くかもしれない。


 となると、<生命樹セフィロト>の自然回復と【祈通神プレイトゥーヘル】による回復でMPを補充するしかないのだ。


「ええい鬱陶しい! 男の前に貴様からだ!」


 体勢を立て直したノーライフキングは、ライトを殺す邪魔をするイルミを先に片づけることに決め、イルミに向かって<呪吐息カースブレス>を放った。


「【陽炎歩行シマーステップ】」


「ざまあみろ!」


 ブレスが放たれた瞬間にイルミが何か言ったが、それはノーライフキングの耳には聞こえなかった。


 だから、ノーライフキングはイルミを燃やし尽くしたと錯覚した。


「フッフッフ。それは残像だよ。【輝昇撃シャイニングアッパー】」


「ぬがぁっ!?」


 ノーライフキングの足元に入り込んだイルミは、聖気を纏った拳を振り上げてノーライフキングの顎を殴り飛ばした。


「チャンスですね。【壱式:投瞬殺とうしゅんさつ】」


 ノーライフキングの体が後ろに倒れそうなのを見て、アンジェラがイルミを援護射撃した。


 グングニルが命中したことでバランスは完全に崩され、ノーライフキングは背中から倒れた。


「ヒルダ、もう大丈夫だよ。ありがとう」


「無理してない?」


「無理して勝てるなら無理だってするさ。それでその後しっかり休む」


「わかったわ。行ってらっしゃい」


「うん、行ってきます」


 ヒルダに笑顔で送り出されると、ライトは倒れたノーライフキングの近くまで堂々とした足取りで歩いて行った。


 背中から倒れてしまったノーライフキングは、上手く立ち上がれずにいた。


 ライトが近づくにつれ、ノーライフキングは自身が消滅してしまうのではないかと恐れてジタバタするが、それでもなかなか立ち上がることはできない。


 そして、ライトが技の射程圏に入った。


「チェックメイト。【昇天ターンアンデッド】」


 パァァァッ。


《ライトはLv84になりました》


《ライトはLv85になりました》


《ライトはLv86になりました》


《ライトはLv87になりました》


《ライトはLv88になりました》


《ライトはLv89になりました》


《ライトはLv90になりました》


《ライトの<道具箱アイテムボックス>の中に無限味噌壺が格納されました》


 (ヘル様、これはご褒美でしょうか?)


 アナウンスの最後に思わぬプレゼントがあったため、ライトはそれをノーライフキングの討伐報酬だと判断した。


 そんなライトに対し、ヒルダが駆け寄って抱き締めた。


「ライト! お疲れ様!」


「ヒルダもお疲れ様。アンジェラとイルミ姉ちゃんもお疲れ」


 ヒルダを抱き締め返しつつ、同じく駆け寄って来たアンジェラとイルミをライトは労った。


「お疲れ様でございました、旦那様、奥様、イルミ様」


「お疲れ! お姉ちゃん史上最大の敵だったよ!」


「そうだね。いずれにしても・・・」


「「「いずれにしても?」」」


 ライトが途中で言葉を止めたため、ヒルダ達は首を傾げた。


 そんなヒルダ達に対してライトは苦笑して続けた。


「僕達はもう一生分の苦労をしたよ」


「私もそう思う」


「間違いないですね」


 グゥゥゥッ。


「これ以上ないくらい疲れたよ。ライト、ご飯作って!」


「鬼だろイルミ姉ちゃん・・・」


 腹の音と共に放たれたイルミの無邪気な発言に、ライトの顔が引き攣った。


 その直後、ヒルダが我慢できずに笑い出してアンジェラにも移り、やがてはライトや言い出したイルミも笑い出した。


 やはりイルミが絡むと締まらない終わりになるらしい。

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