大空の海

雨世界

1 大きいね。世界ってさ。

 大空の海


 登場人物


 南雲明 ポニーテールの元気な少女 十七歳


 間宮大地 瞳の綺麗な少年 十六歳


 プロローグ


 大きいね。世界ってさ。


 本編


 この世界から、消えてしまったもの。


 大空の中はまるで透明な海のようだった。

 青色と白い雲と明るい太陽だけが存在している、不思議な浮遊感のある(実際に明の体はぷかぷかと空気の中に、風船やシャボン玉のように浮かんでいるのだけど……)そんな不思議な空の海の中で、南雲明はいつものように寝っ転がって気持ちよく居眠りをしていた。

 そんな風にしていると明は遠くの空の中に一人の人の人影を見つけた。


 ……あれは誰だろう? あんなところでいったいなにをしているんだろう? そう思って興味を惹かれた明は(なにしろ空の中はなんにもなくてすっごく暇なのだ)その人影のあるところまで空の中を泳いで行ってみることにした。


 今のように空の中ではなくて、しっかりと自分の両足をつけて、大きな大地の上にいる間、明は全然泳げなかったのだっけど、空の中で暮らすようになってから、毎日毎日、ほかにすることもないので、空の中で泳ぎの練習をしていたので、明はすごく泳ぎが上手くなった。


 すいすいとまるで海の中を泳ぐようにして、空の中を泳いで進んで、明はすぐにその人影のところまでたどり着いた。


 するとそこにいたのは明と同い年くらいか少し年下に見える一人の幼い顔立ちをした少年だった。

 少年は目をつぶっていて、まるで海の上で漂流してこの場所に流されついた人のような格好をして、空の中で眠りについていた。


 明は驚いて、(空の中で漂流している人を見つけたのは初めてだった)その少年の胸に(失礼だとは思ったのだけど緊急事態なのだから仕方ないと思った)耳を当ててみると、少年の心臓の音が聞こえた。

 ほっとした明が今度はその耳を少年の口元の近くに移動させると、今度は確かに少年の呼吸をする音がかすかに聞こえてきた。


 ……よかった。どうやらこの少年は『まだ、ちゃんと生きている』みたいだ。


「あの、もしもし、すみません。私の声、聞こえてますか?」と明は少年に声をかけた。

「……うん」すると、少年は少しして、そう言って、かすかにその目を、まるで深い眠りから目覚める朝のようにして、明の前でうっすらと開き始めた。

 少年はとても透明で綺麗な、ビー玉のような、あるいは人形のような、そんな作り物みたいに本当にとても澄んだ黒色の瞳をしていた。

 その少年のあまりにも透明で綺麗な瞳を見て、明は思わずどきっとした。(この少年は、自分より年下っぽいのに。私はどちらかというと頼り甲斐のある、年上の男の子が好みなのに)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大空の海 雨世界 @amesekai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