終章ー2


 煌めく夏の陽射しの間を、涼風が軽やかに縫ってそよいでいく。若葉の緑は鮮やかに深まり、木陰の下がそろそろ心地よくなってくる季節だ。

 ここ最近、ようやく昔日の姿を取り戻したスティルの王都と王城。その宮中の中庭に、珍しく若き王の姿があった。少年のあどけなさはもうないが、柔和で優しい面差しはそのままだ。背もいくぶん伸びたようだったが、その隣を歩く伽月には及ばなかったらしい。いまだ彼を向く視線は、見上げるようにその顔を仰いでいる。


 こっち、こっちと、伽月ひとりを供にしたニールへ、気安げに呼びかけるのはセーラだ。今日は彼女の提案で、心地よく爽やかな空気を味わいながら、外で茶会を催すことになったのだ。様々に茶器と菓子が揃えられた、丸く広い机のそばに座し、手を振り招くその腹部は、ふわりとまろく膨らんでいた。


 はしゃぐセーラの隣には、ユリアと透夜の姿もあった。透夜の方はいささか疲れが見えるようだが、仕方もないだろう。いま彼は、ユリアとともに砂漠の国々との外交交渉の任に就いている。そのため、一年の半分以上は砂漠に身を置いているのだが、昨日久しぶりに彼女と戻ったところなのだ。ユリアは透夜の補佐役であるため、報告の業務は免れたが、透夜の方は昨夜遅くまで、外務卿と、父たる内務卿につかまっていたのである。


「お疲れだね、透夜。報告、確かに聞いたよ」

 欠伸を噛み殺しつつも大人しく茶会の席についてやっている透夜を労い、ニールは伽月の引いた椅子へと腰かけた。

「父上は、本当に仕事になると厄介だ……正直きつい」

「だから、僕は頼りにしてるんだけれどね」

 頭を抱える透夜へ、ニールは可笑しそうに笑った。

「それにいまは、あえて仕事に注力しているようにも思える。そうしていないと、居ても立ってもいられない気がかりがあるんだろう。ね? 侍従長殿」

「陛下……圧がありますよ」


 苦笑をこぼしつつ、伽月もニールの隣の席に腰を下ろした。護衛兵団長から侍従長へ。役目を変えた伽月は、王となったニールのよりそば近くで、公私に渡り彼を支えている。それをニールも非常に頼りにしているのだが、いまは内務卿も密かに心騒がしている大事が目前なのだ。内務卿にとっての初孫――つまりは、彼とセーラの間の子が、もうすぐ生まれてくるのである。セーラは平気で背を押してくれているようだが、彼が仕事にばかりかまけているのは、ニールとしては考えものだと思っていた。


「伽月、君が休もうとする気配がないからだろう? こういうのは大切だというよ。僕は、多くの女性の声からそう学んでいるのだけど」

「ご配慮通り、きちんと休暇はいただきますよ。ですが、それを言うなら陛下もしっかりお休みください。目を離すとふらふら仕事に戻っていかれるのが、休むに心残りです」

「それを言われると弱いな」

 言葉遣いに反して、苦言を呈する口調は叱責する兄のようだ。ニールは眉を寄せた困り顔で笑みを落とした。


 四年前、スティルの国土は、世の例にもれず、大きな災厄に見舞われた。王都を中心に大地はひび割れ、夜を引き裂く雷が、地上のすべてを焼き払うかのように降り注いだのだ。もちろん、その後そこへ吹き抜けた一陣の薄紅の風によって、その災いは取り払われた。地の底へ引き込まれそうな亀裂は塞がれ、焼け焦げた地面は再び草花の息吹を与えられたのだ。だが、そのあとがまた一苦労だった。


