[SS]No.9 あの日交わした、フライドポテト論争
フライドポテト。
それは、紛れもないファストフードの代表格。
カリカリにあげたシューストリングや、付け合わせに多いウェッジカットなど種類も豊富で、とにかくうまい。
ファミレスにもあれば、カラオケにも当然ある。言わば、俺たち高校生の日常を彩るもののひとつだ。
そんなフライドポテトについて、俺たちは高三ながらも、くだらない論争を繰り広げていた。
「いや、ぜってー最初に食べた方がうめーって。ハンバーガー食べた後だと味が薄れる」
馴染みのファストフード店の席にもたれながら、強気にそう言い切ったのは同じクラスの三谷勝。
「いや、三谷。それは邪道だよ。まずハンバーガー食べて、その後にポテトの方が美味しいよ。薄れるどころかあの塩加減が本当に最高なんだから」
と、真正面の席から反論したのは、同じくクラスメイトの藤浪庄司。
「んー、俺は交互に食べるのがうまいと思うけどなぁ。どっちか片方だけ先に食べるとか、飽きない?」
何やら面白みのない無難なことを言っているのは俺、加崎東吾だ。
「加崎マジか? それは両方の味を殺してるだろ。人生の半分損してる」
心底ありえないという表情で、三谷は首を振った。なんだこいつ。そんなことで人生の半分も決まらないだろ。
「いやいや、殺すどころか引き立ててるだろ。一回それで食べてみろって」
そう俺は反論してみるも、三谷は大仰に首を横に振った。
「いや、いい。俺はまずハンバーガー食って、ガツンと腹に落としてからポテトつまみながらシェイク飲むのが好きだから」
「ふーん。結構こだわってるんだね、三谷」
勉強や部活は雑なのに、と藤浪はけらけらと笑った。全く同感。
「う、うっせーよ! メリハリが大事なんだよ!」
「はいはい」
そんな感じで雑に三谷をあしらっていると、ピンポンパーンと来店を告げるチャイムが鳴った。
「あれー? マサに藤浪に加崎じゃん。おっつー」
チャイムに続いて、軽快な声が店内に小さく響く。声の方を振り返ると、クラスメイトの浜野亜梨沙が手を振っていた。
「おー、亜梨沙じゃん」
幼馴染で一番仲の良い三谷が、ひらひらと手を振り返す。
「なんか〜、盛り上がってたね〜。何の話してたの〜?」
浜野の後ろから、のんびりとした声とともに小さな頭がひょっこりと顔を出した。同じクラスで、俺の隣の席の三宮くるみだ。
「いや、三谷がやたらポテトの食べ方にこだわってるって話」
くるみの問いに、俺は「やたら」を強調してそう一言説明する。
「ほうっ! 三谷っち、どんな食べ方してるのーっ⁉︎」
興味津々にそう聞いてきたのは、浜野たちよりワンテンポ遅れて入店してきた麻倉舞香だ。
「舞香、相変わらず食いしん坊だよね。今も、店の外のメニューを穴があくほど見てたでしょ?」
麻倉の前のめり姿勢に、呆れた様子で藤浪が笑う。
「庄司うるさい。それで⁉︎ 三谷っち、どんな食べ方してるの?」
「その三谷っちって言うのやめろ。あと全然フツーの食べ方だから」
独特の呼び方にツッコミつつ、三谷は得意げに自分の食べ方を披露した。
最初は興味津々に聞いていた麻倉だったが、みるみるその興奮が冷めていくのがわかった。
「いや三谷っち、それはあかんよ。ダメだよ。人生の四分の三損してるよーっ!」
おおっ。俺の損してる分を超えた。
「はぁー? それは麻倉、お前の方だ」
「ほっほーう? では討論といきましょうか? 亜梨沙っち、くるみっち、ここ座るよ!」
「えー。まぁ、いいけどー」
「面白そうだね〜」
そんなこんなで、男子三人のフライドポテト論争に女子三人が乱入することとなった。
*
「よしっ! 私らは今来たばかりだから食べながらだけど、始めようっ!」
「ちょっと待って。麻倉の量、多くない?」
レジカウンターで購入を済ませた彼女たちの目の前には、それぞれ頼んだものが並べられていた。
浜野はミニハンバーガーとアイスティー。
くるみはフィッシュバーガーとフライドポテトとオレンジジュース。
そして麻倉は……
「そう? チーズバーガーと照り焼きバーガーとフィッシュバーガーに、フライドポテト二つとコーラだけだよ?」
などと、事もなげに言ってのける。
「いやいやいやいや」
