EP100.後夜祭で姫に伝えたい

 次の日…俺、江波戸蓮えばとれん白河小夜しらかわさよの事を考えてかなり緊張していた。

 今日で文化祭三日目、後夜祭の日だ。


 その前にまず、今日あった事を軽く説明をしよう。


 最初は片付けだったんだが、俺のクラスは基本的に布などを中心に使っていて組立などは行っていなかった。

 そして、食材とかは二日目の下校前、先に片付けてたので案外直ぐに終わった。

 …しかしその時、何度魔王様に煽られたことか…はあ、今思い出してウザいな。


 次に、売上や舞台評価の結果発表だ。


 …先に言うと、売上は俺たちのクラスが1番上だった…姫様すげな。

 「魔女」様のクラスもそこそこ上だったが、真面目すぎて小夜に人気は劣るのでそこまでだった。

 …よくよく考えたら、うちのクラス四聖人の中の三聖人いたから当然か。


 舞台はあまり関係ないので大雑把に言うが、小夜と見に行ったあとの発表がかなり好評だった。

 結果としては小夜と最初に見た演奏が一番だった…まああれは良かったと思うけどさ。


 以上。

 かなり適当だが…まあ、本番は後夜祭だから、な?








 そんなこんなで、後夜祭に向かうところだ。

 小夜と早めに夕飯を済ませ、俺らは家を出た。


「楽しみですね。後夜祭…」

「お、おう。そうだな…」


 お互い顔を熱く、赤くして目を合わすことが出来ない。

 …しかし、手はしっかりの握られていて、温かく心地よい。

 まだ、慣れてはいないけど。


「………」

「………」


 黙々と学校へ向かう俺と小夜…通り過ぎていく住宅街の生活音が、やけに大きく感じる。

 この時間がとても長く感じた…いっそ、ずっと続いて欲しいし、直ぐに終わって欲しい。

 自分で平気で矛盾してしまうほど、俺は色んな気持ちが混ざりあっていた。


 時期にとても長く、すぐに学校に着いた。

 …少し冷静になろう、イメトレするんだ。


 学校は既に解放されていて、イルミネーションが綺麗に光っていた。

 来ている生徒もかなり多く、そのほとんどがこの後俺がなりたいペアだった。


「…人、多いですね」

「そうだな。けど、俺穴場をしってるんだよ。そっちいこうぜ」


 …いや、穴場って言っても生徒会が変に気をつかって穴場にされている場所だけどさ。

 そう苦笑しながらも、小夜の手を引っ張って例の穴場に連れていく。


「ここは…」


 たどり着いたのは、正門玄関裏の花壇。

 後夜祭の今でも、とても人気がない所だ。


 …まあ理由はちゃんとある、俺が今からしたいものを実行しやすいように、だ。


 普通にイルミネーションは見えるが、絶妙に調整し、儚げ光らせ、落ち着いた…シャレた雰囲気が作られている。

 オシャレではあるため、これだけなら普通に集まりそうだが、生徒会が裏を回して、あることをする時以外は追い払っている。

 そのせいでここは例のことををする為に使うという、暗黙の了解がされていた。


 …なんか、生徒会の人らがよく分からんくなってきたな。


「まあとりあえず、座ろうぜ」


 日常でもあまり使われていないベンチに腰掛け、花壇とイルミネーションを同時に視界に入れる。

 様々な色のイルミネーションが儚げに光り、様々な色の花がそれを反射し…神秘的、幻想的な景色を作り出す。


「…二人きりで遊びに行く時に、必ずイルミネーションを見てましたよね」


 …''遊びに行く''なので、水族館のお手掛けと遊園地デートのことだろう。


「…逆に、遊びに行かない時は初めてイルミネーションを見に来ましたね」

「…そうだな」


 どっちにしも、思い出にとても残る景色だと俺は思う。


 そんな感じで、昔のことを話していると静かな時間が過ぎていった。

 俺は上手く言うことが出来ず、ずっと本題を切り出せなかった。

 しかし、運がいいのか悪いのか、花壇の周りに人が来ることはほとんどなかった。









 しばらく話して、二人で黙々とイルミネーションを眺める。


 ……くそっ、もうすぐに学校が閉まる時間になってしまう。

