第3話 ルナマリアを想う
ロベルトが王都の屋敷に帰宅すると、待ち構えていた母から向けられた期待の眼差しに苦笑して報告した。
「すみません、母上。やはりまたご期待には添えなかったようです」
ロベルトの言葉を聞いても落胆の色を出すことなくニコリと微笑むと母は頷いた。
「あらまぁ、でも仕方ないわね。才女と呼ばれているルナマリアにしたらあなたの言動の裏なんてお見通しでしょう。
領地の本邸から王都の屋敷に来たことであなたが王都貴族の考え方に染まってしまったのだもの。
そのせいでルナマリアから避けられてしまうようになったなんて……サマリアルドの伯爵様からそのことをお聞きした時には本当にもったいないことをしたものだと思ったわ。
早々とあなたを王都へ送り出した旦那様にも困ったこと」
「いえ、父上のせいではありません。私が王都の屋敷に来たいと我が儘を言ったから実現したことですし、実際こちらへ来て見聞きしたものや経験したことは沢山あり感謝するばかりです。
それに王都貴族の考え方に染まったと言われますが、貴族としての当たり前を早いうちから身に付けることは今後貴族社会で生き抜くためには良いことだったと私は考えていますよ」
「それはそうかもしれないけれど」
「それに、いつまでもルナマリアにこだわるつもりもありません。いくら才女と呼ばれているとしても、社交界への顔だしもせず学園でするべき交流も出来ていないようでは、今後困ったことになるかもしれませんしね」
ロベルトは母へというよりも自分へと言い聞かせるようにゆっくり考えを口にしたのだった。
そんなことを言いながらも寂しそうな息子の顔を見つめていた母は「そうね」と一言返すと、ロベルトに馬車移動の疲れを取るようにすすめると家人達にその指示を出した。
家人とともに自室へ向かうロベルトを見送りながら、どうやら息子の初恋が実ることはなかったようだと結論付けた。
「ルナマリアの才覚を利用したがる貴族は多いと聞くけれど、彼女を利用させまいとする貴族や豪商達の力の強さとネットワークのせいで近頃では新規加入は難しくなっているらしいわね」
後ろに控えていた執事に聞かせるように言うと肯定の返事があった。
「はい、旦那様は古くからあちらとのお付き合いがありますから、口利きして欲しいという内容の手紙が途切れることなく届いております」
「それらは?」
「はい、旦那様のご指示により、やんわりとお断りするお返事をさせていただいております」
「そうなるわよねぇ。はぁ、私もルナマリアちゃんを気に入っていたからお嫁さんに来て欲しかったのに残念だわ。
でも今度こそはと気合いを入れたエスコートの申し出を断られて来た傷心のロベルトには悪いけれど仕方ないわね。諦めましょう。
領地の旦那様の方は順調みたいですしね」
「はい。ルナマリア様の助言により一部の職種への援助を増やされたところ商品の質がはね上がったそうです。そして、それらを求めて領地を訪れる者が徐々に増えて来ているとか」
「まあまあ、それは素晴らしいわ!」
執事の話を聞き、声を上げて喜んでしまった母は息子を哀れんでいた気持ちが軽くなっことに少しの罪悪感を感じた。
それでもやはり領地が潤うことは嬉しい。
「ロベルトが破れた初恋から復活する方法を聞いたらルナマリアは教えてくれるかしら」
ボソッと呟いた声は主の奥方の後ろにいた執事の耳に届いていたが彼は聞こえなかった振りをした。
「奥様、そろそろロベルト様も降りていらっしゃるでしょうから食堂へ移動されてはいかがでしょうか。
料理長から良い食材が届いたと聞いておりますので楽しみになさってくださいませ」
「そうね。ふふっ。去年熱意に敗けて口利きして差し上げた海沿いにお住まいの方からの贈り物なのでしょう?」
「ご存知でしたか」
「もちろんよ」
ルナマリアの影響は本人が知らないところにも広がっているのだが、その本人の元にいつ幸せが訪れるのかを知るのは神のみか。
「母上には格好つけてこだわるつもりはないと言ったけど、本当はまだ彼女を諦めるつもりはないよ。ずっと見てきたんだからね。
貴族社会で生き抜くためにはしたたかさも大事だと父上から最初に教えてもらった。
ルナマリアに足りないところがあるとしても、私が助ければいいだけなのだから何も問題ないさ。とにかく彼女が気を緩める機会を逃さないようにするだけだ」
ロベルトは以前ルナマリアから貰った自分のイニシャルの刺繍が入ったハンカチーフを胸元のポケットから取り出し、左手の上に広げると力強く呟いた。
ルナマリア・・・才女の初恋? 金色の麦畑 @CHOROMATSU
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