序章
ただ、転んだだけだ。それなのに、どうしようもないほどに
「ふぇっ……。うぅ……っ……。いたいよぉ……」
膝には細い布が巻かれており、ほんの少し苦い
ぽろぽろと
「でも、お薬を塗っておかないと、治るものも治らなくなってしまうの。痛いのは今だけだから……」
そんな母の言葉に、小春はふるふると頭を横に
「いたいの、やだっ……。いたいもんっ……」
「……それじゃあ、小春におまじないをかけてあげましょうか」
「うぅっ……ひっく……。……おまじ、ない?」
それがどのようなものなのか、よく分からなかった小春は首をこてん、と
「そうよ。痛いのが消える、秘密のおまじない」
母は
「──玉の
何と言っているのかは、分からない。それでも母が小春のためを思って、膝を優しく撫でてくれることが
「……どうかしら。痛いのは消えた?」
膝を撫でていた手をゆっくりと下ろしてから、母は目を細めつつ、小春に
いつの間にか、膝の痛みが消えてしまっていたことに
「……あっ! いたいの、ない……。かあさま、すごいねっ! いたいの、ないよ!」
小春が
「それなら、良かったわ。……痛いことや苦しいことから、助けるのが母様のお仕事だもの」
「おしごと……?」
「そうよ。母様は
ふふっ、と笑ってから母は小春を
……くすし。いたいのからたすける、おしごと。……あたたかくて、やさしいこと。
膝が痛い時は不安でいっぱいだったのに、母が「お仕事」をした後は、温かな
自分も母のように、人に温かいものを
小春は自分を抱きしめている母を見上げて、ぽつりと
「小春も、かあさまみたいに、なりたいなぁ」
母がゆっくりと視線を小春へと向けてくる。丸い瞳には自分の姿が映っていた。
「……あら、小春も医師になりたいの?」
母の問いかけに小春は小さく頷き返す。すると母は困ったような、嬉しいような、不思議な表情を浮かべてから、小春の頭をそっと触れるように撫でた。その
少しずつ
「それなら母様もお手伝いしないといけないわね。……小春が
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