 王都復興、王城の復旧――国にあった日常の営みを取り戻すために必要な事は山積みだった。そこへ同盟国である帝国の瓦解により、諸国との駆け引きめいたやり取りが転がり込み、内に外に、ニールは頭を悩ませ、多忙を極めた。戴冠を早々に、しかし手順だけは抜かりなく済まし、地位と立場を盤石にし、内外へ睨みをきかせながらも、疲弊した国の隙をつかれないよう、平和裏に万事を進めることにニールは心血を注いだ。スティルの王都が帝国に侵攻されていたことが逆に功を奏し、かの国への反感を抱く諸国とも折り合いがつけやすくなったのは、不幸中の幸いだった。一方で、元からあった帝国貴族との縁から、かの国の技術を貰い受け、いまだ混迷にある帝国領付近で、優位に立ち回れる地盤の確保にも密かに尽力した。


 透夜たちの来訪を機に、砂漠との伝手ができたのも大きかったろう。いままで中央大陸に出入りの少なかった物資を独自に取引しえ、復興の資金繰りにあてられたことで、想定よりもだいぶ早い安定につながったのだ。


 まさしくこの四年は、スティルにとってはあっという間の、しかし激動の歳月だった。ニールは政務に追われ、眠れぬ夜をあまた越し、〈眠らずの王〉の不名誉なふたつ名をしばしほしいままにしたのち、こうしていまようやく、多少はお茶を楽しむ時間も作れるようになってきたというわけなのである。


「陛下の見張りもありますし、これからまた、忙しくもなりますからね。きちんと暇はいただきつつ、ほどほどに戻らせていただきますよ」

 先王の喪にも昨年ようやく服せたので、後回しにしていた戴冠の式典を次の春にこそ、という話が、ちらほらと持ち上がって来ていた。あらかた都としての様も整い、民も落ち着きある生活を取り戻しつつある。時期としては頃合いだろう。大きな祭典は国威掲揚にも、威容を多方に示すにも効果がある。ニールとしても否ではなかった。だが、いざ行うとなると、すでにいまからその準備に、仕事がいやおうなく増すというわけだ。ニールももちろんであるが、特に宮内卿や侍従長などは、その筆頭だろう。


「とはいえ……伽月は我が子に他人のように見られたら、とても落ち込みそうだからな……。僕としては、職務へのその真面目さが気がかりだ」

 心底心配らしく、悩ましげなため息を落とすニールへ、明るい声でセーラが笑った。

「そうね。でも国にとっても、ニール陛下におかれましても、落ち着きが見えてきたいまが肝要なところ。だからこそ、押さえるお仕事は、きちんと押さえないとだわ。だけれど、根を詰めすぎるもの確かに考えものだから、今後も適度に、こういう機会を設けましょう? そして、そういう時間が作れるように、お仕事をする。それでいいじゃない?」

 容易く言ってのけると、ニールは伽月と苦笑交じりに顔を見合わせた。だが、セーラからは、できるでしょうとの信頼が朗らかに薫る。それが押しつけがましくなく心地いい。幼い時から、彼らにとっての彼女はいつもそうだった。


「さ、いまは目の前のお茶とお菓子に向き合いましょう? 今日はユリアちゃん厳選の砂漠のお菓子があるのよ!」

「日持ちするものしか持ってこられませんでしたけど、味は散々試したので保証できます!」

 弾むセーラの声にユリアは一同へ胸を張った。そのままセーラとそのお腹の膨らみに語りかけて微笑む。

「気が早いけど、あなたへのお土産もあるの。あなたの叔父さんと一緒に選んだのよ? 出てきたら、お母さんからもらってね」

「なんだか楽しみだわ。生まれてきたら、その子と一緒に開ける秘密の小箱。砂漠の素敵な風習ね。開けた時に入ってた物で、色々意味が違う、おまじないなんでしょう?」

「そう。幸福を、友愛を、勇敢さを、美しさを――色々あるけれど、でも、なにが入っていても生まれてきた子に祝福を与える魔法になるの。友人に子どもが産まれるって話をしたら教えてもらって、絶対にセーラとセーラの子へ贈ろうと思って」


