第16話 『持つべき友は幼なじみ』~真一と優香
香織に言われたことがグサッと心に突き刺さった優香は、教室の自席でずっとしょんぼりしていた。
優香(ホンマに何やってるんやろ私…。しんちゃんのこと知ってるのに、カマかけたのはやっぱり逆効果やったか…。第三者の香織ちゃんにここまで言われると、私、何も言い返せれんなぁ…。しんちゃんが辛い思いしてるのに、香織ちゃんを助けてたんか(助けていたのか)…。しかも香織ちゃんの『初恋の人を探してた』って…。ホンマは余計に辛かったんやろなぁ…。しんちゃん、自分の気持ち何も言わなくなってしまったし…。どうしよう…)
(回想)
香織「私、今回のことでわかったんやけど、堀川くん、ホンマに真っ直ぐな男子なんやなぁ。駆け引きみたいなこと、あんまり好きやないんやない(好きではないんじゃない)?」
優香「…………」
香織「ゆうちゃんなら、堀川くんのこと一番よく知ってるんやから、私がこんなこと言わなくてもわかってるやろ? なのに、なんでカマかけたん?」
優香「…………」
香織「私の相談に乗ってもらってた時、堀川くん、めっちゃ集中して考えてた。なんかゆうちゃんのことを忘れようとしてたんかも…。私にはそう見えた」
優香「…………」
香織「確かに『幼なじみ』やから、堀川くん、もしゆうちゃんに告白してフラれたら、今までみたいな仲になれなくなるのが嫌やから、あえて告白とかしてないんかもしれんけど…。でもゆうちゃん、堀川くんのこと一番よく知っていながらカマかけるなんて、堀川くん辛かったんやと思う。だから、堀川くんは余計に自分の気持ちを言わんようになっちゃったんじゃない? 私、そういうふうに見えたよ。ゆうちゃんが堀川くんのこと一番知っていて、他の男子と付き合ってるってなったら、堀川くんの立場がないやんか❗」
優香「…………」
香織「堀川くんがかわいそうや」
優香「…………」
香織「それでも、ゆうちゃんは『幼なじみ』なん? それ、ただ裏切ってるだけやんか❗」
優香「…………(下をうつむいている)」
香織「堀川くん曰く『不器用やから』って言ってた。堀川くんのそういったこともゆうちゃん知ってるんでしょ? 一般的な恋の駆け引きを堀川くんに当てはめられるか? 堀川くんでは難しいって、ゆうちゃんやったらわかってたんと違うの?」
優香「…………」
香織「ゆうちゃんはどう思ってるか知らんけど、他の男子と付き合っておいて、堀川くんと『幼なじみ』の間柄を壊したくないって言うのはおかしいで。そんなん、ゆうちゃんのただのわがままやんか❗」
……………………………………………
香織「堀川くんの立場で考えてあげてよ。このままでは、堀川くんがダメになってしまうよ。自分の気持ちを全く言わなくなってしまう。そうなったら、ゆうちゃんのせいやからね。…偉そうなこと言うてゴメン。でも堀川くん見てたら、辛くて、もう見てられなくて…」
優香はその後もずっとしょんぼりしていた。優香は真一のことを考えていた。
優香(でも、ホンマに不器用なんやから…。一般的な『駆け引き』は、しんちゃんにとってはやっぱり無謀やったか…。そんな所も私、知ってるしなぁ…。でも、香織ちゃんにここまで言われたら、私って…)
気分転換に窓際に立って、白いカーテンを開けて窓を開けて外の空気を吸う。第2校舎の2階の優香がいる教室から、向かいの第3校舎をぼんやりと眺めながら、真一のことを考えていた。時折ため息をつく優香だった。
優香「はぁ~…」
優香はずっと、向かいの第3校舎をぼんやり見ている。
優香「どうしたらいいんやろか…」
優香は考えていた。以前、森岡が間に入って真一を説得して、とりあえず仲直りをしたのも、優香は真一からしたら強引だったのかもしれないと思っていた。しかし、今の真一は強引に説得しないと立ち直れない、優香はそう考えていた。
すると、ぼんやり見ている向かいの第3校舎の2階の廊下で、真一が専門棟から戻って歩いているのを見た。
