第2話 才女ルナマリア

 ルナマリアは才色兼備と言う言葉通りの女性だった。

 幼い頃から父親の伯爵がどこへいくにも連れて歩き、子供には難しく、面白くもないのうな話の場にも参加していた。

 金髪碧眼で人形のような白い肌をして、静かに微笑みを浮かべて父親の脇に控えるルナマリアの様子を見て、幼かろうとも美しく落ち着いていている彼女の同席を拒否する者はいなかった。

 そうしてルナマリアは父親からどのように領地経営をするのかを幼少期から学び、人を知ることで父親が持つ人脈をそのままそっくり自分も使えるようになっていた。

 彼らと話をするようになると、家庭教師から学ぶ知識とは違う生きた知識を得ることが出来たため、成人前には既に父親の補佐として考え提案するようにもなっていた。

 ルナマリアの多角度からの視点には頭の固い大人達は驚かされ、そこから生まれた利益を喜んだ。

 やがて彼女の意見を聞くためだけに幾人もの人を介して屋敷を訪れる機会を伺う者も多くなった。


 そんなルナマリアには学園での授業など時間の無駄であると周りの大人達から声が上がったのは当然だった。

 彼女が学園に入ってしまったら今までのように意見を聞くことも顔を見に行くことも簡単には出来なくなる。

 彼女との会話を楽しみ、時には頼ることが多くなっていた大人達自身が困ることになるからだ。


 ルナマリアは学園が王都にあり全寮制と聞いていたので、そこでまた田舎者と謗る声を聞かずに済むことに安堵し大人達の後押しに大いに感謝して入学を辞退することにしたのだった。

 もちろんその要望は大人達のおかげですんなり通ったが、ルナマリアの持つ広い人脈の一人である学園長からは残念がる内容とともに気が変わったらいつでも入学を許可するとの手紙が届けられた。


 それはルナマリアが社交界デビューをする半年前のことだった。

 学園の入学式は年始の王宮舞踏会から半年後になるので、本来ならば年始の社交界デビューの準備と一年後の入学準備で忙しくなるところだったのだが、それらの煩わしさも回避することが出来てルナマリアは心底ホッとしていた。


 少ない友人達には学園ヘは共に通えないが休みの日には遊びに来て欲しいと連絡した。

 友人達からは残念がるとともに、学園へ通わずに済むルナマリアはさすがだと褒め称える内容の手紙が届いた。


 学園入学辞退が決まった時から二年になるが、ルナマリアは学園に通わない代わりに自習を自らに課し、父親の補佐をしながらの忙がしい日々を送っていた。


 実際のところ、ルナマリアが父親に付き添って訪れた先の大人達は競って新しい知識や情報を与えてくれるので、自習の時間にそれらの内容をまとめたり過去の事象と照らし合わせたりと知識の更新に急がしかった。

 そして新しく得た知識を別の場所で披露し、そこでさらに違う知識を得るという繰り返しがルナマリアをますます成長させていくのだった。


 もちろんルナマリアの持つ知識から生まれた直観からの提案の全てが上手くいくばかりではなかった。

 しかし、新しく事業を始めた者達からは逐一現況報告が送られてくる為、それらの内容を照査して、もし先行きに不安な要素を見つけた時には速やかに修正案を送り返すことで回避を促すことが出来ていた。

 こうした細かい対応がまたルナマリアという存在を知る者ぞ知る存在へと押し上げて行くのだった。


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