 すでに寿がれている小さな命を間に華やぐふたりへ、穏やかに黒の瞳を細めながら、ニールはユリアへ声をかけた。

「この前、新しい街へ拠点を移してもらいましたが、そちらでも順調そうですね」

「はい! ずいぶんと仲のいい方も増えました。上手くやっていけそうです」

「実際、補佐にユリアがいて助かる」

 心強く頷くユリアに透夜が重ねる。砂漠における外交の指揮は、透夜とは別に年配の大使が遣わされているが、彼が担う役割も大きい。大使の次席に当たる立場として、大小問わず交渉事務を捌き、主導的に処理しているのだ。そんな透夜の力強い右腕となっているのが、ユリアなのである。


 彼女は身分もあって役職は高くないが、その言語能力を買われ補佐に就いただけはあり、透夜以外の砂漠詰めの者たちにも頼られていた。幻獣がその身にあった影響か、元からの資質かは分からないが、砂漠の言語をひとたび学びだすと、それこそ砂が水を吸うようにものにしていったのだ。いまは異国の言葉を操るのも、裏にある微妙な機微を汲みとるのも、誰よりも上手い。


「特に出入りの商人相手は心強いな。危うい契約文言や内容はすぐに察知するし、逆に丸め込みさえしてくれる」

「透夜はそういうところ、素直だもんねぇ」

 くすくすといとおしげにユリアは肩を揺らした。透夜は不服そうに眉を寄せたが、それすらふたりの間柄では柔らかい空気に滲んで溶けていく。


「しかしやはり、ユリアさんの話を聞くにつけ、勉学の場を増やすことは大切ですね。民の間の識字があがれば、ユリアさんのような才能を潰すこともなくなる。この件についても、本腰を入れて考えないと……」

「またすぐ頭が仕事に侵食されるな、お前は」

 真摯な顔で呟き出したニールへ、透夜が呆れて肩をすくめる。

「陛下? 陛下なニールはいまはお休みしてちょうだい?」

「ちょうどいい。待ちかねたお客人が来たようだ」

 たしなめるセーラに合わせるように、向かってきた人影に気づいた伽月が、そちらへ目を向け微笑んだ。


 長い黒髪がそよ風に涼しく踊る。一筋編みこんだ髪の根元を、淡い朝焼けを掬い取ったような薄紅色の髪飾りが、美しく彩っていた。可憐な愛らしさはそのままに、大人びた紫の瞳が、一同を見て大きく手を振る。

 飛ぶように駆け出すその背を、やれやれとため息交じりに笑んで見やるのも、見慣れた姿だ。赤い色がいく房か混じる短い黒髪は、初めて出会ったころと変わらずそのままで、ただ、その右目の色だけが昔と違う。海のような深い蒼。失われた瞳を補って入れられた宝石のような視線のない目。その色を、彼は左の金色とは揃えずに、かつての己の色を選んだ。あげた色は、もう取り戻さないということらしい。


「久しぶりじゃ、ニール殿」

「お久しぶりです、ピユラ殿」

 服の裾を摘まみ上げ、背筋を伸ばして膝を折るスティル式のピユラの挨拶に、席を立ったニールは右掌を心の臓の上へと滑らせ、凛と腰から上体を傾けて、頭を垂れた。風羅式の最敬礼だ。いつかの時に、きちんと調べてくれていた彼が、ピユラをこの礼で迎えた。それ以来、ふたりの最初の挨拶は約したわけでもなく、それぞれの国のものと決まっていた。時たま、人もほぼいないふたりきりに近しい時に、ピユラが憧れだと語った手の甲への口づけも送ってくれるが、その時のニールはたいてい悪戯をする少年の顔になる。それが互いに可笑しかった。


 いまのピユラは、蒼珠を伴ってゆっくりと諸国を巡り歩いていた。かつて風羅から逃れての二年間の道行きとは違う、目的のない旅。知らぬ世界を己が足で訪れ見聞を深めたいと、それらしい理由を掲げはしているが、実際のところは心の赴くままに巡っているだけだ。戯れゆく風のように、果て知らず舞う鳥のように――いつかどこかに居場所を定めたくなる時まで、そうして漂うもいいのではないかと、ピユラは楽しんで行くあてのない道を進めるようになっていた。父から――風羅から残された〈飛花〉の名も、その間は公には使わないことにした。なんとなく、その名は身の置き所を定めた時に、己のものにしたかったのだ。それゆえいまも、彼女はピユラで通している。