優香「……❗ しんちゃん…」
真一は優香が教室の窓から見ている姿に気づいていない。黙々と第3校舎の廊下を無表情で歩いている。優香は、教室の窓からずっと真一が歩いていくのをじっと見つめている。真一は1階に下りて、下駄箱の方へ向かっているようだった。優香が心の中で叫ぶ。
優香(しんちゃん…)
優香は、慌てて教室の窓とカーテンを閉め、教室を出て、走って真一を追いかける。
優香(しんちゃん…)
真一は、下駄箱で上履きから下履きに履き替え、校門を出ようとしている。それを優香は少し離れたところから見かけた。
優香(しんちゃん、待って…)
真一は黙々と校門を出て、高校駅に向かっている。優香が下駄箱で上履きから下履きに履き替えて追いかける。
そして、優香は息を切らしながら真一に追いついた。
優香「しんちゃん…」
真一が振り返る。
優香「しんちゃん…(ハァハァ…)」
真一「…何や?」
優香「いま帰り?」
真一「…うん」
真一と優香は再び歩きだし、しばらく沈黙が続く。
真一は、いつものようにミルクティを2本買って、1本を優香に渡す。
真一「はい…」
優香「ありがとう…」
真一「うん…」
優香「…なんか、久しぶりやなぁ、ミルクティ」
真一「そうか」
優香「うん…」
またしばらく沈黙が続いた。
優香は思いきって、真一に話した。
優香「しんちゃん」
真一「…何?」
優香「香織ちゃんから聞いたよ」
真一「…………」
優香「…香織ちゃんが『堀川くんに助けてもらった』って…」
真一「そうか」
優香「うん…。香織ちゃん、喜んでた」
真一「そうか…」
優香「うん…」
また沈黙が続く。
優香「あ、香織ちゃんが言ってたよ。『良い幼なじみだね』って…」
真一「そうか…」
優香「うん…。なぁ、しんちゃん…」
真一「…え?」
優香「私、森岡くんと付き合ってるけど、器用なことせんなん時とか、相談したいことあったら、森岡くんに気を使わずに、今まで通り、私に相談してきてな」
真一「なんや、急に…? オレのことはもうええから、これからはオレのことよりアイツ(森岡)のことだけ考えてやんな」
優香「アカン。絶対私に相談してきてな」
真一「拓(森岡)がやきもち妬くで」
優香「ええんや(いいの)。森岡くんには話してあるし、何か言うてきても私が『いい』って言うてるからいいんや(いいの)」
真一「えらい強引やなぁ…」
優香「とにかく…、しんちゃん、森岡くんのことは気にせんと、今まで通りに私に言うてきてな」
真一「……わかった…」
優香「うん(笑)」
優香の強引な話に真一は困惑していたが、優香は真一をなんとか説得して、少し気分が晴れたようだった。そして優香は、真一とまた今まで通りの『幼なじみ』の仲が少しだけ戻ってきたように思っていた。
そして、ここで夢から覚めた真一だった。
真一(ん? なんやねん、この夢。なんやけったいな話やったなぁ…。走馬灯のような夢にドラマみたいな物語っぽい話…。この2週間、話続いたなぁ…。コロナ禍でこんな昔の夢見て、オレ、これからどうなるんやろ?)
そう思いながら、真一はふとんから起きて、妻・みつきの弁当を作り始めた。土曜日は真一は基本仕事が休みなので、土曜日も仕事のみつきの為に弁当を作っている。平日はみつきが自分の弁当を作り、真一の弁当であるおにぎりを握っている。真一は仕事が多忙で、ゆっくり昼食がとれないため、みつきにおにぎりを握ってもらっているのだ。
みつきが仕事に出たあと、真一はようやく朝食をとる。朝食後は、スーパーへ買い物に行くのが真一の土曜日の基本のルーティーンなのだ。
真一「さて、買い物に行くか」
真一は車に乗って、スーパーへ買い物に出掛けた。
(完)
第二弾につづく…
“幼なじみ特別編”第一弾 不器用な男~青春旅情編『無人駅で初恋の人を待ち続ける女子高生』 まいど茂 @shinchan17
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