エピローグ

「音乃! 音乃は麦だったのか」

 彼女は僕の目を見て静かに笑い、

「今度は私が森を守るの」と言った。


 その言葉に乗って音乃がどこかに行きそうな気がして音乃の手を握った。

「音乃。君が好きだ。付き合ってくれないか」

 彼女は「付き合うだけでは嫌」そう言って、両手で僕の首を抱え込んだ。

「でも結婚なら破留、あなたとする」

 そう言って二人はキスをした。

「今日、大学を卒業したわ。私はこれから活動を全力展開して自分のすべきことをする。そして二年で理想を実現させるの。だから二年待って。そして想いが変わらず、共に活動ができるのなら、またここに来て」

 

 僕達は別れの言葉も再開の約束もせず、まるで2年の年月がすぐそこにあるかのようにうなずき合って僕はその家を後にした。


 大学が準備してくれたマイクロバスが里山に着いた。


 教授が言ったとおり、古民家や水脈などはそのまま残り、林の木々は枝を広げている。

 樹木は、夏は葉陰を作り、冬は葉が落ちて日差しを通すのだろう。


 僕はポケットの指輪を握りしめながら、三々五々集まった人々と、草に座り、樹に持たれる。


 音乃の振るタクトに合わせて、里山のコンサートが静かに始まった。




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彼女が愛したこの場所で 赤雪 妖 @0220

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