誰だって初めは初心者なんだから、ね?

詩一

誰だって初めは初心者なんだから、ね?

「やっぱり、自信がないです」

「不安な気持ちはわかるわ」


 俯いた私の肩に手がそっと置かれた。彼女は微笑みをたたえている。


「でも、誰だって初めは初心者なんだから、ね?」


 彼女の声は落ち着いていて、とても心が安らかになる。いつだって勇気付けられて来た。臆病な私を奮い立たせてきた。今だって、私の人生の岐路きろに真摯に向き合ってくれている。

 しかしだからと言って問題の解決になるわけではない。彼女が私の代わりになってくれるわけではないのだ。道は自分で切り開かなければいけない。しかしそれがとても難しいことのように思えて仕方がない。私は再び不安に取りつかれる。


「失敗したらどうしよう」


 声が震えていた。情けない。


「大丈夫。失敗したって生きてさえいれば何度だって挑戦出来るのよ」


 彼女の言っていることは正しかった。


「それに良く言うでしょう? 死ぬ気になればなんでも出来るって」


 いつまでも、彼女の励ましに甘えていてはいけない。


 もう時間だ。私はようやく椅子から立ち上がり、深呼吸をした。


「私、いきますね」


 コクッと頷いて見せた。彼女も頷きを返してくれる。


「もしもまた迷ったときは、私が背中を押してあげる」


 そう言って彼女は、背中をポンと押してくれた。


「いってらっしゃい」


 声は聞こえたが、振り返らない。この場所へは二度と返らない。私なりの決意表明だ。


 私は走り出し、そして跳んだ。


 ホームへ滑り込んでくる快速急行の車両の前へ——

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