 そうなる前に、ここで必ず…言わなくては…


「………」

「………小夜」

「…はい」


 無音な空気を強い声で断ち切ると、小夜は優しく受け止めるように返事をする。


「言いたいことがあるんだ」

「…はい」


 心臓が高鳴る…頭が、口が、上手く動いてくれない。

 しかし…俺は1回奥歯を噛み締めて、その言葉を口にした。








「…………好きだ」






「っ………」


 その言葉から、俺は自分の気持ちが止めることができなかった。


「微かなことに気をかけてくれる優しい性格が好きだ。正しくいたいと思っている真面目な性格も好きだ。

 俺の気持ちに共感してくれるところが好きだ。その時の笑顔も、悲しむ顔も好きだ。

 俺に気持ちが伝わらなくて、頬を膨らまして怒っているところが好きだ。その時に可愛く睨む顔も好きだ。


 その太陽の光を全部反射した月のように煌めいた髪が好きだ。その綺麗で長い髪を使って、自由にお洒落した時の変化が好きだ。

 その何処までも澄んだ海のような瞳も好きだ。その目で優しく、見守るように俺を見てくれることが好きだ。

 その綺麗で可愛らしい顔が好きだ。俺の好きな性格が滲み出て、俺の好きな表情をだしてくれる小夜の顔が好きだ。


 俺の昔を卑下しなかったところが好きだ。俺のみっともない過去を聞いても、慰めて抱きしめてくれたところが好きだ。

 小夜自身が大好きだ。俺の好きが詰まってて、俺のことをちゃんと見てくれる、小夜自信の事が本当に大好きだ」

「…………」


 溢れ出た気持ちの一部を吐き出して、自分の顔が熱いことに気がついた。

 しかし、好きだ好きだと言って……まだ大事なことが言えてない。


「…だから、小夜」




 俺は再度覚悟して、その願望を口にした。






「俺と付き合って欲しい」






 …雰…囲気はいいとは思うが、あまりに突然過ぎて小夜は困惑してるかもしれない。


 しかし、告白や恋愛というのは相手を困らさせてこそ……だと聞いた。


 だから、俺の気持ちを全部小夜にぶつける……もう後悔は、微塵もない。


 先程から静かに俺を見てくれていた小夜は、ずっと顔を赤くしたまま目が泳がせていた。

 俺は焦らず、小夜の返事を待つ。


 ……この時間が、とても長く感じる……手に汗が滲み出て来るのがわかる。

 時期に、小夜が息を飲んだ音がきこえた。


 瞬きをすると、もう小夜は決心が着いた強い顔のような……

 優しい微笑み、全てを受け入れてくれた顔のような……

 ──少なくとも、俺と同じ気持ちを持っている、そんな顔をしていた。


「……はい。私も、私の好きなところが詰まってくれてる蓮さんが大好きです。これからも、よろしくお願い致します」


 そう言って小夜は俺を力強く抱きしめ、俺の肩に顔を埋めた。

 それを理解した瞬間、俺は嬉しさに涙を流して、小夜を抱き締め返したのだった。


 今までも、これからも。

 俺を見つけてくれる、学園の姫様と、ずっと一緒に……と胸に誓いながら。



〜第二章 Fin〜






【後書き】

 さーどです。第二章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 EP100だからっていう理由で文化祭を神速で進めてしまって申し訳ありません。

 さて早速明日からは、第三章を投稿したい…ところなのですが。


 本当は蓮と小夜がくっつくまでにしようとしてたので、アフターストーリー的な展開になります。

↑計画性が無さすぎる!?


 まあとりあえず、これからも毎日更新していこうとは思いますので、今後ともよろしくお願いします。

 …続くとしても、卒業までかなあ…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ほぼ存在しない俺を、学園の姫だけは見つける さーど @ThreeThird

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