御厨家家督相続に係る規則(抜粋・現代語版)

 ……双生児が出生した場合、

 一.同性の二卵性双生児である 

 二.片方は容姿端麗な一方知性に乏しく、もう片方は醜い一方知識、教養に優れる 

 という特徴が必ず現れる。


 この場合、対外的には児は一人だけ生まれたものとして取扱う。則ち、出生の届出は一人分のみについて行う。出生届を出さない、すなわち居ないものとして取扱うのは、醜い方の一方とし、その者には男女問わず「附子」という呼称を与えるものとする。但し、家内においては双子の一方についてのみ出生の届出がなされている事実を当人達に知られぬよう、細心の注意を払うこと。

 気付かれぬための注意の一環として、家内では「附子」を双子の一方に対して正式に与えられた戸籍上の名であるかのように振る舞い、その上でその存在については秘匿することとする。「附子」の取扱い方法に関しては別途『附子なる者の取扱いに係る規則』に従うこととするが、本規則においては、記述を省略するものとする。


 ……当該双生児が十六歳を迎えた後、二十歳に達するまでの間に、「魂移しの儀」を執り行う。 


 本儀式は本来、十六歳を迎えた後速やかに行うものとされていたが、時代の移り変わりによって年齢に関する要件を緩和したものである。緩和したとはいえ、本儀式は二十歳に達する日迄には終えていなければならない。これは、その後の心身への影響を鑑みると思考が柔軟な十代のうちに魂移しを終えるのが望ましいためである。また、家督相続及び結婚の問題が生じる時期までに魂移しを終えるという意図もある。


 ……魂移しの儀の詳細な手順に関しては別途『魂移しの儀実施に係る規則』に記載があるため、本規則では概略のみ記述する。


 当該双生児の双方に七日七晩の潔斎を行わせた後、所定の装束を着用させた上で、本家大広間の上座に座らせる。当主夫妻立会いのもと、当家専属の■■流の術者による魂移しの儀を行う。

 これはその名の通り魂をある者から別の者に移す儀式であり、双生児のうち、「附子」の魂を双生児のもう一方に移すものである。これにより、容姿のみに優れた双生児の片方に優れた魂が宿ることとなる。

 逆に、双生児のうち醜い方には浅薄な魂が入るが、この者は身も心も全くの無価値であるため、魂移しの儀終了の後、速やかに御厨家裏山の所定の場所にて焼き殺すものとする。こうすることによって双生児は外面も内面も美しい片方のみが残る。双生児の片方についてのみ出生の届出をすることにより、後に辻褄が合うのである。であるから、仏心を起こして双生児の両方について出生の届出をすることは厳に慎まなければならない。

 

 ……魂移しの儀を終えた後の醜い双生児は、生きているままでは全くの無価値であるが、焼き殺した後には重要な価値が生まれる。焼き殺した双生児の遺灰を混入した水をもって残った双生児の片方を洗い清めることによってかの者の「附子」として虐げられた記憶が浄化され、「附子」であった頃には持ち得なかった高い自己肯定感を獲得するに至る。


 ……魂移しの儀は、本来は外面と内面の両方に優れた一人の児が出生するべきところ、双生児として、外面のみが優れた者と内面のみが優れた者とに分かれて出生したものを、在るべき姿に戻すため必要な儀式ではあるが、ものを知らぬ者から残虐非道との誹りを受けるやもしれぬため、本儀式については当家の外の者には決して語らぬこと。

 

 本記述を読んでなお外部に本儀式についての情報を漏らした者に対しては……

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御厨家の令嬢 金糸雀 @canary16_sing

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