転売ヤーは異世界から帰ってくれ

ちびまるフォイ

魔王よりも恐ろしい存在

「この先の洞窟は難所だ。

 あの町でしっかり準備して魔物との連戦に備えよう!」


冒険者一行は町に立ち寄ることに決めた。

近くの道具屋さんに行くと呆れた顔で応対された。


「薬草? ないない。今はこの店に売ってないよ」


「売ってない!? 薬草ですよ!?」


「それが売ってないんだよ。最近、異世界からやってきたやつがまとめ買いしちゃってね」


「そんなに強敵と戦う必要が……?」


「いや、単に薬草をたくさん買いだめて、みんなが欲しくなった頃合いを見てバカ高い値段で売りつけるって話だ」


「はぁ!? そんなの困りますよ!」


「そう言われてもねぇ……」


薬草を諦めた冒険者はせめて回復をと宿屋に向かった。

今度は宿屋の店主が困り顔をしていた。


「すまないね、冒険者さん。今はどの部屋もいっぱいなんだ」


「この辺境の町の宿屋が満杯になるなんてありえるんですか」


「それが、冒険者一行がこの町に近づいていると聞くや

 異世界からやってきたやつらが数日前から部屋を占拠しましてね。

 一般の客ももう入れないんですよ」


「こっちはもうボロボロなんですよ!?」


「なんでも、この宿屋の宿泊代の10倍の値段を差し出せば

 部屋を明け渡してもいいと話しているんです……」


「ぼったくりか!!」


薬草も買えず、宿屋にも止まれない冒険者たちは困り果てた。

せめていい装備を整えて、回復できないまでもこれ以上のダメージを受けないようにと考えた。


武器屋につくと店主は沈んだ顔をしていた。

冒険者は嫌な予感がしていた。


「あの、オリハルコンの鎧ってありますか?」


「ねぇよ。うちにゃもう売り物なんて何一つない」


「ここ武器屋ですよね!?」


「武器がほしいんなら、異世界からやってきた奴らの露店がある。

 そこで買うしかもう手はねぇよ」


「ここに来る前に見てきましたよ。定価の10倍以上じゃないですか!」


「それでも武器が壊れたり、鎧が使い物にならなくなった人は

 背に腹は代えられないとばかりに買っちまうんだよ」


「そんなこと許していいんですか!?」


「どうせあいつらは異邦人。あの露店もすぐに消えちまう。

 そうして町を練り歩いては、色んなものを不必要に買い占めて法外な値段で売りつけるのさ」


「いや俺はこの町で武器と防具をそろえ、万全の状態で次の洞窟にいどまなくちゃいけないんです」


「こっちだって迷惑してるんだよ。おれっちが店をやっているのは金がほしいからじゃない。

 お客さんに武器や防具を渡して喜ぶ顔がみたいからなんだ。

 かといって、客をこっちの都合で断るわけにもいかねぇだろう」


「ぐ、ぐぬぬ……」


釣り上げられた価格の薬草や武器防具はとても買えない。

一刻もはやく世界を平和にしたいのに、こんな場所で足止めをくらうとは。


けれどそこは選ばれし高潔な精神をもつ冒険者。

人を憎むことはなかった。


「こんなことが横行しているのもすべて魔王が世界を不安にしているからだ。

 世界が平和になって、心に余裕が生まれればあこぎな小銭稼ぎさせずにすむはずだ!!」


冒険者はこのような現実の惨状に心を痛め、ますますトレーニングに明け暮れた。

武器も防具も買えず、まして回復もできないギリギリの環境は冒険者の戦闘スキルを飛躍的に成長させた。


やがて鍛え上げられたオリハルコンよりも硬い体を手にれた冒険者たちは、

魔物を圧倒してすべての元凶である魔王のもとへとやってきた。


「その装備でここまで来るとはたいしたものだ、冒険者よ」


「気づいたんだ。武器や防具に頼らない本当の強さは、自分の体そのものだってことに!!」


「しかしそれもここまでだ。我の配下を相手にして同じことが言えるかな?」


魔王が指を鳴らすと、壁にかけられていたろうそくがいっぺんに灯る。

あたりが明るくなると部屋にはたくさんの魔物と、それ以上の数の人間が控えていた。


強くなった冒険者にとって魔物は驚異ではなかったが、

相手が人間となると話は別で手出しできなくなる。人質同然だった。


「おのれ魔王め、人間を操るなんて卑怯な手を! 正々堂々と戦え!!」


「クックック。貴様、我が人間を操っていると思ったのか?」


魔王は目を血走らせた人間たちを指差した。




「こいつらは、お前が死んだときの服を高額転売するため勝手に集まっただけだ。我も迷惑している」

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