9年越しでも惚れさせたい!
鳥孝之助
第1話
「俺と涼子ちゃん、どっちか先に惚れてしまった方が負けね!」
「いいわ、受けて立とうじゃない!」
海岸線で二人。私は幼馴染とこんな、今考えると意味が分からない勝負をしていた事を、今でもはっきりと覚えている。
「勝った人は、負けた方に—————してもらえるっていうことで」
それでもその時は、弩級に真剣だった。
そして、それは今でも——。
〓
高校二年の夏。
適度に湿った心地良い風、雲一つない澄み渡った青空、アスファルトを照り返す燦々とした太陽。
私は再び、この街に帰ってきた。
「
「え?可愛くね?」
「男子ちょっと黙って」
「やっぱ都会の子って可愛い子多いんだなぁ」
……云々。
クラスのざわめきの中、私は転校生としての初めの挨拶を終えると先生に指示された席へと座った。
教室の窓側、一番後ろの席だ。
よしっ、この学校でも私はちゃんと可愛いでやっていけそうだ。よしよし、ふふふ。
あとは、こっち……。
私は、視線を前の席に座る男に向ける。
この男と同じクラスになるところまでは計画通りだ。
この男の名前は、
私はこの男に3つの時に出会った。
顔はそこそこ格好良く、性格も優しかった。
今となっては身長も高くなっていて、私の身長なんかもうとっくに追い抜かれてそうだ……。
柳助、成長したなぁ……当たり前か。
私と柳助は、離れ離れになってから、かれこれ9年は経つ。
柳助は私がまたこの街に戻ってくるなんて知らなかっただろうから、さぞかし驚いたであろう。
しかも、同じクラス。ダメ元で先生に頼み込んでみて正解だった。席もちゃーんと前後で近いし、完璧ね。
私も、見違えるほど成長したからな。柳助の反応が楽しみだ……。
〓
——朝礼終。
クラスの皆は、美少女転校生である私の周りに集まってきていた。
「東京のどの辺に住んでたの?」
「部活何か入るの?」
「好きな芸能人教えて!」
自分でも驚く程の人気ぶり、悪い気はしない。
それはそうと、柳助は……?
辺りを見渡しても、柳助はいなかった。
あれ?おかしいな。久しぶりなのに……。
学校のチャイムが鳴り、一限の授業開始間際、柳助が席に戻ってきた。
席へ座ろうとする柳助に、こちらから話しかけてみることにする。
「よ!元気だった?」
「え……?あ、元気だよ。時乃枝さん?だっけ?元気?」
「あ、うん。元気」
「そっか。これからよろしくね」
「うん」
————ん?ナニコレ。
こいつ、まさか……私の事忘れてない??
嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ!?。
あんな勝負ふっかけてきておいて、忘れてるなんて信じられないッ——。
——あ……!
私は、ある事を忘れていた。
名字だ。11になった頃、片親だった私の親が再婚し、その時名字も変わったのだった。
柳助といた時と名前が変わってるから、名前では気づかなかったのか……。
そうだよね。私もこれだけ可愛くなってれば、久しぶり……ともならないか。
それなら、私にだって考えがある。
先手必勝。
〓
——放課後。
「ねぇ、ねぇ、錠ヶ崎くんって、部活とかって入ってる?」
「あぁ、いや特には入ってないけど。どうして?」
「もし、今からの時間大丈夫なら、校舎の中、案内してもらえると嬉しいなぁって」
「そっか……この校舎結構複雑だし、分かりづらいよね。いいよ、俺で良かったら案内するよ」
「やったー、ありがとう。助かります!」
とりあえず、柳助と2人きりになることは出来た。作戦その1に移る準備、完了。
さて、次は——。
「えー、柳助、転校生ちゃんと校舎回るの?俺も行く〜」
「げっ……」
「あれ?今なんか聞こえたような……涼子ちゃん、なんか言ったぁ?」
「いや、何も……。最近ちょっと喉痛めちゃってて。げほげほ」
「そうなんだ。もしかして最近クーラーガンガンで寝てるとか?気をつけてね。はっはっはっはー」
くそっ、いらん邪魔が入った。柳助の友達か……?
「おー、大和も暇か。一緒に行こう。いいだろ?時乃枝」
「あ、うん。よろしくね!」
ま、いいわ。無理矢理にでも作戦決行に移ってやるんだから。
作戦はこうよ。
柳助と私が校舎を周っている最中に、私が廊下とか、階段とかでつまづく。少し足を挫いてしまったことにして保険室に付き添ってもらう。
そしてそして、ここからが本番。「私って昔から結構ドジなところって……」とか何とか言って、見た目とのギャップを強調。男の子って、可愛いの中に垣間見える、ドジとか天然とかそういうのに弱いって、今まで見たどの雑誌にも書いてあったし、何よりギャップを作るために磨き上げてきたこの可愛さは今日この為にあったと言っても過言じゃない。
絶対上手く行くわ。最後に私の正体をばらして完全勝利よ!
ふっふー。
「どうした時乃枝、なんか不思議な顔してるぞ?」
気がつくと、目の前でこちらを真っ直ぐに見つめる柳助と目が合う。
一瞬のことであったに違いないが、私にはとても長く、スローモーションの様な感覚を起こさせた。
改めて見ると大人っぽくなったし、ますます格好良くなってんじゃん……何で気づかないのよ。
「ごめんごめん、なんでもない。さ、行きましょ!」
私は二人の手を取り、教室を後にした。
…………………………………………………
『⭐︎や♡で反応頂けると嬉しいです』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます