世界で団子を食いながら倒すは殿様!〔異世界ファンタジー〕

楠本恵士

全1話完結


 炭酸が入った、しょうが汁〔ジンジャーエール〕を飲みながら横断歩道を渡っていた高校生の俺は。

 軽い貨物車両〔軽トラック〕にはねられた拍子に次元の壁を、マンガのコマ割りをぶち抜くように、 何枚も破って越えてしまい。

 なぜか、和風な幻想〔ファンタジー〕世界に来てしまった。

「どこだ? ここは?」

 気づくと、和と西洋が入り交じった奇妙な世界だった。

 チョンマゲ頭で甲冑姿の騎士や、尺八を吹く虚無僧姿に長めの袖無し外套〔マント〕と革の長靴〔ブーツ〕を履いた魔術師が問屋街の大通りを歩いている世界に俺は立っていた。

 龍〔ドラゴン〕が引く大八車や、天狗や河童や鬼が平然と歩いているのが奇妙だった。どうやら、この世界では鬼は全部が悪い鬼ではなく良い鬼もいて銃や刀で滅されないらしい。


 当然、この飛ばされた世界で使用できる紙幣や硬貨を持ち合わせていない俺が、これからどうしょうか考える。

「やっぱり、宿泊施設と飯屋を兼ねた登録制の職業斡旋所〔ギルド〕に行くのが、妥当な流れだよな………あれ? なんか脇腹が痛い? あっ、肋骨折れている」

 俺は痛む脇を押さえて

うずくまる。

(軽い貨物車両に弾き飛ばされて、何枚も枠線みたいなの突き破ったからな……あの時に折れたのか………すごく痛い)


 俺の頭の中に『これで終わり〔ジ・エンド〕』の言葉が浮かぶ。

(そう言えばなんで俺、この世界に来てから英語や外来語を、無意識に避けているんだろう? カステラ、イクラ。

あれ? 普通に言葉が出てくる?)

 俺がそんなコトを考えていると、魔女のとんがり帽子を被り、魔法の杖を持った短い裾〔ミニスカート〕の和服姿をした町娘が現れて俺に話しかけてきた。


「大丈夫ですか? 変わった服装ですが、異国からの旅人ですか? ケガをしているみたいですね………ちょっと、あたしにケガをした患部を診察させてください。これでも小石川養生所で医術を学んだ魔法使いなんですよ」

 そう言うと医者で魔法使いの町娘は、俺のうっ血した脇腹の患部を接診して言った。

「骨が折れていますね……今回は無料で治療しますね、痛いけれど速効で折れた骨が繋がる魔法の治療と、痛くないけれど臭い塗り薬で治るのに数日かかる治療──どちらの治療を望みますか」

「できるなら、痛くない治療を」

「わかりました」


 町娘は俺の脇腹に、物凄く臭い緑色の塗り薬を塗って治療した。

 治療が終わった町娘が言った。

「これで良しと、OKです……あっ!? しまった!」

 いきなり、町娘の頭がパアァァンと弾けて。血の雨〔ブラッドレイン〕が俺の頭上に降り注ぐ、

頭が無くなった町娘の胴体は前のめりに倒れる。


 動揺する俺。

(なんだ? いったい何が起こったんだ!)

 通りの問屋の柱に背もたれて腕組みをして、こちらを見ていた忍者のような格好をした男が言った。

「英語や英語圏の外来語を口にすると、この世界では頭が爆発する呪いの法則が発動するでござるよ………いわゆる、トラ」

 忍者は慌てて口元を押さえて言い直す。

「罠〔トラップ〕が発動するのでござる………お主も注意するでござる、どうでござるか拙者と一緒に、この世界を支配している殿様を倒してみるでござるか? お主のような異世界から来た者を一人以上加えないと、クエ………冒険の旅〔クエスト〕の、パー………宴会の仲間〔パーティー〕を組めない決まりがあるでござる、お主に殿様を倒す意志があるなら。

