エピローグ


小雨が降っている。


雲間から時折覗く、眩しい太陽に目を細める。


傘をさした女性が、墓石の前で立ち止まった。


骨ばっていて、年季のある皺の入った手には、百


合の花束が大事そうに抱えられている。


その女性は、墓石の横に生えている鮮やかな紫色


の紫陽花を愛おしそうに眺める。


そして、墓石に向かって手を合わせ、


「私、今日で90歳になったのよ。


長生きしたでしょ?


...お兄ちゃん。」


女性が墓地を出ようとすると、雲の間から、紅い


夕日が顔を出した。


夕日が空を紅く染め上げ、その光が、紫陽花に


ついていた水滴に反射して、美しく輝いている。


いつの間にか、雨はやんでいた。


もう、傘は要らないみたいだ。


女性は傘を閉じ、しっかりとした足どりで、来た


道を戻ってゆく。


その後ろ姿を眺めていた紫陽花や百合が、風に揺


られて楽しげに踊っている。


どこまでも果てしなく続く、広大な空を、大きな


鳥が飛んでいった。

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灯火 惑火 @omi_kuzumegane

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