dirty work

春嵐

デッドエンドプログラム

「きたねえな」


「なにが?」


「他人の物ばかり奪って、グッズとかイラストとかを許可なく勝手に作って利益を得るばかどもがさ」


 彼の沸点は、いつも、よく分からない。


「いいでしょ、別に。なんだっけ、クリエイターズプログラム、だっけか。応募したほうが悪いわ」


 もともと商用利用ができないフォーマットなので、商用利用とかそういうものを立ち上げて他のサイトに誘導したりする行為自体が禁じられていた。

 だから、自分たちが呼ばれて、きたない仕事をはじめる。


「まともに同人活動してる方々にもうしわけないと思わんのかねこいつらは」


「同人?」


 何の略だろう。


「いいよ、おまえは。どうせわかんねえんだろ」


「うん。わからない」


「黙って燃やせよ」


「いやよ。なにこれ」


 目の前の書類。わけの分からないものが延々と書かれている。


「なにこれ。差別がテーマって書いてあるけど」


「差別か。どれ。見せてみろ」


「はい」


 彼が、書類をすさまじい速度で流し見ていく。


「ばかだな。ばかだ」


「なにが?」


「差別ってのは事実であって、他者を攻撃する材料じゃねえんだ。ここに書かれてる差別は、差別という言葉を使いたかっただけのばかのれ事だ」


「そうなの?」


「はやく燃やせよ」


「うん」


 書類を燃やした。


 ついでに、グッズとか、イラストとか、そこら辺にあるものも。すべて燃やす。


「よし。これで商用利用はできなくなったな。まともに許可も取れねえなら、グッズ展開なんかやめちまえくそが。同人活動する偉大な方々に迷惑をかけるんじゃねえ」


「おこってるね?」


「おこってるよ。そりゃあもうめちゃくちゃに。これをやってるやつらを直接殺してやりたいぐらいだ」


「やだ」


 基本的に殺しはやらない。


 警察に連絡をする。後は段取り通り、警察に現場を引き渡して、仕事は終わり。


「暇だな」


 そこかしこで火が燻っている。その火で、彼がタバコをつけた。


「権利剽窃の焚き火で吸う煙草はうめえなあ」


 自分も、やってみる。普通のタバコと変わらなかった。


「暇だな」


「暇ね」


 警察が来るまで、あと5分ある。


「俺の身の上話でも聞くか?」


「聞く」


 彼の身の上話は、いつも違う。その場で、なんとなく話をでっち上げる。


 現実の彼は、普通に生きて、普通に学校を卒業して、普通にわたしと一緒にいる普通のひとだった。だから、かもしれない。彼の身の上話は、いつも突飛で面白い。


「差別されまくった女の話だな」


「女?」


 あなた男でしょ。


「そこはほら、プロットだから。まあいいじゃん。あんなくそみたいな権利剽窃の書類よりかは、ましだぜ」


→自主企画の概要プロット欄へ続く

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