美しき死体
ツヨシ
第1話
富士の樹海に来た。
目的はただ一つだ。
それは死体を見るため。
他に理由はない。
俺は死体を見ることがなによりも好きなのだ。
樹海といえどもそこらへんじゅうに死体があるわけではない。
ただその他の場所に比べれば、圧倒的に高いことは高い。
そして今日も苦労はしたが、見つけた。
女が木の横で仰向けに倒れている。
そばには黒いバッグ、そしてなにかの薬のビンが転がっていた。
どうやら女は薬を飲んだらしい。
ただ女が転がっている横にある木の枝には、先が輪になった首吊り用のロープがぶら下がっていた。
前に一度見たことがある。
首吊り用のロープがあるのに、死体どころか誰もいなかったことが。
ところで首吊り用のロープが使ってくださいと言わんばかりに存在しているのに、なぜ女は薬を飲んだのだろうか。
自分で枝にかけた後、気が変わったのだろうか。
それとも最初からあったが、薬で死ぬつもりだったので使わなかったのだろうか。
俺にはわからない。
わからないが捜し求めた死体がそこにあることは確かだ。
俺は地に仰向けになった女を、笑みを浮かべながら見ていた。
すると女がわずかに動いた。
生きている。
まだ死んでなかったのだ。
俺は考えた。
死んでない者は美しくない。
見るに値しないのだ。
そのままにしておけばそのうちに死ぬだろうが、それがいつになるのかはわからない。
それなのにそのまま待つのはよろしくない。
俺は女を抱え上げると、首をロープにかけた。
女はぶら下がったまま少し動いたが、じきに動かなくなった。
口に手を当てたが、息はしていない。
俺はぶら下がったままの女を、かなりの時間ながめていた。
美しい。
ほんとうに美しい。
そして充分に満足し、次の死体を捜すためにその場を後にした。
結局、それ以上死体は見つからなかった。
テントなどの遺留品だけだ。
もやもやしたまま帰りたくなかった俺は、首を吊らせた女の死体をもう一度見ることにした。
そして迷いなく戻ってきた。
地形に見覚えがある。
そして同じ黒いバッグに薬のビン。
首吊り用のロープもある。
それなのに、そこに女の死体はなかったのだ。
終
美しき死体 ツヨシ @kunkunkonkon
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