 ただ友の多くいるスティルは彼女にとって特別で、旅の区切り区切りに、気づけば必ず帰る場所になっていた。そんな彼女をいつも、ニールも伽月もセーラも、戻っていれば透夜もユリアも、快く迎えてくれ、そしてまた、送りだしてくれた。そのあたたかさが、いとおしかった。


「ところでニール殿、最近は寝ておられるかの?」

 すすめられた椅子に座りながら、悪戯めかしてピユラが首を傾げれば、んんっとわざとらしく咳払いをして、ニールは恥ずかしげに頬を染めた。

「寝てます。もうあの失態はお忘れください」


 今日とは違う冬のある日のことだ。立て込みに立て込んだ仕事の山に、制止も振り切り飛び込んで、忙殺されていたニールの元へ、ピユラの来訪があった。たまさかの訪れ、彼女とひと時を共にするのは、ニールにとっても楽しみのひとつになっていた。それゆえ伽月の助力の元、時間を無理くりこじ開けて、茶会の隙を作りだしたのだ。少しは落ち着いてと、ニール自身も久方ぶりに自室に戻って、ピユラとふたり机を挟んだ。暖かな部屋、ピユラの纏う冬木立の風の香りも心地よく、重ねて漂う茶葉の芳香に、焼き菓子の甘い匂い。気の置けない会話と柔らかなピユラの声音が耳をくすぐり――気づいたら、ニールは完全に眠りに落ちていた。そして意識を取り戻した時には、ベッドの上だったのだ。はっと飛び起き、寝室から服の乱れもそのままに駆け出したら、次の部屋には、眠る前と変わらずゆったりとお茶に口をつけながら、読書してピユラが待っていて、よく眠れたか、と微笑まれた。


「あの時は伽月にしてやられました……」

 休め休めとせっつき、出来るだけ謁見も最小限にとどめようとする彼が、いやに大人しく準備に手を尽くしてくれるとは思ったのだ。恨みがましく彼を見やる視線に、声をたてて軽やかに伽月は笑った。

「あの時のニールは、ああでもしないと休みそうになかったからね」

 すっかり兄の方の顔で、伽月は悪びれもせず楽しげだ。

「ピユラちゃん、先のニールの申告には多少虚偽があるから、また目に余るようだったら付き合ってあげてほしいな」

 変わらぬ穏やかな笑みは、ニールにも聞かせてピユラへと話しかけた。伽月、と気恥ずかしそうに咎める王の声も、いまは効果がないようだ。


「ともかく――またいろいろとピユラ殿からは旅のお話も伺いたいのですが、そうすると、どうも仕事のことにもなってしまいそうなので……ひとまずは、くつろいで友とのひと時を楽しみます」

「うむ。そうしよう」

 珍しく落ち着きを乱されているニールの様子に、ピユラは微笑ましく笑い声をこぼした。そのまま隣のセーラの腹部へそっと手を伸ばす。

「セーラ、本当にもうすぐなんじゃの~」

 なでなでとその幸せな膨らみへ、ピユラは愛しげに視線を落とした。そのまま、まるで昨日も共に過ごしていたかのような自然な会話の華やぎが瞬く間に溢れ、初夏の空気の中、賑やかな声音が弾んでいく。


 子どもの性別の話で盛り上がる傍らで、そういえばと透夜が、はしゃぐピユラを見守っていた蒼珠へ声をかけた。

「カイルから、いい加減、義眼の調子を見に来いと伝言があったぞ」

「あ、やべ。そういや、そろそろそんな時期だったな」

 しまったと蒼珠は頭を掻く。彼の義眼は、砂漠の民の技術によって実に精緻に作られている。遠目にはもちろん、近くでも、その視線が物追わぬ違和に気づかなければ、本物に紛えてしまうだろう。とはいえ、定期的に様子を見てもらうことは必要なのだ。