そこのギ………宿泊施設と飯屋を兼ねた登録制の職業斡旋所〔ギルド〕で、職業登録をして宴会の仲間〔パーティー〕を集めるでござる」


 異世界に飛ばされてきて、どうするか困っていた俺は忍者と一緒に悪い殿様退治をするコトにした。

 宿泊施設と飯屋を兼ねた登録制の職業斡旋所〔ギルド〕の、登録受付には花魁(おいらん)が 高分子樹脂繊維〔ビニール〕の仕切り越しに座って受付をしていた。

 俺の技能〔スキル〕職種適性検査の結果、俺の仕事は『風来坊』に決定した。

 花魁が言った。

「宴会の仲間〔パーティー〕は、そこの壁に貼ってある。

仲間募集の張り紙を見て直接勧誘するか、行動を共にする集団〔チーム〕で募集して集めてください………与えられたミッション〔任務や使命〕が成功すると、報酬が………あっ!!」

 花魁の頭がパアァァンと弾けて、高分子樹脂繊維の薄くて広いもの〔ビニールシート〕に血が飛び散った。


 俺たちの宴会仲間〔パーティー〕は、もう一人──渡世人みたいな剣士が加わった。

「おひけぇなすって、手前を仲間に加えてほしいでござんす。民衆を苦しめている殿様は許しちゃおけねぇ」

 こうして、術を使う忍者、剣士の渡世人、風来坊の俺の男三人だけの宴会仲間〔パーティー〕は、殿様退治の旅に出た。


──いろいろな出来事が起こる旅の前半内容は、面倒くさいので省略──


 俺たちは、尖った横耳の等身妖精〔エルフ〕の村に旅の途中に立ち寄って、この地域一帯を支配している殿様の情報を入手するコトにした。

 尖った横耳の等身妖精たちの近くには、虫のような羽が生えた小さな妖精〔フェアリー〕が飛び回っている。

 殿様の情報を入手した俺は、ついでに虫のような羽が生えた小さな妖精と、尖った横耳の等身妖精の呼び方の違いを和装の長老に質問してみた。

「そうじゃのぅ……羽が生えたフェアリーとの違いは……あっ!」

 パアァァン。


──いろいろな出来事が起こる旅の後半内容は、面倒くさいので省略──


 ついに、俺たちは殿様の城に到着して殿様との対決場面を迎えた。

 殿様が俺たち、宴会の仲間に向かって言った。

「ちょこざいな、譜代(ふだい)大名の儂に逆らうとは身の程知らずが、返り討ちにしてくれるわ!」


 殿様の前方には、二足歩行する豚の頭をした醜悪な化け物〔オーク〕の部下たちが。

「ぶいっぶいっ」鳴きながら武器を手に立っている。

 さすがに最後の大将〔ラスボス〕の殿様は強かった。

 俺も体力回復の団子を食べながら殿様に挑んだけれど、簡単にやられて今は石の床に倒れボロボロになって。

 力つきた宴会仲間の忍者と渡世人と一緒に、どうするコトもできずに殿様を眺めていた。


 殿様が頭上にかかげた両手には、超巨大な精力・活力〔エネルギー〕の塊があった。

 勝利を確信した殿様が、得意気に必殺技の名を叫ぶ。

「くらえ! 骨まで燃えつきろ! ペタ(ギリシャ語単位)死の地獄の業火球体〔デス・ヘルファイヤーボール〕! わはははは! これで、ラストだ! あっ………」

 パアァァン。


 頭が吹っ飛んだ殿様の手から床に落ちた、ペタ死の地獄の球体〔デス・ヘルファイヤーボール〕の炎で二足歩行する豚の頭をした醜悪な化け物〔オーク〕の断末魔の悲鳴が、殿様の城に響き渡る──焼き豚のいい香りが漂ってきた。

「ぷひぃぃ!」

「ぶいぃぃ!」


 拳を握りしめた俺は、勝利の形〔ガッツボーズ〕をして思わず叫んだ。

「自滅した、やったぁ、ラッキー! あっ………」

 パアァァン。


~おわり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界で団子を食いながら倒すは殿様!〔異世界ファンタジー〕 楠本恵士 @67853-_-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