第47話 旅の終わり

「てやっ‼」

 アリスが気合を入れて穴をなぞると、今までよりかなり簡単にそれは霧散した。


「すごい……」

 始めて見たニコが感嘆の声を上げると、アリスは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「アリス!」

 またしても油断していたアリスに向かってきた悪魔に向けてルビーが羽を一閃させ、風の力で悪魔をアリスから遠ざけた。

 すぐに調子を取り戻したアリスが杖を悪魔に向け、火をつけた。


「ぎゃああ!」

 凄まじい絶叫を上げながら悪魔は裏の世界に帰っていった。


「あなたたち、すっごく優しいのね」

 ニコが言うと、アリス達は驚愕する。


「あなたは殺すことに抵抗はないの?」

 そう言うと、彼女はじっくりと考え始めた。


「時間が無いから後で整理出来たら言うわね」

 そう言ったニコに感謝しつつ、アリス達は次の町へと移動魔法で向かった。



 果てしもない時間が去った後、魔力が枯渇する前に全ての穴を塞ぎ終えたアリスは、ほっと一息ついた。


「よかったぁぁ」

 皆は声を出す余裕もなく、頷くことで同意を示した。


「これで取り敢えず今いる悪魔しかこっちに侵入できなくなったわね」

 アリスが言うと、また皆は頷く。

 しばらく経つと、皆は呼吸が整ったのか、喋り始める。


「この先、魔法使いと魔術師、農民の居住区域をちゃんと話し合いで決めないといけないな」

 ノエルが言うと、ルビーが口を開く。


「農民の王はいたみたいだけど、魔法使いの王は決まってないわよね……どうやって話し合いをすればいいのかしら……」


「そこから話し合いにしないとまたこじれそうね」

 そう言ったアリスにまた全員が同意する。


「とっても長い夜になりそうね……」



「アリス‼」

 とりあえず魔法使いはそれぞれの町長とその使い魔が話し合いに参加できることとして連絡をとった。

 抱き着いてくるウルを思い切り抱きしめ返してアリスはとても幸福な気持ちになった。


「ウル、信じてくれてありがとう」

 そう言うと、とんでもない! と返されてしまった。


「君は英雄だ、アリス。皆の命を救ってくれた。あのまま魔力を吸い取られ続けたり、悪魔を地上に招き続けたりしたらどんなことになったのか……考えたくもない」

 顔を白くして首を振るウルに、アリスは少し照れくさそうにしていた。


「ウルが信じてくれなかったら今の結果は無かったはずよ。あなたの成果でもあるんだから、もっと堂々としていて、ウル」

 そうアリスが言うと、ウルはいつもの威厳たっぷりの顔に戻った。そして町長の元へ走っていくウルを見て、アリスは複雑そうに笑っていた。


「アリス……?」

 やっぱりミシェルには気付かれちゃうわね、と言ってアリスは重い口を開く。


「私がもっとうまくやっていれば救えた命だってあったはずなのに、と思って」


「お前のせいじゃないだろ。ルーンのせいだ」

 きっぱりと言い切ったミシェルとルビーとノエルに、アリスはけらけらと笑う。


「あなた達本当に息がぴったりね」


「まあそりゃ何カ月も一緒に居れば、な」

 恥ずかしそうにする三人を見て、アリスはまた笑った。


「言っとくけどアリスもかなり俺らに影響受けてるんだからな」

 そう言うノエルに、アリスは頷く。


「そうだったら嬉しいわね」



 話し合いは成され、魔法使い達が呼び寄せていた悪魔たちは契約を打ち切られて裏の世界へと帰っていった。

「どうしてこんなことになっちゃったのかしらね……」

 アリスが言うと、皆が苦い笑いを口に浮かべる。


「確かに……悪魔という存在を呼び寄せなければもっと容易に農民と魔法使い達の確執は無くなっていただろうにな」

 アリスが下を向くと、ミシェルは、お前の事じゃないからな、とフォローを入れた。


 悪魔たちによる分断がなくなり、農民も魔法使いも自由に出入りできるようになった。ルーンは魔法の鍵を普通の鍵に取り換え、彼ら農民たちを家に招き入れた。


「ねえミシェル、私、かなり魔力が上がった気がするの」

 それ以上強くなってどうするんだ、とばかりに目を剝く彼に、アリスは笑って言う。


「多分、今回の旅で、私は認知度を上げて、さらに皆に応援してもらえる存在になった。それは悪魔にとって、かなりの力になるのよ」

 だから、と言って彼女は満面の笑みになる。


「だから、今回の勝利は私たちだけのものじゃなくて、皆がいてくれたおかげだと思うのよ」


 そう言って青空を見上げるアリスに、ミシェルは、そうだな、と言って、彼も空を眺めた。

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魔法使いの使い魔ー消えた主人を探す旅ー 碧海雨優(あおみふらう) @flowweak

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