「ルイーゼも元気かの?」

「うん! こっちに戻る前に立ち寄ってくれたんだけど、すごく元気だったよ~。義足もすっかり馴染んでるから、ラダートに乗るのも、もう以前と全然遜色ないの。相変わらずかっこよかったよ」

「そいつはなによりだが、カイルの方も相変わらず文句言ってんだろうなぁ。目に浮かぶようだぜ」

 ルイーゼ当人は気にもとめてないだろうが、カイルの過保護が輪をかけていることは容易に想像できた。ルイーゼが義足で再び歩けるよう努力を重ねていたのを支えていたのだから、彼女が生き生きと動き回ることに、存分に喜びもあるだろう。だが、それはそれとして、当然のように心配し、口やかましく小言を繰り出すのがカイルという男だ。


「義眼のこともあるし、久々に会いに行きたいが……ちっとこのあとに行く先は、もう決まってんだよなぁ」

 にやりと笑い、勿体をつけて蒼珠は言う。その意味を察して、ふと透夜も口端に、やはりそこはかとなく意地の悪い笑みを引いた。

「前に話していた、例のところか。しかし――本当に生きているとはな」

「そうそう。信じがてぇが、実際そうなんだから、もう疑うもなにもないっつぅか」

「かの男が私たちの前に現われて、調べてみることにならなければ、かように不可思議な事実を知り得なかったというのも、なにやら感慨深いのぅ……」

「しれっと来たんでしょ?」

「そうそう、どんだけ神経が強靭なんだと思ったっつうの」

 くすくすと可笑しそうに笑って尋ねるユリアに、蒼珠は大仰に天を仰いだ。


「それにあいつもあいつだが、あの野郎もあの野郎だよ。いけしゃあしゃあと嘘つきやがって。なぁにが、『始末しといた』だ。ぴんぴんして顔出してきたっつうの」

「ちょっと前に、辿り着いたとの便りを得てな」

 悪態をつく蒼珠のあとを継いで、ピユラも口元に笑みを刻んだ。くるりと空に回わされた指先にふわりと風が渦巻いて、黒髪を梳き、吹き抜けていく。

「痩せた土地でも育ちやすい、いい苗や種というのは、興味をそそられるの」

「土の質をあげるという話も、僕としては気になりますね」

「では、それについても聞き出してこよう」

 含みをもたせて笑って目配せするニールの言葉に、ピユラは可笑しげに応じた。かの男は、ニールにとっても無縁ではないのだ。当然だろう。


「それじゃあ、やっぱり、行くんだね」

 いつかと違い、陰鬱な翳りのない姿へ、穏やかにユリアは微笑む。ピユラは真っ直ぐに頷いた。

「うむ。そうしてみようと、思うのじゃ」

 紫の瞳が淡く光りを宿して、そっと己の胸の内を見つめるように伏せられた。

すべてを奪っていた氷の仇。けれど、ここは危ないよ、と、惑うピユラを導いてくれたのは、確かに彼の手だった。

 雪解けまで見えぬ、春告げに芽吹く淡い緑――。その奥底に、〈飛花〉の名を秘め続けいた、父の最期を看取った相手――……。


「どんな顔で、どんな心で向き合えばよいかは、まだ分かっておらぬが……ただ、会おうという覚悟は決めた」

 恨めしくも愛おしい、若葉の目の人――。

「奴にも時間は与えたはずじゃ。それこそ、覚悟のひとつも、見せてもらわねばな」

 そよぐ樹々の葉をざわめかせ、煌めく風が黒髪をなぜて、爽やかに吹き抜けていく。挑みかかるように美しく、鮮やかな夜明け色に笑みが花開いた。





                                  ―了―

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風の王女は幻獣と復讐の夢を見る かける @kakerururu

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