05
彼。
一瞬だけ、こちらを見て。
にこっと、笑う。
『そうだな。それもわるくないか』
「わるくないって。なにそれ」
『普段、普通に一緒にいたりするから告白の機会とかもないもんな』
「兄姉みたいな感じですし」
『それもそうだな。恋人でいるのは、そうだな。せっかくだから、告白するか』
「そんな軽い乗りでわたしに告白するんすか」
『雨水槽は?』
「そろそろ一杯です」
『そうだな。そうか。まあ、いいや』
「うん?」
『好きだぜ。いつも一緒にいられて、よかったと、思ってる。ありがとう。好きだったよ、お前のことが』
「死ぬみたいな言いかたですね。もっとそれっぽくお願いしますよ。結婚しようとか、そういう感じで」
『雨水槽は』
「一杯です。解放しますよ?」
『頼む』
「はい」
『解放したか?』
「はい。滞りなく。では告白の続きを」
『俺な。いま』
「はい」
『この前決まった監視カメラとのリンク設営のために、海沿いのケーブル設営所にいるんだ。ひとりで』
海沿いの。
ケーブル設営所。
『かなり海水位が上がってきててな。しかも追い討ちで、この大雨だ。さっき雨水槽も解放されたってことは、まあ、そういうことだ』
自分の身体から。血の気が。引いていくのがわかった。
「すぐに退避をっ」
『いや、お前が蕎麦食ってるときから、もう出れないぐらいに水位が上がってきてたんだ。窓の外がな。海水に埋まって綺麗でな』
だから、画面ではなく横を。見ていたのか。
「助けは」
『いらねえよ。いい人生だった。おまえにも、逢えたし』
「ばかいわないでくださいっ」
『雨水槽も解放されたんだから、俺は助からんだろう。監視カメラとのリンクは引き継いでくれ。ケーブル設営所は海水でも錆びない仕様だし、接続も終わってる』
「ばかっ」
『好きだったよ。ありがとう。じゃあな』
画面が。
青くなって。
消えた。
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