「アハハ。舞香だったら普通だね。むしろちょっと少ないくらい」
「いやー、これでこの細身体型とかないわー」
「はむはむ……」
なんだか嬉しそうに笑う藤浪に、羨ましそうに麻倉を見つめる浜野。ちなみに、くるみはもう食べ始めていた。どうやらポテトから行く派みたいだ。もう半分も減ってる。
「で、なんだっけ? ポテトの食べ方だっけ?」
「そ、そうだ! ちなみに麻倉はどんな順番で食べるんだよ?」
この間で既にチーズバーガーを食べ終え、次の照り焼きバーガーの袋を広げている麻倉に、三谷は若干たじろぎながらも声を張る。
「んー……まずハンバーガーを一個食べるでしょ?」
「へ?」
おっと。ここで早くも予想外の一言。
「それでー……もぐっ、はぐっ……二個目を一口食べてから〜……むぐむぐ……ポテトを食べると……もぐもぐ」
「舞香、食べるか喋るかどっちかにしようね?」
「ふぁい……」
咀嚼しつつ話す麻倉に、満面の笑みを向ける藤浪……ちょっと怖い。
「さて。舞香は独特過ぎるから浜野たちは……っと、あれ? 浜野は食べないの?」
「んー、まぁーねー。あんまり好きじゃないというかー」
柔らかな表情に戻った藤浪に話を向けられた浜野は、アイスティーをすすりつつ少し気怠げに返事をした。
「つーか、亜梨沙はどうせまたダイエットだろ? この前も体重がよんじゅ……」
「マサーーーっ!」
と、ここで三谷が爆弾を投下しかけた。……いや、浜野の叫びでもう爆発してるか。
彼女の声は喧騒を孕む店内に小さく響き、近くにいた数人がじろりと視線を向ける。
「「す、すみません……」」
三谷と浜野は小さくなりながら謝ると、それぞれの飲み物をちまちま吸い始めた。
「……えーっと。じゃああとは……三宮か」
「はむっ⁉︎」
いきなり話を向けられたくるみは、びっくりしたように顔を上げた。その拍子に、持っていたポテトがテーブルにぽとりと落ちる。
「あ、ごめん……って、三宮はどうやら先にハンバーガーを食べるみたいだね」
「え?」
藤浪の言葉に、俺はハッとくるみの前にある品々に目を向けた。
ハンバーガーはあと半分ほど残っていて……
ポテトは……減ってない?
くるみの前にある袋の中には、まだ八割以上ポテトが入っている。そんなバカな。
「あれ? でも確かさっき、先に食べてたような……?」
堪え切れず、弱々しい疑問が俺の口から漏れた。
「あー、くるみは舞香よりもっと独特だしねー」
そんな俺の疑問に、浜野は苦笑いを浮かべる。
「どういうこと?」
「くるみはここに来ると、いつも『おかわりポテト』を頼むんだよねー」
「はむはむ……」
おかわりポテト。それは、イートイン限定で、何度もおかわりができるフライドポテトのメニューだ。
「でもあれ団体向けで、結構高かったような?」
「そーだよー。それくらい、くるみはポテトが好きなの」
「はむはむはむ……」
この間もずっと食べ続けているところ見ると、よほど好きみたいだった。たまにフィッシュバーガーやオレンジジュースに手は行くものの、基本はフライドポテト。というか、いつの間におかわりしに行っていたのか。
「これは……」
「レジェンドだね……」
「はむはむ……」
そんなこんなで、俺たちのフライドポテト論争は閉幕した。
そのまま移行した雑談の合間もポテトを食べ続けているくるみに、みんなは呆れた視線を向けていた。
そんなくるみを可愛いと思っていたのは、どうやら俺だけみたいで。
こんなふうにずっと駄弁っていたいと願うのは、多分みんなも同じで――。
数ヶ月後に、このお店で受験論争を繰り広げることになるのは、また別のお話。
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ちょっと趣向をこれまでと変えてみました。
こんな何気ない日常のくだらない話って、なんかすごく青春っぽいなーと思います。
思い返すことなんて、ほとんどないんですけども。
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とある青春の1ページ 矢田川いつき @tatsuuu
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