第2話

 柳助と大和くんに校舎を案内してもらい、時計の針が五時を回った頃、私は作戦を決行することにした。


 決行場所は二階から一階へ降りる階段。


 「あ……っ」


 私は予定通りつまずくフリをする。


 「あぶないっ」


 ——転けることは無かった。

 想像以上に私のつまずきに反応した男のおかげだ。

 転けはしなかったが……、私の肩を支えて助けてくれたのは……助けてしまったのは大和くん、つまり違う方だった。


 「大丈夫かよー。涼子ちゃんって結構ドジっ子なんだね〜」


 言われたっ!

 あーもう、計画変更!


 「ありがとう、大和くん。でもちょっと足ひねっちゃったみたい。ごめんけど、保健室連れて行ってもらえないかな?」


 〓


 「ごめんね、校舎案内してもらった上に、保健室にまでお世話になって……」


 「いいんだよぉ、涼子ちゃん〜。まだ友達少なくて不安だと思うけど、俺と柳助はもう友達だから!いつでも頼っちゃってよ」


 「本当?ありがと!嬉しい。優しいね……錠ヶ崎くんもありがとう」


 「気にしなくていいよ。これからはちゃんと足元に注意して歩けよ?」


 「そうなんだよね。私って昔からドジっぽいとこあるって周りにも言われてんだ。早速バレちゃって、もう恥ずかしい……っ」


 決まった。

 ここで両の頬を少し熱らせることで男心を鷲掴みできるってことも雑誌で勉強したもんね。


 「えーー!涼子ちゃんそうなのー!その可愛いさとドジっ子属性って、男が好きそうな女子を体現したような感じじゃん!まじすげ〜よ」


 「えっっ!?や、やめてよー。ははは」


 ……ちっ。やりずらい。確信犯かよ。

 いい人なんだろうけど、今はちょっと帰ってほしい……。


 「これは褒めてんだよ!なー柳助〜?」


 「もうそれぐらいにしとけよ。時乃枝困ってるだろ?」


 「え?そうなの?ごめん!俺ちょっと空気読むの弱くてさぁ。はっはっはっはー」


 こういうキャラなんだ……。

 なんか微妙な感じになってしまった……。

 まぁいいわ。まだ学生生活は始まったばかり、絶対惚れさせてやるんだからっ!


 〓


 ——二ヶ月後。


 転校初日とは違い。風が少し涼しくなった頃。


 私は、柳助と一緒に学校から帰っていた。

 あれからというもの、夏の色々なイベントであれやこれや試すも全部大和のせいで変な感じになる……まぁ、全てイベント好きな大和のおかげで開催できた訳なので、感謝もしている。

 柳助については、好きなんだか好きじゃないんだか微妙な反応をするから、正直よく分からない。

 私って、あんまり魅力ないのかも……。

 これ以上はのれんに腕押しのようにも感じる……。


 でも、勝負には負けたくない。


 帰り道も途中まで同じだから一緒に帰る時間もチャンスなんだけど、いつも大和が一緒だからやっぱりやりづらい……。


 でも、今日は用事があるとかで、そそくさ先に帰ってしまった。

 つまり、柳助と2人。

 今日は何をしてやろうかな……。こんなチャンス中々無いけどこれといった案もない。


 そろそろ確信でもついてみようかな??

 うん、そうしよう。



 「錠ヶ崎くん」


 「ん?どした?」


 「錠ヶ崎くんって好きな子とかいないの?」


 やばい、言っちゃった。

 直接的すぎたかな?


 「……時乃枝って、幼馴染とかいる?」


 「え?どしたの……まぁ、いるよ(まさかバレた?)」


 「俺さ、昔幼馴染と変な勝負したことあってさ……」


 ——ドキッ!!


 「どっちか先に好きになってしまった方が負けとか、今考えるとアホだなぁてなるんだけど……」


 「なるんだけど?」


 「勝負がまだついてないのに、そいつ、いなくなっちゃったんだ。親の都合とかで東京の方へ行っちゃってさ。勝負どうするんだってな……。はは」


 「……どうして今、そんな話したの?」


 「あやふやなままの勝負だしさ、もしあいつもまだ覚えてて、そしていつか勝負を果たす為に俺の前に現れた時、俺だけ勝手に彼女作ってたとか、あいつからしたら最悪じゃん」


 「…………」

 

 「まあ、そういうことで彼女つくろうって思ったこともないんだ」


 「…………」


 柳助……そんなこと考えてたんだ。

 昔からだ、柳助はそういうとこ昔からずっと変わってない。

 私も、柳助はまだあの勝負忘れてないって、裏付けのない自信を持ってこの街に戻ってきた。

 なんで、そんな自信あったんだろう……。


 ——これってもしかして。




 「…………私の……け」


 「ん?なんか言った?」


 「私の負けって言ったの!!」


 「負けって……?」


 「私よ!?分からない?その幼馴染は私なの……私もずっと覚えていたの!色々と頑張ったけど柳助を惚れさせること、できなかったの!今の話聞いて私は柳助が好きだって気づいたの!だから、私の負け……」


 私はぶちまけた。

 本心ではずっと柳助に気づいてほしかった。

 あの頃と同じように、幼馴染として接したかった。

 柳助の話を聞いたことで、自分でも知らなかった柳助への想いの蓋が開いた。



 私は、柳助が好きなんだ……。



 「ちょっと……何とか言ってよ」


 「………ふふ」


 「え?何?」


 「ふはははははははは」


 「な、何なの?」


 「作戦成功!!俺の勝ち!最初から気づいてたのだー!」

 

 「う、嘘でしょ!?だって、だって初対面な感じだったじゃん!」


 「いやぁ、あれは正直ビビったわ。突然転入してくるし、名前違うし、すごい可愛く見違えてるし。でもすぐあの勝負の事思い出して、一旦トイレで冷静になって、今に至るって訳。つまり、気づいてないフリ作戦ってやつだな」


 「だ……騙された……、じゃさっきの話も嘘?」


 「いや、あれは本当」


 「…………」


 驚きと、照れとが混ざり合った不思議な感覚……。


 「そう落ち込むなって。ほら、行くぞ」


 「え?行くって……どこに?」


 「忘れたの?負けた方の罰ゲーム」


 「忘れる訳ない!…てことは、え?まさか」


 「そ、遊園地に連れて行ってもらわないとな」



 『勝った人は、負けた方に遊園地へ連れていってもらえる』

 ——私たちが9年前にした約束だ。



 「今から行くの?」


 「駄目か?」


 「……もーしょうがないなぁ。今からだったらまだパレード間に合うよね?」


 「パレードはいいよ」


 「いーや、行くの!」


 「分かった。……ふふ」


 「ふふふ、あはははは」


 私たちは堪らず大声で笑いあった。

 この9年で出来てしまった2人の隙間を埋めていくかのように……。


 そして、柳助は私の手をとって走り出した。


 「え、ちょっ」


 「俺、言わないといけないこともう一つあった。涼子に告られて、今更気づくなんてダサいけど、俺もずっと涼子のこと好きだったみたい」


 「え、今言う?着いてからでいいじゃん!」


 「いま言いたくって、駄目だった?」


 「ううん、うれしい!」






 私と柳助の、9年ぶりの、おバカな勝負はこうして幕を閉じた。



 …………………………………………………

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9年越しでも惚れさせたい! 鳥孝之助 @tori3k

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