呼ぶ声
ツヨシ
第1話
先輩がいきなり「ドライブに行こう」と言い出した。
断るといろいろと面倒なので、俺は承諾した。
先輩の運転する車で二時間ほど走ると、何処かの駐車場に着いた。
車から降りると先輩は、建物とは反対方向の森へと向かう。
そこには木のチップを敷き詰めた遊歩道があった。
先輩はそこを歩き出し、俺も黙ってついて行った。
しばらくすると先輩が遊歩道を外れて、森へと入って行く。
俺は言った。
「どこ行くんです?」
「せっかく青木ヶ原の樹海に来たんだから、遊歩道歩いてもつまらんだろう」
ここが青木ヶ原の樹海であることを、俺は今知った。
なにかの看板はあったが、ろくに見ていなかった。
「なにかおもしろいものが見つかるかもしれんしな」
おもしろいもの。
俺の頭に最初に浮かんだのは、死体という言葉だった。
思わず足が止まったが、先輩はおかまいなしに進んでいく。
もう、ついて行くしかなかった。
一時間ほど歩いたが、死体はおろかなんだかの遺留品らしきものも何一つ見なかった。
ただの森だ。
「さすがに疲れたな。くそっ、もう帰るか」
不機嫌な先輩をしりめに、俺は内心ほっとした。
遊歩道に戻るのに二時間ちかくかかったが、もう帰れると思うと疲れも吹き飛ぶ。
そしてようやく駐車場が見えてきたと思ったとき、先輩が立ち止まった。
「どうしました?」
「呼んでいる」
先輩はそう言うと、森に入って行こうとした。
その姿に恐怖を感じた俺は、先輩の手をつかんで強引に車まで引っ張って行った。
車に着くと先輩は「あれっ、俺、どうじたんだ?」と言った。
「別に」と答えると、先輩は怪訝そうな顔ながら車に乗り込んだ。
それから数日後、先輩が消えた。
騒ぎはだんだん大きくなり、警察が動き、他県から両親も駆けつけてきた。
俺を含めて大勢の人が探したが、あれ以来先輩の姿を見た者は誰もいなかった。
終
呼ぶ声 ツヨシ @kunkunkonkon
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